燃え上がる「量子コンピューター」関連買い、次なる変貌候補は <うわさの株チャンネル>
日経平均株価は目先戻り売り圧力をこなし2万円大台固めの動きにある。国内企業業績は好調で為替相場もひと頃の円高警戒ムードが緩んでおり、投資家心理は改善傾向にある。とりわけ今の東京株式市場は、中小型株のテーマ買いの動きが波状的に押し寄せていることから、個人投資家の目には魅力的な地合いに映っているのではないか。これは実際、相場と対峙せずに全体指数の動きをみているだけでは見えにくい部分だが、現場の声を聞く限り「今は極めてボラティリティの高さを実感できる相場つき」(中堅証券営業部)なのである。
●「01」の概念を突破して開かれた究極の世界
そのなかで、にわかにスポットライトが当たっている物色テーマに「量子コンピューター関連 」がある。量子コンピューターはこれまでのコンピューターの基本コンセプトである「01」の世界から離れ、量子力学的な重ね合わせにより、極微の世界で起こり得る物理現象を活用して並列コンピューティングを実現させるというもの。スーパーコンピューターですら何千年も要する演算をわずか数時間で完結するという性能は、素人感覚的には信じがたいが、米国では既にグーグルやロッキード・マーチン、NASAで活用されるなど動きをみせている。この先駆する米国を追う形で、世界は開発競争に向け疾走を始めた。
あらゆる産業革命につながる人工知能(AI)分野においても量子コンピューターの存在がその“飛躍距離”を驚異的に伸ばす可能性がある。日本では文部科学省が実用化に向け来年度に32億円、10年規模で300億円超の予算を投じる方針が伝わっているが、米国では年間220億円、英国では5年で500億円規模、EUでは10年間で1300億円の投資を打ち出している状況にあり、日本でも今後さらに予算が上積みされる可能性がある。
こうした背景をもとに東京株式市場でも関連銘柄に資金が向かい始めた。対象銘柄がまだあまり絞り切れていないこともあって、人気化する銘柄も今のところ単発的だが、ひとたび投機資金が流入するとまさに燎原の火のごとし、凄まじいまでの上昇パフォーマンスを演じる。株価は基本的に企業のファンダメンタルズを反映するが、至近距離で凝視するだけでは相場の醍醐味は味わえない。本質を知るためには、あえて離れて全貌を眺め、夢を思い描く時間軸を持つことが大化け株発掘の条件となる。量子コンピューターはその相場の究極を味わう条件を満たすだけのインパクトを十分に持っている。
●先駆大化けのNF回路に続く銘柄は
先んじて株価を“大駆け”させたエヌエフ回路設計ブロック <6864> [JQ]はその象徴株といってよさそうだ。同社は量子コンピューター向けに微小信号測定器などのデバイスを提供、これを手掛かりとして一気に投資マネーの流入を誘い、9月14日に1300円台にあった株価は27日の取引時間中に2600円まで上昇、立会日数にして8日間であっという間に時価総額を倍増させた。
圧巻だったのは、増担保規制がかかった26日に一時400円以上の上昇(大引けは343円高)と信用取引面で売買自由度が失われたにもかかわらず上げ足を加速させたこと。この日、松井証券店内では「1日信用取引を活用した個人投資家の参戦意欲が凄く、任天堂 <7974> やソフトバンクグループ <9984> などに交じって(NF回路は)売買代金上位に食い込んでいる」(松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏)という。同社株のこの人気ぶりは、量子コンピューター関連が簡単にマネーゲームと斬って捨てるほど底の浅い相場ではないことを暗示している。
窪田氏は「直近では東京大学の古沢明教授の研究チームが量子コンピューターを1回路で計算する手法を開発したことが伝わり、株式市場でも人気が増幅された感がある。市場規模とかそういう具体的なシナリオは見えなくても、投資家の心に響く“新鮮なテーマ”であることが好まれているのではないか」と指摘する。
●Fスターズ、YKT、ラッド、ユビキタスが輝く
NF回路と同じ先頭集団を走る銘柄にフィックスターズ <3687> がある。同社は金融機関向けなどを中心に顧客のシステムを高速化させるソフト開発を手掛けるが、世界で初めて量子コンピューター商用化に成功したカナダのDウェーブ社と提携関係にあることが材料視されている。また、直近では早稲田大学高等研究所と量子コンピューティング周辺技術の普及に寄与する、イジングモデル型情報処理デバイスの高速化に関して共同研究契約を締結したことも株価を刺激している。
さらに同テーマ買いの流れの中では後発組ながら、売買高を急増させ、3日連続ストップ高と強烈な上げ足をみせているのがYKT <2693> [JQ]だ。工作機械や半導体実装装置などを取り扱う電子機器商社だが、同社の完全子会社で産業用レーザーや光センサー向け先端技術部品を取り扱うサンインスツルメントが、量子コンピューター関連機器も扱っていることが人気に火をつけた。サンインスツルメントでは「量子コンピューター関連する部門は研究機関や大学向けなどが中心で安定的な売り上げを確保している」としており、官民を挙げて同分野が深耕されていくなかで、中期的な追い風が意識されている。
このほか、産業用コンピューターで世界トップシェアを有する台湾のアドバンテック社とインダストリアルIoT分野におけるソリューション販売で協業関係にある日本ラッド <4736> [JQ]や、グループ会社が米オンボード・セキュリティと量子コンピューター向け公開鍵暗号技術(NTRU)の国内販売総代理店契約を締結しているユビキタス <3858> [JQ]などが急速人気化の経緯をたどっており、マーケットの耳目を驚かせている状況だ。
●国防的な感覚で予算増額の可能性も
個人投資家からの支持が厚いSBI証券の投資調査部シニア・マーケットアドバイザーの雨宮京子氏は今の“量子コンピューター人気”について「技術革新の波は常に相場にとって大好物だ。とくにこのテーマは、今はその全貌が見えなくてもスケールの大きさを(投資家に)感じさせているのではないか。現在言われている自動運転分野や医療分野だけでなく、働き方改革や人手不足解消といった社会構造的な問題でも思わぬ“解”を導き出す可能性がある」としている。
また、同時に量子コンピューターは十分に日本の技術力で先行できるテリトリーであり、「世界初の商用化に成功したカナダのDウェーブ社も日本の技術者の力を借りていると聞く。国防的な感覚で量子コンピューター分野の予算は今後増額されていくのではないか」(雨宮氏)としている。
●富士通系銘柄に広がる上値の可能性
では、ここから量子コンピューター関連として注目される個別銘柄は何か。一つの大きなヒントとなるのが、グループを挙げての「選択と集中」に舵を切っている富士通 <6702> が同分野に極めて野心的に取り組んでいることだ。同社のグループ企業で量子コンピューター実用化により恩恵を受ける銘柄は、例えば電子機器メーカーでユビキタス・ネットワークやバイオメトリクス承認技術を展開する富士通フロンテック <6945> [東証2]が挙げられる。時価は1991年以来26年ぶりの高値圏にあり、実質青空圏を舞う展開で一段の上値が期待される。
また、富士通が9%の大株主で、通信ネットワークや情報システムの企画・設計など情報ネットワークソリューションを展開している都築電気 <8157> [東証2]は富士通との関係強化の方向にあり注目される。医療・介護事業者向けシステムを成長事業に位置づけており、政策関連としての側面も持つ。富士通のクラウドサービスとの連携で業容拡大期待が大きいが、量子コンピューター実用化となれば同社の商機は大きく膨らみそうだ。
穴株では富士通ビー・エス・シー <4793> [JQ]。ソフト開発を中核事業とし富士通が56%強の株式を保有する。出来高流動性に難があるものの、18年3月期は増収営業増益を見込み、株価指標面でもPBR0.8倍台は見直し余地がある。
●量子コンピューターはAI関連にも新たなる息吹
さらに、富士通系以外でマークしておきたい銘柄として、ソーシャルメディアデータを中心としたビッグデータ分析の草分け的な企業であるデータセクション <3905> [東証M]がある。同社はディープラーニング(深層学習)によるソーシャルメディア分析から、商品の利用シーンを発掘するサービスを提供するなど、AI関連としても注目されているが、量子コンピューターの研究開発が進捗することで、ブレインパッド <3655> などと同様に業績を飛躍させる可能性を内包している。
ホットリンク <3680> [東証M]もクラウドビジネスに積極的で、AI活用に前向き。量子コンピューターの実用化では大きな恩恵を享受する。マザーズ上場直後の2014年1月には5670円(分割修正値)の高値をつけるなど天井も極めて高い。
FRONTEO <2158> [東証M]は米国での訴訟支援を主要業務とするが、人工知能エンジン「KIBIT」を活用した解析事業を展開しており、AI関連の中核に位置付けられている。 量子コンピューターの普及は同社の事業との親和性も高く、会社側も進化のプロセスを注意深く見守っている段階にある。
(中村潤一)
株探ニュース