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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―動揺する株式市場―

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第58回 動揺する株式市場

●インド変異株の脅威

 NYダウ平均が3万5000ドルの大台を突破したのは5月10日のことです。米国株価は堅調推移を維持しています。一方、かつては米国株価に連動していた日経平均株価にさえない動きが見られます。5月13日にはザラ場で2万7385円の安値を記録しました。2月16日の高値3万714円から3329円幅、10.8%の下落になりました。

 こうしたなかで、コロナ・パンデミックに重要な変化が観察されています。ワクチン接種の進行した国で感染減少が観察されているのです。それでも、手放しの楽観はできません。インドでは感染収束の判断に伴って行動抑制が解放され、急激な感染再拡大に見舞われてしまいました。インド変異株の感染力と毒性が警戒されています。とりわけ、L452R変異株のリスクが指摘されています。L452R変異株は日本人の6割が保持すると見られるHLA-A24白血球抗原をすり抜けてしまうと指摘されているのです。

 東アジアのコロナ被害を軽微にしてきたファクターXが無効化されるとの懸念が浮上しています。これまで感染が抑止されていたモンゴルで感染が急拡大しています。日本ではワクチン接種が進展していないため、感染の中核がN501Y変異株からL452R変異株に置き換わると、感染爆発が生じるのではないかと心配されています。

 ただ、一方で、世界の感染第4波はデータの上ではピークアウトの気配を示しています。世界の感染波動は同期する特徴があり、日本にも感染減少の波動が到来するのか。見極めが重要な局面を迎えています。

●五輪のゆくえ

 菅内閣は4月25日に緊急事態宣言の再発出に追い込まれました。3月21日に前回の緊急事態宣言解除を強行したことが間違いのもとでした。感染を十分に抑制してから規制を緩めないと容易に再拡大してしまいます。また、緊急事態宣言を一部地域に発出すると、その地域から他地域への人流が拡大し、逆に感染を全国的に広げてしまいます。GW(ゴールデンウイーク)は5月2日をピークに人流が激増しました。自動車による移動は3月26日のピーク水準をはるかに上回りました。

 N501YやL452Rなどの感染力の強いウイルスが感染の中核に置き換わると、想定を超える感染爆発が生じることも考えられます。五輪行事の遂行を強行しながらの感染抑制策では人々の気合いが入りません。人流は昨年5月の水準をはるかに上回って推移しています。

 IOC(国際オリンピック委員会)と菅内閣は東京五輪開催を強行する構えを崩していません。五輪を開催する場合、10万人規模の外国人が入国することが想定されています。世界各地から新種の変異株が持ち込まれ変異株見本市の様相を呈する恐れがあります。

 五輪中止も経済に打撃を与えますが、五輪実施が感染再拡大をもたらすことも経済に重大な打撃を与えることになるでしょう。早期に五輪中止の決断が示されることが日本経済・社会にとっては、現状でのベストシナリオだと思われますが、最終的な着地が読めない状況が続いています。

●金融市場変動の変化

 こうしたなかで金融市場では特筆すべき変化が観察されています。5つの重要変化を挙げておきたいと思います。

 第1は資源価格が堅調な推移を示していることです。原油価格はコロナショックの際に一時、マイナスの先物価格を示現しましたが、現在は1バレル=60ドル台を維持しています。米国最大のパイプラインがサイバー攻撃を受けたことも影響しています。

 第2は、これと連動することなのですが、カナダやオーストラリアなどの資源国の通貨が堅調に推移していることです。日本円は全体的に弱含み推移ですので、外貨運用の良好な環境が形成されています。

 第3はこれまでの株価高騰を牽引してきたハイテクセクターの株価に翳(かげ)りが見られ始めていることです。NYダウや日経平均に比べてナスダック総合指数マザーズ指数の下落が目立つようになっています。コロナ・パンデミックの収束期待はコロナ・パンデミックを追い風とする活況セクターにとって逆風になる可能性が想定され始めています。

 第4はこれと逆の側面になりますが、世界経済の改善に伴う業績回復が見込まれるセクターの株価が堅調さを強め始めていることです。株式市場における主役交代が演じられるかもしれません。

 第5は、こうしたなかでしばらく停滞色を強めていた中国市場に調整完了の気配が漂い始めたことです。かつての世界同時株価変動とはかなり色彩の異なる市場変動が観察されるようになっています。

●米国金融政策に焦点

 為替市場で日本円が弱含み傾向を示している裏側に、米ドル、欧州通貨、資源国通貨の堅調があります。その米ドルに最も強い影響を与えるのが米国長期金利の動向です。この米金利が昨年秋以降に上昇傾向に転じました。

 コロナショックを受けてFRBは昨年3月に一気にゼロ金利政策に突き進みました。トランプ前大統領の巨大財政政策策定とパウエルFRB議長の果断な金融緩和措置が米国株価、ひいては世界株価の急反発を主導したと言ってもよいでしょう。そのなかで、FRBは超金融緩和政策を今後も長期間維持する方針を繰り返し表明してきました。米国株価に調整の兆候が生じると、すかさずFRBが金融緩和措置堅持の方針を示し、株価が支えられることが繰り返されてきたのです。

 ところが、この構図に大きな変化が見られ始めています。FRBの金融緩和政策維持の方針表明が、逆に米国長期金利の上昇を誘発する変化が観察されているのです。資源価格の上昇傾向を指摘しましたが、これは米国のインフレ率を押し上げる要因になります。

 個人消費支出(PCE)価格指数の上昇率が前年比で2%を超えてきました。こうなると超金融緩和政策維持の一点張りは、逆にリスクファクターとして捉えられることになります。6月15~16日の次回FOMCに対する関心が日増しに強まる展開が想定されます。

(2021年5月14日記/次回は5月29日配信予定)


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