【市況】中村潤一の相場スクランブル 「高まる地政学リスク、そして今買うべき株」
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
レーバーデー休場明けの米国株市場ではNYダウが234ドル安と急落、3日に北朝鮮が強行した核実験は水爆実験だった可能性も否定できない大規模なもので、今回はその衝撃にウォール街も揺さぶられた格好です。
アメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」が公開した実験場の衛星写真は地形の変動の大きさから水爆の可能性を示唆するもので、米国への挑戦状と受け取れなくもない。怒り心頭に発したトランプ米大統領は北朝鮮への軍事的行動を起こすのではないか、という思惑がくすぶり、リスク回避ムードが強まっています。
●「忍耐の外交」とトランプ国粋主義
平和主義を掲げたオバマ前大統領は「忍耐の外交」を進めたわけで、その反動をマーケットが勝手に読み込んでいる部分もあるでしょう。ミリタリストではないが国粋主義を前面に押し出すトランプ氏と、オバマ氏とのギャップが不安心理を煽っている状況。しかし、軍事オプションを発動した場合のデメリットはメリットをはるかに上回ることは確実であり、AIならいざ知らず“人間”がその選択肢を引くとは思えません。両国が歩み寄る道筋は今のところ見えないながら、現在の平行線は今後も平行線のまま、武力衝突という形でクロスする可能性はやはり低いと考えます。
どこまでいっても北朝鮮を巡る地政学リスクの問題は雲散霧消するということはなく、その点では非常に厄介です。しかし、株式市場に悪影響を与えていることは間違いないものの、株価のベースとなっているファンダメンタルズとは別路線を走る傍流であって、有事への思惑が相場のトレンドを覆すような支配力を発揮することはないのです。繰り返しになりますが、上昇相場と共存可能なネガティブ要因として捉えるのが正しい認識であると思われます。
売り方の立場にすればこれを手掛かりに空売りを仕掛けても、武力衝突がなければ急いで買い戻すことになり、過去のケースでも結果的にショートポジションの巻き戻しが入って、全体相場は下げた時以上の瞬発力で戻り足をみせることも少なくありません。上下にボラティリティを高める作用はあっても、時間軸としては短期的。しかし、ジェットコースターの下がり始めで買いに動くのは、一部の防衛関連株に位置づけられる特定の銘柄を除けば、避けるべき投資行動です。
●9月相場の試練を乗り越えて
今週は9月9日が北朝鮮の建国記念日で、これが投資家心理に重くのしかかった状態ですが、その1日前の9月8日が東京市場のメジャーSQ算出日というのも、作ったような巡り合わせ。また、9月11日は米国で「9.11同時多発テロ」があった日です。地政学リスクという観点では売り方にとってこの上ない舞台装置が揃っているわけで、今週(9月第1週)は株を保有している側にとって誰もが戦々恐々となるのは致し方ないところです。
「地政学リスクを背景に主力株が手掛けにくい」というのが一般的な論理ですが、実際、9月第1週に大きく下に振られたのは、これまで相場の体感温度を高める役割を担っていた中小型株の一群でした。
ファンダメンタルズから離れた、起こる確率が低い有事リスクで機関投資家が保有株を売却する、というようなことは基本的にはないはずです。報道のたびに一喜一憂してもキリがないわけで、その点で機関投資家資金は感情に流されにくい強みを持っています。ただ、目や耳に入ってくる情報に投資行動が左右される個人投資家はそうはいきません。後期ストア派の哲人エピクテトスは「人を不安にさせるのは物事ではなく、物事についての意見である」と喝破しましたが、現在の株式市場はまさにこの境地にあります。IoT社会の入り口に立つ現在、個人投資家にとってネット環境の充実は、情報化社会の恩恵を全面享受できる一方、リアルタイムで「他人の意見」に惑わされる時代でもあるのです。
地政学リスクで株を投げさせられるのは、無数の情報を勝手に咀嚼(そしゃく)して悲観に誘導される個人投資家です。売買ウエートの高いマザーズ市場など新興市場を中心に、これまでスムーズに回転を利かせていた資金が一気に目詰まり起こしてしまった形で、中小型株にとって9月第1週は一つの試練となりました。
●そして新たなチャンスが芽吹く
個人投資家は、保有する新興市場の銘柄を担保に信用取引で同市場の銘柄を買うという2階建ての投資を行うケースも多く、業態的にもテーマ的にも関係の薄い複数の銘柄が一緒に急落するというケースは、追い証発生時もしくは追い証回避の動きのなかでよく起こり得ることです。負の連鎖は株の世界では最も注意しなければならない現象で、自らは冷静でも、周りが狼狽売りに動けば、結局自分の保有株の価値も下がってしまう。ケインズの言う“株は美人投票”の逆バージョンであり、これを回避するための手段として、機械的なロスカットの設定はやはり重要といえます。
ただ、中小型株の下げの元凶となったマザーズの下げも、5日後場の時点で取材した大手ネット証券いわく「信用評価損益率からみていいところまで(売りが一巡するレベルまで)来ている」段階としており、1回目のリバウンドを模索するタイミングに入っています。
●リバウンド狙いも機動的対応を心掛ける
前述したように、ファンダメンタルズと離れた地政学リスクは全体波動を支配する本流とはなり得ないのですが、もともと長い上昇トレンド形成で疲れが見えていた相場にとって、下値模索の契機にはなります。改めて相場を俯瞰すれば株式市場の多くの銘柄が調整局面への移行を暗示しています。リバウンドしても、すべてが直近につけた高値を上回り新値街道に復帰できるとは限りません。したがって、2部やジャスダックも含め全体指数が明らかに上昇転換となるまでは、個別株戦略も時間軸を短くとって“利食い千人力”を優先するのが実践的です。
成長シナリオを確信して中長期で保有している銘柄については、もちろん例外であり、利が乗っている間は、8月9日配信の当コーナー「ピンチは好機、安値買い究極の戦略」でも取り上げた「半仕切り」の哲学で持続して問題ありません。相場がいかなる暴風雨に見舞われても、株式投資でロマンを追求することは投資家として否定されることではないのです。
●活力みなぎるリチウムイオン電池関連株
銘柄としては、8月30日配信の株探トップ特集「EV新世紀が『リチウム電池関連』沸騰を呼ぶ」で取り上げた銘柄群が非常に強い足で、波乱相場の挟間でダイナミズムをみなぎらせています。環境規制の高まりを背景に世界的に加速する電気自動車(EV)シフトは、いずれすべての車両が2次電池で動く近未来を想起させるに十分、関連銘柄の押し目は要注目といえます。
具体的には富士通コンポーネント <6719> [東証2]、IMV <7760> [JQ]、FDK <6955> [東証2]、ホソカワミクロン <6277> 、ニッポン高度紙工業 <3891> [JQ]、藤倉ゴム工業 <5121> などがマークされます。相場が凪から時化に変わった時の心得として、25日移動平均線を下抜けていない銘柄につくのが基本的な戦略となります。
●一連の防衛関連株物色にも裾野に広がり
そのほかでは北朝鮮リスクを背景に、防衛関連株 に位置づけられる銘柄が集中的に買われています。代表的なものでは石川製作所 <6208> を筆頭に、細谷火工 <4274> [JQ]、豊和工業 <6203> 、興研 <7963> [JQ]、重松製作所 <7980> [JQ]が挙げられますが、マネーゲーム的な色彩も強く、これらは常連銘柄でやや食傷気味の感も否めません。ここメディアで取り上げられている電磁パルス(EMP)攻撃に対応するシールド関連として、急速人気化しているのが技研興業 <9764> [東証2]、阿波製紙 <3896> などですが、これも既に需給相場の様相を呈しており、究極のモメンタム投資につくかどうかは、投資家が個々で判断するところとなります。
また、有事モードの中で非鉄株が買われています。非鉄市況の上昇だけでなく、“放射線遮断”の思惑でタングステン、モリブデン加工を手掛ける東邦金属 <5781> [東証2]や日本タングステン <6998> [東証2]などに物色の矛先が向いています。これも原点に収益成長のシナリオありきではありませんが、需給主導の流れのなかで目が離せません。
防衛関連という切り口では本来であれば、三菱重工業 <7011> 、IHI <7013> 、NEC <6701> といった銘柄が本命には違いありません。しかし、今の軽量材料株相場では蚊帳の外。これが相場の難しいところであり、逆にこうした主力銘柄が動き出す相場は極東アジアの軍事的緊張の度合いが本格的に強まった段階を意味します。
いずれにせよ防衛関連は成長市場とも言えず、テーマとして取り上げにくいセクターではありますが、投資マネーの偽りのないニーズを映し出していることも事実で、物色対象の横への広がりはしっかりと押さえておきたいところです。
●注目はエヌエフ回路、オリジン電、桜ゴム
仕切り直し相場でマークしたい銘柄としては、まずエヌエフ回路設計ブロック <6864> [JQ]。8月下旬に一気に上放れ、薄商いのなか700円台で底ばいをしていた株価はわずか1週間強で2000円目前まで上昇、その後は調整を強いられましたが、8月18日と21日に大きく開けたマドをほぼ埋めて時価は25日移動平均線に接触しており、ここは買い場となる可能性があります。電子計測器の開発を手掛ける同社は量子コンピューター関連として大化け素地を内包。国際的にサイバー攻撃が横行するなか、データ収集や情報セキュリティーなど究極の防衛関連としての位置づけも可能となります。
また、オリジン電気 <6513> も約2年にわたる雌伏の時を経て株価の居どころを変える可能性がありそうです。防衛関連としてEMP攻撃対応では放射線遮断塗料での特許が材料視されましたが、注目したいのは同社が高圧直流給電システム、移動体通信基地局用整流装置を手掛けていること。また、充放電兼用のリチウムイオン電池電源システムなどへの展開でも注目されます。株価は5日に稀にみる長い上ヒゲをつけて往って来いとなっていますが、これが上昇トレンド入りの号砲となるかどうかに注目しています。
さらに、桜ゴム <5189> [東証2]はゴムホースの大手企業で防災関連としてのテーマ性を持つだけでなく、航空自衛隊、ボーイング社などの認定工場となっており、防衛関連の穴株として人気素地を持っています。時価は高値圏で売り物を吸収している段階ですが、PER10倍未満でPBRも0.9倍弱と割安顕著。さらにROEは10%を上回っています。現在の500円前半のもみ合いを踊り場に、再上昇局面に向かう公算は大きそうです。信用買い残も枯れた状態にあり、戻り売り圧力の乏しい実質的な青空圏を舞う展開も想定されます。
(9月6日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース