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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「テンバガー宝庫! 量子コンピューター関連」

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

 9月相場は第1週(4~8日)と第2週(11~15日)で舞台が180度回転、弱気ムードから強気のステージにこれだけ見事に地合いが変わるのも稀有なケースといえます。表向きは9日の北朝鮮の建国記念日を巡る有事リスクを回避したことが、買いの根拠に挙げられていましたが、それは本質からは離れた解釈でしょう。なぜなら、その後11日に採択された国連安保理の制裁決議に対抗する形で、北朝鮮は15日朝に北海道上空を通過するミサイルを発射、しかし株式市場の反応は「買い」でした。ここで当てが外れた空売り筋は買い戻しに動き、これが3連休明け19日の大幅高の足場ともなって、日経平均株価は2年1ヵ月ぶりの高値圏浮上を果たした、というのがここまでの経緯です。

●海外マネーが押したリスクオンのスイッチ

 遡って9月9日に何事もなく無風で通過したとして、リスクオンへのスイッチがいきなり入ると予想した市場関係者は少なかったはずです。最大の立役者は外国人投資家の投資スタンスの変化で、同時進行の円安が脇を固めての大立ち回りが日経平均2万円大台復帰を演出した格好となりました。

 また、株式市場上空に秋晴れの青空が広がったこのタイミングで、安倍晋三首相が衆院解散・総選挙をぶつけてきたのは、現政権にとっても相場にとってもポジティブといってよさそうです。政権維持を目的とした「大義なき解散」と言われても、消去法にせよ票は自民党に集まる。「人づくり革命」という看板を掲げた増税前提の選挙公約を中期的にマーケットがどう受け止めるか、これは未知数ですが、今回の選挙がショートカバーだけでは終わらない外国人投資家の買い転換と合わせて、シナジーを生む可能性はあります。

●時価総額613兆超え、ただし油断は禁物

 日経平均が2万円台を大きく回復し、東証1部の時価総額が613兆円を超えて過去最高を上回ったという現実は、海外マネーを誘引する呼び水となり得ます。したがって、投資家の目もいったんは主力株に向いていますが、中小型株の段階的な水準訂正の波は絶えることはないでしょう。テーマ買いの動きはむしろ活発化する方向にありますが、銘柄の裾野が広がるということは、それによって資金が引いていく銘柄も出てくるわけで、そうした流れの変化にも気を配っておきたいところです。

 相場は生き物、どんなに勢いがあろうとも「盛者必衰」でそれは永遠ではありません。以前にも取り上げましたが、十五夜の翌日にためらいがちに顔を出す月のことを十六夜(いざよい)の月といいます。見た目には満月とほとんど違いはないけれど、別名「既望」と称されるように既に満ちてしまった後で、そこからは日毎に少しずつ欠ける時間帯へと移行します。意中の銘柄でも十六夜の段階に入ったら、深追いはしないのが鉄則。そのタイミングを見極めるのは正直なかなか困難ですが、相場と対峙する際にはいかなる強調地合いにあっても、油断はしないことです。

●EV向け2次電池関連で三社電機、藤倉ゴム

 今の東京株式市場には久々にテーマ物色の大波が押し寄せています。象徴的なものは電気自動車(EV)の普及加速シナリオを背景としたリチウムイオン電池などの2次電池関連で、田中化学研究所 <4080> [JQ]や安永 <7271> などの株価変貌や、最近ではFDK <6955> [東証2]などの大相場が軸となって波状的な買いが広範囲に及んでいます。銘柄によっては十六夜の時間帯に入った銘柄もあるでしょうが、テーマとしてはまだ三日月の段階、出世株が相次ぐ可能性があり当分は目が離せません。テーマ性という観点では今のEV関連のダイナミズムは、一頭地を抜く状況にあるといえます。自動車の市場規模は世界ベースでおよそ250兆円の超巨大マーケットであり、ガソリン車が将来的には根こそぎEVに取って代わられると考えれば、そのインパクトは絶大です。

 ここにきて米テスラモーターズと連携が厚い2次電池関連の本命格であるパナソニック <6752> が大きく動意しています。そこで注目したいのが三社電機製作所 <6882> [東証2]です。同社は電源機器で強みを持ち、パナソニックが22%強の株式を保有する筆頭株主であることも大きなポイントとなります。このほか、ポスト・リチウム電池の最右翼とみられるマグネシウム電池ではフジクラ系の産業用資材大手である藤倉ゴム工業 <5121> に成長加速の可能性がありそうです。株価は収益変化を織り込む過程にあり、上値余地はまだ大きいと思われます。

●半導体新技術で富士機、イワキに上昇機運

 また、ここ再び強烈な上昇パフォーマンスを演じているのが東京エレクトロン <8035> を筆頭とする一連の半導体関連です。今年5月から夏場にかけてもみ合いに転じる銘柄が目立ちましたが、そこはあくまで上昇相場の踊り場であったことが証明された格好。直近の上値追いが、昨年来スーパーサイクルを囃(はや)した相場の余熱で騰がっているような印象は全く受けません。3次元NAND型メモリーのテーマ性のほかに新パッケージ技術であるFOWLP(ファンアウト・ウエハーレベルパッケージの略)が強力テーマとして上昇の足場となりそうです。半導体関連株も今はまだ潮が満ちていく途上でしょう。

 半導体の製造過程で、本来、後工程の作業である半導体チップのパッケージングを前工程の段階で行うFOWLPが注目されています。これはサブストレートと呼ばれるパッケージ基板を必要とせず、小型化や薄型化を容易にし、製造過程の短縮化も可能としています。昨年、米アップルのiPhone向けで採用され、台湾のTSMCが受注する形で市場が本格的な立ち上がりをみせている状況。この工程においてチップ切断装置が重要な役割を担うことで、ディスコ <6146> が関連有力株として改めて評価されているようです。

 このFOWLP関連でディスコの上昇パフォーマンスを引き継ぐ可能性を内包するのが、電子部品の自動装着装置と工作機械を収益2本柱とする富士機械製造 <6134> 。FOWLP向けパッケージ装置で需要を取り込んでいくことが期待されます。また、医薬品商社であるイワキ <8095> は、同社の子会社で表面処理薬品メーカーのメルテックスがファンアウト型半導体の新工法確立を目指しており、同テーマの穴株として注目されそうです。

●リチウム、半導体、有機EL“全部乗せ”の芝メカ

 さらに古くて新しいテーマである有機EL関連も、米アップルのiPhone最上位機種でのディスプレー採用で、新たな息吹が与えられています。スマートフォンだけでなく普及初期にある大型テレビへの採用がこれから進むことを考えれば、同セクターもダイヤモンドの原石が数多く眠っている公算が大きい。オールドカンパニーにして株価を大化けさせた保土谷化学工業 <4112> に続く変身株の輩出が待たれるところです。

 ここで新たに上値の可能性を漂わせているのが芝浦メカトロニクス <6590> です。同社は半導体やフラットパネルディスプレーなどのデバイス製造装置を手掛け、有機EL用貼り合わせ装置にも展開しています。さらに、リチウムイオン電池分野でも高い技術力と豊富な実績をベースに顧客ニーズに対応した2次電池製造装置を提供、時流に乗った事業展開を背景に今後の成長期待は大きいといえます。大株主が東芝 <6502> [東証2]であることが株式需給面で嫌気されていましたが、直近37%弱の同社株式を保有する東芝は、その保有する全株式を銀行担保に差し入れており、現状売却について凍結状態にあることはポイントとなります。中期的にも資本移動の思惑は、むしろ同社株上昇の原動力となり得るのです。

●防衛関連は“VIX買い”モードで割り切り対処

 一方、裏街道のテーマとしては北朝鮮リスクをプラスのエネルギーに変えている防衛関連が挙げられますが、足もとのリスクオン相場とは相容れない銘柄群。そもそも防衛関連については、現時点で三菱重工業 <7011> やIHI <7013> などに腰の入った買いが入る展開とはなっておらず、マネーゲーム的な要素がかなり強いのですが、それでも石川製作所 <6208> の今の株価が「既望」の段階に入っているとは言い切れないところに、防衛関連 という相場テーマの強さ、不気味さがあります。

 考え方としては、今の株式市場の下振れ要因は地政学リスクが大きなウエートを占めているため、石川製をはじめとする一連の銘柄はVIX指数を買うような感覚で、極めてボラティリティの高いヘッジ効果をもたらす、との定義付けが可能かもしれません。株式市場では企業の将来的な収益成長期待が株価形成の礎となっていますが、短期的には需給と思惑で乱高下する。その部分も併せ飲む融通性や割り切りも、相場センスとして投資家には必要であると思います。

●そしてテーマ買い始動「量子コンピューター関連」

 そして、新しい相場テーマとして急速に台頭の兆しをみせているのが、次世代の高速コンピューターとして期待される量子コンピューター関連 。前回の「高まる地政学リスク、そして今買うべき株」で紹介したエヌエフ回路設計ブロック <6864> [JQ]は急伸後に中段でもみ合っている状況ですが、同テーマの先駆株としてテンバガー(10倍株)の可能性を秘めた銘柄の一つではないかと考えています。株価上昇は基本的に収益成長シナリオの先取りですが、テンバガー・ストックの条件として、今期や来期の業績見通しだけでは推し量れないスケールの大きさがあるかどうかが重要なのです。

 量子コンピューターはスーパーコンピューターでは何千年も要する演算をわずか数時間で完結するとされ、今後、人工知能(AI)分野の発展でも大きなカギを握る可能性が高いとみられています。量子コンピューターをグローバル企業の間で導入・実験する動きが活発化していますが、既に米グーグルやNASAでは一部実用化されているともいわれています。日本では文部科学省が2018年度から10年間に300億円を投下して同分野の開発を支援する構えにあります。そうしたなか、15日付の日本経済新聞が「次世代の高速コンピューターとして期待される量子コンピューターを日本の製造業大手が相次ぎ導入する」と1面で報じるなど、いよいよこれまでの「01」を極める世界から離れて「量子」に向けた動きが加速する機運が高まってきました。

●フィックスターズ、ブレインP、ラッドに注目

 NF回路以外では、量子コンピューター関連として存在感をみせているのがフィックスターズ <3687> 。同社は金融機関向けなどを中心に顧客のシステムを高速化させるソフト開発を手掛けていますが、量子コンピューターを世界で初めて商用化したカナダのDWS社と協業、量子コンピューターの導入を検討する企業などを対象に導入支援業務を展開しています。

 また、AI関連の雄でディープラーニング分野の研究開発で先駆するブレインパッド <3655> も有力。マーケティング向けデータを分析するビッグデータ対応のシステム導入などで高い実力を有していますが、同社のビジネスモデルは量子コンピューターと極めて親和性が高いことから、同分野の研究開発が進めば業容が飛躍的に拡大する可能性が一部市場関係者の間で指摘されています。

 そして、日本ラッド <4736> [JQ]も要注目。株価は大底圏にあるだけに見直し買いが加速する展開も考えられます。同社は官公庁や企業を対象に業務用ソリューション開発を手掛けており、サイバーセキュリティー分野でも実績を積んでいる。産業用コンピューター分野で世界トップシェアのアドバンテック(台湾)と提携しており、量子コンピューター実用化の過程で頭角を現してくる公算が大きそうです。

(9月20日記、隔週水曜日掲載)

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