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【市況】武者陵司 「中国の爆投資が引き起こすハイテクブーム、受益者は日本」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

―世界は日本のハイテクニッチの活躍に瞠目する!―

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

●世界覇権に挑戦する中国、自転車操業投資の継続が必須

 5年に一度の党大会が終わり、習近平率いる中国は世界覇権を奪取する野望を隠さなくなった。過去10年の名目成長率(中国9%、米国4%)が続けば、2026年には経済規模において米中逆転が起き、習近平の戦略目標の第一歩がまず達成される。

 しかし、貿易黒字が急減する中で、GDPの5割を投資に依存する中国が成長を続けるには屋上屋を重ねても投資を増加させ続けるしかない。成長が止まれば不良債権問題が一気に噴出し、経済と体制の危機を招くことは必至である。走っている自転車はこぎ続けるしかない。不動産投資も重厚長大産業の設備投資ももはや息切れ、今は財政によるインフラ投資による片肺飛行が続く。

●ブレイクスルーをハイテクの爆投資で

 突破口は技術革新が急進展するハイテク分野での爆投資で世界シェアを席巻することである。半導体・液晶などのハイテクは、収穫逓増(規模の経済)が最も働く分野なので、金に糸目をつけない投資を続ければ必ず勝てる。米国が日本に負けたのも、日本が韓国・台湾に負けたのも究極の原因はそれである。

 ハイテク爆投資は中国にとって一石二鳥である。新たに莫大な投資需要を創造し、返す刀で世界シェアをもぎ取る。2000年世界シェア10%であった中国の粗鋼生産は10年後に5割に達し世界市場を支配したが、規模の経済がより働くハイテクはもっと容易にシェア奪取が可能である。

 とはいえ、半導体・液晶では今の中国にとって器は小さすぎる。EV用バッテリーロボットAIFA、「中国製造2025」に掲げられた全ハイテク分野で爆投資が始まっている。中国が仕掛ける投資が引き金になり、各国、各企業が投資競争の波にのまれつつある。これは日本にとってチャンスである。

●日本のハイテクニッチ・基盤・周辺技術分野に大きな順風が

 日本には世界的ハイテク株ブームをけん引するメガプレーヤーが不在だが、メガプレーヤーを支える基盤技術、周辺技術の圧倒的部分を日本が担っているのも事実である。この基盤・周辺分野は一つ一つの商品分野はニッチ・小規模であるが、価格競争が及びにくく技術優位と価格支配力が維持しやすい分野である。

 国際分業において日本がハイテク・ニッチ・ハード部門でプレゼンスを築いたことが、日本の企業収益回復に圧倒的に寄与している。日本のハイテク製造業は大企業であっても多数のニッチ基盤、周辺技術分野に特化しているのである。

 このことを尊敬するあるハイテイクアナリストに聞いたところ以下のようなコメントが返ってきた。「おっしゃる通りだと思います。半導体・液晶装置や自動化のための工作機械ロボットが高原状態です。また、中国はEVの国産化を目指し地場完成車・電池メーカーの優遇策を実施していますが、電池の材料は高品質の日本製シフトが今後進みそうです。モーターも日本電産 <6594> が虎視眈々と中国EVを狙っているようですので、中国輸入における韓国・台湾から日本へのシフトは加速していくと思います。先ほどモーターショーのプレスデーに参加しましたが、一見地味な展示が多かったですが、AI自動運転などの展示が多く、自動車メーカー、電機メーカー、部品・材料メーカー、IT企業のすべてを持っている日本の強みが生かせる時代の到来を感じました。」

●価格競争から技術品質の差別化に

 日本企業はかつて高い価格競争力により、世界のハイテク製造業市場を席巻したが、貿易摩擦・円高と、韓国・台湾・中国などの台頭によりそのプレゼンスを奪われた。今やハイテクのグローバルメガプレーヤーは、米国、中国のインターネットプラットフォーマーとアジアのメガハードウェア企業(韓国サムスン電子、台湾TSMC、鴻海精密工業、中国のファーウェイ=華為技術など)と、米国以外では韓・台・中国企業に占められ、日本企業は全く埒外となってしまった。ここしばらく、世界的ハイテク株ブームにメガプレーヤーを欠く日本株が取り残されてきたのは、当然と言えるかもしれない。

 しかし、日本企業は価格競争から抜け出し(敗退し!)、技術、品質優位のニッチ分野に特化することで収益回復を果たしている。それはどのような分野なのか、一つの例としてエレクトロニクス分野を取り上げる。日本はデジタルの中枢である半導体や液晶テレビ、スマホ、パソコンなどの最終製品で完敗したが、それは完全に価格競争で太刀打ちできなかったからである。

 では、デジタル中枢でプレゼンスを失った日本が一体どこで生き延びているかと言えば、それはデジタル(脳)が機能するためのインターフェース、つまりインプットインターフェースとしてのセンサー(目、耳、鼻、舌など)、アウトプットインターフェースとしてのアクチュエーター(いわば筋肉、例えばモーター)である。またデジタル中枢製品のための素材・部品・装置などである。

 ここでは多様な技術的差別化が求められ、素材や仕組みなどを駆使して日本の得意分野である擦り合わせが有効に働く分野である。日本企業はこうしたポジションにシフトすることで、価格競争から脱して技術や品質の優位な分野にビジネスモデルを特化させている。このビジネスモデルはおそらくサービス業やその他の分野においても当てはまることであり、ここに日本の強みがあると言える。この先インターネットがさらに普及し、人間の自由な活動を引き起こす。そこで求められるものはより高い品質・技術の財・サービスであり、それらの提供に日本企業は強みを持っている。

●市場がこれから織り込む日本の優越性

 日経平均は9~10月にかけて史上初の16連騰を達成した。(1)世界同時好況・世界株高、(2)過去最高の日本企業収益、(3)国内経済の回復、という株高3条件に支えられている。世界最低の低バリュエーション、リスクテイク促進に対する政策支援もある。

 日本株を買わない理由が見当たらなくなっている。年末から2018年にかけて壮大なアベノミクス相場第二弾が始まったと考えられるのではないか。ハイテクメガプレーヤー不在の故に日本株を軽視してきた世界投資家は、ニッチプレーヤーの活躍を目の当たりにし日本株を見直すだろう。


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