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【市況】武者陵司「ポストコロナ世界経済回復視野に、日本株が再度注目スポットに」

武者陵司(株式会社武者リサーチ代表)

●米国で進行するセクターローテーション、先駆株の調整

 ナスダック、フィラデルフィア半導体株指数などの急ピッチの調整が起き、先週(5月10日~14日)世界株式のセルオフが勃発。 日経平均株価は5月11日、12日、13日の3日間で2300円、7.7%の暴落となり、年初水準の2万7358円まで低下。年初来の値上がり(昨年末比11.9%上昇)をすべて吐き出した。もっとも、SQ明けの14日(金)には636円高となった。

 この間、米国株式は、S&P500やダウ工業株30種の下落は高値から4.4%にとどまり、週末の13日、14日には下落幅の半分以上が取り戻されている。本格的な調整が始まったわけではなかったようである。過去1年間の市場を先導したインターネットプラットフォーマーや 半導体などハイテクセクターの調整が、長期金利の上昇とインフレ懸念を契機に起きたという、テクニカルな側面が強いと思われる。コロナ後の米国株価上昇を牽引したコアハイテク株(いわゆるグロース株)は2月以降調整が続いている。しかし、他方で景気回復を期待した景気敏感セクター(資源、運輸、金融、素材)は上昇率が加速しており、リード役の交代により株式市場全体は上昇基調を続けているといえる。

●FRBの示唆、投機色強いがバブルではない

 ゲームストップに絡んだ個人投資家アプリ、ロビンフッドを巡る投機と株価乱高下、ファミリーファンドのアルケゴスの破綻と金融機関の巨額損失、仮想通貨の急騰劇など、市場が投機化している兆候はそこここに見られる。

 FRBは5月6日に金融安定性レポート(Financial Stability Report)を発表し、景気回復、投資意欲が高まる中、オンライン取引による個人投資家の台頭、ヘッジファンドの資金調達を巡る不透明性など、資産価格に関してリスクが増大しているとの認識を示した(ただ、株式PERは22倍と過去最高レベルにあるが、益回りと10年国債利回りの差yield spread[イールドスプレッド]は5%とほぼ過去平均値にあると指摘、バブル化していないと暗示している)。また、米ダラス地区連銀のカプラン総裁は経済の回復ペースの予想以上の速まり、市場の不均衡の高まりにより早めに金融緩和縮小の議論を始めるべきと述べた。こうしたFRBからのリスクシグナルも(意図的かどうかは不明だが)、市場の投機にブレーキをかけたものと見られる。

●乱気流に巻き込まれた日本株

 日本株は2月16日に日経平均株価3万0700円とバブル後の最高値を付けて以降、ほぼ3カ月にわたって低迷し、この間の下落率は10%と台湾と並び世界最大になった。日本の新型コロナ対応の稚拙さ、意気消沈する国民世論を見るとそれも当然とも思えてくるが、日本株のパフォーマンスの悪さは、主に需給要因によるものであろう。

 GPIFなど国内の年金マネーは、昨年来の株価急騰により株式比率が急速に高まり、リバランスのための株式売却を迫られていた。年金売りと見られる信託銀行の株式純売却は2月、3月、4月第1週の累計で2.5兆円に達した。その地合いの悪さに加えて、日銀の日経平均連動ETFの購入停止などが打ち出され、投機筋の餌食にされてしまった。日本株は再度、世界で最も投機的な市場に逆戻りしたわけだが、それは2020年11月~2021年2月に実現した世界最速の値上がり(3カ月強で32%の値上がり)が求める相応の日柄および値幅調整であったともいえる。

 4月第2週以降、年金売りの一巡に加え、下落を待っていた個人投資家の大幅買い越しが目立っている。国内勢の買いに日本株をアンダーウエイトしてきた海外勢も同調すると思われ、再度日本株式のキャッチアップラリーがみられるのではないか。

 投資対象としての日経平均に疑問が投げかけられている。日銀の日経平均連動ETF購入停止、特定銘柄の過度の影響力(バンドワゴン効果)を減殺するための日経平均計算方法変更の検討などにより、日経平均売り・TOPIX買いのポジションが人気になっている。

 しかし、日本株ETFの主流が日経平均であることに変わりはないだろう。 TOPIXも東証の市場改革でどうなるかは不透明、日本株式を先物やオプションなどでトレードする場合、やはり日経平均が主流とならざるを得ないだろう。今後予想されるインデックス主体の日本株買いに際しては、再び日経平均に資金流入が起きると思われる。

●EPS急伸、日本株PER急低下、今年一番の買い場に

 日本株は製造業の割合が5割と高く、世界的景気回復の恩恵を最も強く受ける国の一つと言える。特に、このところの世界景気回復を背景にした商品市況ブーム、および 円安が上方修正要因になってこよう。3月日銀短観の際の前提為替レートは対ドル106円、対ユーロ122円であり、この前提が円安にシフトすれば、相当の増益要因になる。3月末以降、5月14日までに日経平均のEPSは1300円から1950円へとほぼ5割上昇しており(ソフトバンクグループ <9984> の投資評価益の寄与が大きいが)、10%の株価下落によりPERは23倍から14倍台に急低下、割安感が強まっている。今年一番の買い場が訪れているのかもしれない。

●円安トレンドが定着するか

 2021年以降の日本経済と株式を展望するうえで、円安トレンドが定着するかが重要である。円安こそ日本のデフレ脱却を決定的にし、日本経済を停滞から脱出させる切り札だからである。そして、その可能性は大きくなっている。

 米中対決が決定的になる中で、現代の石油ともいえる半導体およびハイテク機器の供給を韓国、台湾、中国の3カ国にほぼ全面的に依存していることが、米国はじめ自由主義諸国にとって大きなリスクとなっている。韓台中は米中敵対時代においては、潜在的係争地であり、ひとたび騒擾が起きればハイテク製品の供給が遮断される。この3カ国に対するハイテク生産依存を変えないことには、中国と事を構えることもできない。

●グローバル・サプライチェーン再構築の受益者日本

 どうすればこの3カ国依存のハイテクサプライチェーンを変えられるか。そのカギは為替にあると言っていいだろう。なぜ、こんなことになったのかだが、遠因は米国による日本叩き、超円高が韓台中の競争力を過度に高めてしまったことにある。安全なハイテクサプライチェーンを再構築するには、半導体などハイテク生産を米国および東アジアの中での安全地帯、日本に回帰させることが必要である。米国など自由経済圏諸国にとっては、対円および対ドルで韓国ウォン高、台湾ドル高、人民元高が望まれるところである。

●韓台中の貿易黒字バブル、いずれ通貨高で解消に向かおう

 他方、韓国・台湾・中国の3カ国においても、自国通貨高を余儀なくされる事情がある。産業競争力が強いのに割安な通貨水準が維持されてきたため、大幅な貿易黒字が積み上がり、それが不動産バブルを引き起こしている。バブル崩壊前、1980年代の日本と類似している情勢といえる。

 本来、大幅な黒字(=余剰貯蓄)を使って内需振興を図ることが望ましいが、消費は低迷し余剰資金がもっぱら不動産に向かっている。結局、韓台中3カ国は1980~1990年代の日本と同様に、バブル抑制のために金利を上げ、その結果、自国通貨高を甘受することになるだろう。それはとりもなおさず円安進行ということになる。

 年初来、円独歩安の様相である。ことに貿易市場で競争している、韓国ウォン、台湾ドル、人民元のいずれに対しても2020年の高値から15%前後の下落になり、対米での8%の下落を大きく下回っている。その背景には、地政学的要因も影響しているのではないか。

●2021~22年、企業利益急伸は見えている

 これが定着すると、日本を痛めつけた円高デフレの悪循環が完全に終わり、円安インフレの好循環が始まる。日本経済の風景は一変する。日本の物価は一段と安くなり、製造業・観光業の競争力が高まる。ポストコロナでは割安で魅力度を増した日本に、アジア人観光客が殺到する。ポストコロナの輪郭がはっきりする秋口には、日本企業利益率の急伸が展望できるだろう。

(2021年5月18日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン281号」を転載)

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