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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「ピンチは好機、安値買い究極の戦略」

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

 株式投資では銘柄の選別もさることながら、投資の時機、すなわち買いを入れるタイミングもそれに匹敵する難しさがあります。しかし、もっと悩ましいのは売りのタイミングといえるでしょう。例えば保有する銘柄に惚れ込んで株価の成長シナリオを確信している場合でも、上昇途上で必ず調整局面は訪れます。当然ながら全体相場の流れに左右されるケースも多く、その時、夢を追うか実利を取るかで大いに迷うわけです。持ち株を半分外すという手法もありますが、できる限り丸ごと「夢」を追いたいと思うのは投資家として健全な欲求といってよいでしょう。

●中長期で夢を追い続ける投資手法

 その場合は、「半仕切り」という考え方があります。利益確定か持続かで迷った場合は保有株を減らすことなく貪欲に夢を追ってよいのです。しかし、その迷った株価水準から、もしも期待に反して含み益が半分になってしまったら、その時点で迷わず全株売却します。利益の半分が霧消した時点で相場との勝負には負けたと判断するのです。半分の利益を有難く懐に収めて撤退する。撤退ラインに触れてしまった以上、その時点で敗北したわけですから、その後、当該銘柄が上昇しても関係ありません。そこの切り換えは重要です。

 もっともこの話は、求人ビジネス関連の某銘柄で大利を収めた投資家に取材した際の受け売りです。同氏は株価変貌の過程で何度か売りたい欲求にかられながら、その都度この投資哲学・手法を用いて、当該銘柄については半仕切りラインに触れずに全株を保有し続けることに成功、テンバガー(10倍株)を実体験しました。ただ、売却した後にこの株はさらに目を見張る上昇パフォーマンスを演じた、というオチがついています。中長期でツボにはまった成長株投資恐るべし、といえます。

 これは撤退ラインが既存利益の半分である必然性はなく、要は自らの撤退ルールに忠実であることが絶対の条件です。思惑を外した場合でも利益を残した時点で手仕舞えれば、それは成功の記憶の一片として次につながります。

●朝鮮半島上空に暗雲垂れ込める

 さて全体相場ですが、好事魔多しとはよく言ったもの。米国株市場が10連騰で9日連続の過去最高値更新と青空圏を舞い上がり、出遅れる東京市場でも米国株追随で出番待ちのムードが漂う8月相場にあって、いきなりの落雷に打たれたかのような急落。北朝鮮を巡る地政学リスクは常に意識されていたとはいえ、思わず身構えてしまう場面です。

 果たして今回の緊張はこれまでとは違うのか。複数のマーケット関係者の声を聞いても地政学リスクそのものについての分析はともかく、相場の強弱について見解が分かれています。

 今回の株安は、これまでの北朝鮮絡みの下げとは異質のものを感じると指摘する市場関係者の声はあります。「核弾頭の小型化」に成功したとの報道に対する危機感はともかく、現象面として米トランプ大統領の発言が一段と先鋭化している点、北朝鮮の中国を直接批判するコメントもかなり過激になっている点などを挙げています。特に今回は、トランプ氏が北朝鮮に対し、強い口調で武力行使の可能性を匂わせていることや、北朝鮮側もグアム島一帯を中距離弾道ミサイルで包囲射撃する作戦計画を検討している、と切り返すなど、ここだけ見れば一触即発の雰囲気を漂わせていることは確かでしょう。

 一方、強気派は、これまでと本質的に変わらない一過性の下落とみており、薄商いで市場参加者が少ないなか、オプションSQを目前にしたヘッジファンドの仕掛けが機能したとの見方。北朝鮮は、威嚇はしても越えてはいけない一線は十分に理解しており、今回も後で振り返れば絶好の拾い場であったことが証明される、というものです。9日の韓国株市場の下落率も日経平均を下回っており、為替も円買いの動きが株の下げに追いついておらず、現段階でリスクオフの奔流が形成されるような状況に至っていないのは事実です。

 落としどころが見えないのも不安を駆り立てますが、個人的には平行線のままこの問題は継続し、平行線の幅が以前より狭まっている感触はあるものの、これが交わるようなことは今のところないと考えています。

●ファンダメンタルズは良好、24日以降がカギ

 この地政学リスクを除けば、東京市場には強気材料が多いということは念頭に置いておきたいところです。企業の4-6月期の経常利益は全体で前年同期比2~3割の大幅増益となっており、対通期進捗率もリーマン・ショック後では最高水準。注目された7月の米雇用統計は雇用者数の伸びだけでなく、失業率や賃金の伸びなども良好で米経済の強さが改めて確認されました。

 スケジュール的には24日から開催されるジャクソンホールでのシンポジウムが大きなカギを握っています。イエレンFRB議長は9月からのバランスシート圧縮、またドラギECB総裁は、来年早々からのテーパリング(量的緩和縮小)を示唆することが予想され、日銀の金融緩和姿勢に変化のない日本にとって円安圧力が働くこともポジティブ材料です。世界的に金融緩和の出口を探る流れは株式市場にとって向かい風との見方もあり、業績相場の独り立ちに向け乱気流に揉まれることもありそうですが、そこは強気に構えておいてよいと考えます。

 企業の四半期決算発表も一巡して、手掛かり材料不足が改めて意識される可能性がありますが、そうなれば再び中小型株が優位性を発揮する地合いに戻りそうです。日経平均株価は上値も重いが下値には日銀のETF買いというセーフティーネットが敷かれている。これによるボラティリティの縮小は、指数連動性の高い主力株について手掛けにくい印象を拭えないものの、全体が激流にさらされないという点では、本音の部分で個人投資家に安心感を与え、値動きの大きい材料株の回転売買を行ううえで今は“適温相場”といえるのです。冒頭で紹介した成長期待の大きい銘柄への中長期投資は株式投資の王道ながら、短期スタンスには短期スタンスなりの世界があり、覇道をいくのであれば“波動”を捉えることに敏(さと)くなることも大切な要素です。

●ルック、カーバイドなどの材料株が輝く

 当コーナーでは6月14日配信「バイオ、ゲーム、そして“低位株”が輝く」7月12日配信「“50%高”銘柄の鉱脈を辿る夏相場」などで何回か取り上げてきた銘柄にルック <8029> がありますが、8月相場で遂に大輪の花を咲かせました。そのベースとして今12月期営業利益を9億円から14億円(前期比7割増)予想に大幅増額修正するなど好調な業績があることはもちろんですが、それ以前の問題として同銘柄が持つ資質、つまり時価総額100億円台にもかかわらず、特筆される出来高流動性の高さが投機資金の食指を動かしていることは確かでしょう。さらに解散価値を大きく下回るPBRなど株価指標面での割安感も「水準訂正」という大義名分のもと上値を買う根拠となっています。

 また、同様の観点で6月28日配信の「電撃上値追い、低位材料株の宴」で取り上げた日本カーバイド工業 <4064> なども好決算を号砲に大きく動き始めています。オールドファンには仕手系材料株としてのイメージを持つ方も少なくないかもしれませんが、実際は電子材料やファインケミカル分野に展開する優良化学メーカーとしての評価で全く違和感がありません。指標面でも評価不足歴然で、200円前後の株価は依然として「変身前」というムードが漂います。

 そして、この2銘柄に共通していることは売買単位が1000株であることです。東証などが目標とする「100株統一」は2018年10月をメドとしており、ここ1000株単位商いの低位株が100株に変更する代わりに10株を1株とする株式併合の動きが同時進行的に進められています。東証は望ましい投資金額の水準を5万~50万円としているため、500円以下の銘柄はその範囲から外れないように、株式併合することで最低投資金額を引き上げる作業を行います。

 低位株と思っていた銘柄がいつの間にか数千円台に変わっているというケースが少なくないのは、そうした背景によるものです。ちなみにカーバイドは10月1日付で100株統一と株式併合を実施する計画にあります。“値がさ株”にチェンジした後に急騰した保土谷化学工業 <4112> のような例もありますが、低位株の看板を掲げているうちに上昇相場の火蓋を切るパターンが多いことは確かで、これが低位株全体に地殻変動をもたらしている原動力かもしれません。

●ここは好実態株のリバウンド狙いで勝負

 また、株式投資ではなるべく安値を拾って値上がり益が確保できれば、それに越したことはありません。そうした投資家のニーズが如実に反映されたのが、8月2日配信の株探トップ特集「好決算“暴落”株を見よ! 華麗なる底値買い成功への10銘柄」であり、思った以上のアクセス数を集めました。好決算にもかかわらず、イレギュラーに売り叩かれた銘柄は時を経て実態が見直される場面が訪れることが多い。よく、“押し目買いに押し目なし”といわれますが、いざ大きな押し目が形成されると躊躇してしまうのが投資家心理というものです。そこで、今回はその続編もどきで、好決算でも売られてしまった銘柄で注目されるものをいくつか拾いあげてみました。

 第1四半期(4-6月)決算で経常利益36%増の日本ピラー工業 <6490> は半導体製造装置向けピラフロンが好調、株価は目先出尽くしで大きく売られましたが26週移動平均線に接触している時価は買い場となっている可能性があります。また、同じく26週線との上方カイ離を解消したホシザキ <6465> は業務用製氷機のトップメーカー、第2四半期(1-6月)経常30%増益で進捗率も上々です。1万円大台回復からのリバウンド相場は自然な流れといえます。自動車用ランプ大手の市光工業 <7244> も26週線タッチまであとわずか、電子ミラーの売り上げも好調で、買い下がってみたいところです。

 このほか、東邦亜鉛 <5707> やタムラ製作所 <6768> 、日本ケミコン <6997> 、東洋紡 <3101> 、JUKI <6440> なども同じ観点でマークしておきたい銘柄です。

●一本釣りならラピーヌ、IMV、富士通コン

 ただし、上記の銘柄は中期での上昇トレンド復帰を前提としており、戻りを取るのにやや時間を要すことになります。あくまで短期にボラティリティの高い戻り相場を期待するのであれば、何らかの材料をバネに急騰した後、調整を余儀なくされている銘柄のリバウンドを狙うのが有効です。

 9日は測量土木大手のアジア航測 <9233> [東証2]がストップ高に切り返しましたが、このイメージの延長で狙えるのは高級婦人用アパレルを展開し好業績が際立つラピーヌ <8143> [東証2]。また、中段もみ合いで動意含みのIMV <7760> [JQ]も要注目。同社は振動シミュレーションなどの試験装置を手掛けています。自動車向け主力で需給逼迫状態のリチウムイオン電池関連の一角でもあり、上値に可能性を秘めています。さらに、タッチパネルリレーを製造する富士通コンポーネント <6719> [東証2]は車載向けで高水準の需要を取り込み、足もとの業績は絶好調、7月26日に上放れてから、適度な押し目を形成しながら上値指向を継続しており、株価の伸びしろはまだまだ大きそうです。

(8月9日記、隔週水曜日掲載)

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