【市況】中村潤一の相場スクランブル 「“50%高”銘柄の鉱脈を辿る夏相場」
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
東京株式市場は強いように見えて手詰まり感も漂っている――。東証1部の売買代金は低下基調で市場参加者が離散傾向にあるかと思えば、下値はしっかりと拾われる――。足もとはどっちつかずの趣で、銘柄物色の方向性もつかみにくく、全体観としてなかなか予想の難しい地合いとなっています。
ワーテルローなどナポレオンとの戦いで名を馳せたプロシアの軍人クラウゼヴィッツは、自著「戦争論」のなかで「戦争とは博打の要素を多分に含んだ打算である」と述べています。勝負は相手のあることですから、打算の通りに事が運ぶとは限りません。株式投資も同様でしょう。卓球の壁打ちのように自分に返ってくる球筋が予測できればそれに越したことはないのですが、実際はイレギュラーバウンドの連続です。むしろ相場は、人智を超えた我々の力の及ばない部分で決着がつくのが常である、ともいえるのです。
●運命の半分は自らが握っている
一方、君主論で知られるマキャヴェリは「運命は我々の行為の半分を支配し、あとの半分を我々自身に委ねている」という言葉を残しています。相場では自らの予想を当てることも重要ですが、本当に大切なのは“結果”に対してどう対応するかです。例えば思惑を外した場合、引きずらずにロスカットして捲土重来を期すことができるのか否か、また焦ってリカバリーを狙って深みにはまるようなケースも多いわけですが、そういう時にこそいったん立ち止まる勇気も必要です。
よく「チャンスの女神には後ろ髪がない」と言われますが、相場に関していえば、その鉱脈に「好機」は無尽蔵に眠っており、何度でも巡ってくるもので、女神の格言は当てはまりません。悪い流れの時に無理をしないことのほうが投資行動としては価値が高いのです。負の連鎖から逃れられるかどうかは、投資家自身の行動に委ねられている、運命の半分は「自分との戦い」になります。
●世界的な金利上昇の思惑に揺れるマーケット
米国を中心に世界的な金利上昇の思惑が投資家のセンチメントに影響を与えています。米長期金利は今週に2.38%台まで上昇する場面があり、約2ヵ月ぶりの高い水準でハイテク株の軟化と対比して語られることも多くなってきました。欧州でもドラギECB総裁が金融緩和の縮小について言及し、超低金利環境からの出口戦略のシナリオが意識される局面にあります。振り返れば6月はFOMC、ECB理事会ともに転機を示唆する月だったようです。FOMCの議事要旨では数ヵ月以内に保有資産の縮小を開始(債券の再投資停止)することを複数の委員が支持、また、ECBの議事要旨でも追加緩和の可能性に関する文言の削除を検討していたことが分かり、米国や欧州で長期金利上昇を後押しする格好となっています。
一方、長期金利の上昇と逆相関の関係が指摘されるナスダック指数 は足もとバランスを取り戻していますが、6月初旬の高値からみればこの1ヵ月間は下値を徐々に切り下げるトレンドを形成、中期調整局面に入った可能性も否定しきれない状況です。半導体のスーパーサイクル入りで、フィラデルフィア半導体株指数やハイテク株比率の高いナスダック指数は、飛ぶ鳥を落とす勢いで上値を指向することに全く違和感はなかったわけですが、そこはやや冷静になって状況を再確認するスタンスも求められそうです。
●日銀支配で低金利環境継続、円安追い風意識
ただし、日本株にとっては有利な条件がひとつあります。対ドル、対ユーロで金利差を背景に円安の方向性が読めることです。世界的な金利上昇の匂いを嗅ぎ取って、10年物国債利回りは今月7日に0.100%まで上昇、日銀はこの「0.1」を一つの防衛ラインとみているようで、5ヵ月ぶりの指し値オペに踏み切りました。日本は欧米とは違います。日銀公約であるCPIの2%達成に向け、そのシナリオに完全に狂いが生じている現状では、この指し値オペは決して出口論を語る段階にはないという日銀の意思表示とも受け取れます。結果的に為替の円安誘導となり一時は対ドル で114円台半ば、対ユーロ で130円台後半まで円が売られる形となりました。
足もとはその反動で円が買い戻されていますが、政治的な軋轢(あつれき)を考慮しなければ今の流れは円の先安期待を醸成するものにほかならず、いうまでもなく株式市場にはポジティブに働きます。直接的には企業業績の上振れ期待に振り替わり、今月下旬から本格化する3月決算企業の第1四半期(4-6月期)決算において、企業の想定為替レートのギャップを背景に、マーケットは主力輸出セクターの増額修正余地を念頭に置きながらの反応が基本モードとなるわけです。これに先立って今月3日に発表した6月の日銀短観では大企業製造業の業況判断指数(DI)がリーマン・ショック後の最高水準まで改善、ファンダメンタルズからはこの上なく相場に強い追い風が吹いている状況といえます。
●今夏の2万1000円台乗せは五分五分
“アベノミクス高値”である2015年6月の日経平均株価2万868円がよく引き合いに出されますが、その時のドル円相場が今よりも8~9円も円安水準の1ドル=122円台にあったということは押さえておくべき事実です。しかし一方で、企業の収益体質向上により全体PERが下がってきているという「伸びしろ」も無視できません。
もし、自然な形で円安トレンドが形成されるのであれば、それはリスクオンの流れとも合致し、主力株への資金回帰が起こることが考えられます。日経平均2万1000円台に乗せるということは長期戻り相場の要衝(アベノミクス高値)を突破して、1996年以来21年ぶりの高値圏に入るということを意味しますが、今夏に辿(たど)り着くことができるかどうか、為替動向も横にらみに、現時点でその可能性は五分五分というところだと思います。
当面はやはり、中小型株を軸に短期回転を前提とした空中戦もどきの地合いが継続すると考えています。繰り返しになりますが、日経平均ベースで2万1000円台に歩を進めてもパフォーマンスは5%程度に過ぎません。今の中低位材料株や新興市場の銘柄にはピンポイントで50%上昇するような銘柄がまだかなりの数眠っている。それを発掘するのがこの夏相場の課題です。一方、基本的に利ザヤ優先で資金の回転は速く、上ヒゲをつけやすい地合いであることも理解しておく必要はあるでしょう。
●低位株の宴はこれから佳境、レナウンに活力
低位株人気は相変わらずです。きょう(12日)はエンシュウ <6218> が再人気化して50円高はストップ高に買われ、6月15日につけた167円の高値を抜きました。きょう1日で上昇率は40%を超えています。このほか、池上通信機 <6771> や神東塗料 <4615> 、システムソフト <7527> なども動意しています。
そのなか、注目したいのが売買高を大きく膨らませて全員参加型材料株の雰囲気を醸し出しきたレナウン <3606> 。6月16日に上ヒゲでつけた戻り高値167円をクリア、4月下旬の急騰劇でつけた207円を視界に中期上昇トレンド入りの様相です。中国・山東如意の傘下に入っており、18年2月期業績はネット通販の強化などにより経常利益段階で前期比3.3倍の5億円が見込まれています。PBRは0.7倍弱、以前に取り上げたルック <8029> と合わせ超低PBRのアパレル関連として面白い存在です。
7月1日配信の株探トップ特集「低位株“爆騰エリア”特選10銘柄」でも取り上げていたエリアクエスト <8912> [東証2]が順調に水準を切り上げており、それと連動する形で低位の不動産流動化関連株にも物色の矛先が向かいそうです。10年物国債の指し値オペで「超低金利政策は出口戦略の段階にはない」とのメッセージを日銀が発している以上、今が水準訂正のチャンス。明豊エンタープライズ <8927> [JQ]もマークしておきたい銘柄です。
●岩崎電は魅力満載、セーラー広告に意外性
また、特殊照明の大手メーカーで、官公需に強い岩崎電気 <6924> も上昇一服場面は狙い目。株価はまだやっと200円台に乗せた段階です。道路灯では推定4~5割のシェアを有しており、LED照明の普及加速と合わせ、無電柱化に伴うインフラ再整備で特需を得る可能性があります。先進国のなかで、日本の電柱の多さは諸外国と比較しても際立っており、ロンドンやパリなどの主要都市では既に100%電線地中化が完了しているのに比べ、意外にも東京23区での無電柱化率は10%未満という状況。収益機会は大きそうです。また、あらゆるものがネットでつながるIoT時代到来を受け“IoT照明分野”でのリーディングカンパニーとしても要注目となります。
このほか低位株という範疇からは離れますが、穴株妙味を存分に漂わせているのがセーラー広告 <2156> [JQ]。2015年には短期間で200円台から620円の高値まで買われた実績があります。
無料情報誌を展開する、ぱど <4833> [JQG]はRIZAPグループ <2928> [札証A]傘下企業の一角として大相場を形成しましたが、四国を地盤とする広告代理店でタウン誌も発行するセーラー広告はPBRがわずか0.7倍台で見直し機運が台頭している印象。業績も回復色鮮明で18年3月期は営業19%増益の2億円を見込み、記念配込みとはいえ年間配当10円と株主還元姿勢も評価されます。
(7月12日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース