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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「電撃上値追い、低位材料株の宴」

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

 戦いにおける勝ち負けを分ける要因――。中国古典を引けば、兵力はもとより、“地形”などの外部条件も大きなウエートを占めることが示されています。体勢的に不利を被る局面では、その分だけ実力を差し引いて考えなければ戦局を見誤ってしまう。孫子はその「九変篇」の冒頭、兵を用いるにあたって「高陵には向かうことなかれ、丘を背にするは逆らうことなかれ」と説いています。すなわち高地に向かえば、後顧の憂いなく斜面を駆け降りてくる敵の術中にはまるという戒めであり、その際は、敵を平地に誘導してから戦うしたたかさを持てと、教えています。

●「丘を背にする敵」とは対峙しない戦略の妙

 プロ棋士としてデビューしてから、公式戦無敗のまま過去最高となる29連勝の金字塔を打ち立てた藤井聡太四段。彼もまた、孫子の兵法さながらに高地に向かうような戦い方をしないことが抜群の安定感につながっています。

 将棋は囲碁と比較しても終盤が勝負を左右する要素が強いゲームで、この終盤力で一頭地を抜いていることが、藤井四段最大の強みとされてきました。ところが対戦した棋士や棋譜を研究した棋士は、口を揃えて「序・中盤に隙がない」と評価しているのです。終盤の追い込みで勝つだけの荒削りな強さでは29連勝はできません。藤井将棋は相手の意図するエリアや相手のペースに引き込まれそうになった時にも、微妙にポイントをずらす、したたかさがあります。単独1位の記録をかけた増田康宏四段との対局では、増田四段が勝負に徹し、「雁木」と呼ばれる定跡が整備されていない戦法をあえて選択する“注文相撲”をとったのですが、藤井四段は一瞬揺らいだものの、そこから自分のペースに引き戻す、冷静な対応が光りました。

●AIではできない自らのマネジメント

 彼は盤上という小宇宙で読みに没頭する自分と、もう一人、マネージャー的役割を担う客観的な自分が共存しているような印象を受けます。人工知能(AI)ソフトを活用して強くなったことから「AI時代の申し子」と称されていますが、本質はそこではない。昨年9月の奨励会卒業後の驚異的な棋力向上は、すべて自分自身が考えて用意した学習プログラムの中で達成したもの。そこに14歳少年の最大の凄みを感じるのです。

 相場と対峙する場合も共通する部分があると思われます。相場に飲まれないように、常に自分の立ち位置を客観的に判断する“もう一人の自分”を確保しておく。株式投資では“見切る”のも一つの技術であり、負け方によっては勝利に等しい敗戦というケースも多くありますが、その選択肢を引けるのが投資家としての真の強さではないでしょうか。

●ヘッジファンドも抜けた凪状態の市場だが…

 現在の東京株式市場はヘッジファンドの売り仕掛けの対象からも外れている凪の状態。ただ、下値では日銀のETF買いによるセーフティーネットが引かれ、売り方を締め出しているような今の地合いは、逆に相場的にはリスクが潜んでいる可能性もあります。一段と上値を追うためには何かきっかけとなるような新たな材料が必要です。マクロ面ではその材料が見当たらないからこそ、個別株勝負で中小型の値の軽い銘柄が好まれるという相場が演出されている。仮に中長期投資を主眼とする銘柄選別であっても短期回転の積み重ねの延長線上にあるような足の速い銘柄が、本流を形成しているのです。リスクオンの余熱のなかで素早く利益を確定したい、これが目先の相場における偽らざる本音だからです。

 世界経済を俯瞰してみると、ファンダメンタルズは良好。グローバルな景況感回復が顕著であり、原油市況も5月下旬以降、下落トレンドにあることを考えれば、ハイテク系企業の収益環境には一段と追い風が吹いている状況といってよさそうです。株式市場をキャンバスに見立てれば、近未来の成長シナリオも存分に描かれている状態で、ハイテク株に対する投資家サイドの高揚感を喚起しています。AIやそれと融合するIoT社会、モバイル端末の高機能化、自動運転ドローンフィンテックといった次世代テクノロジーの普及が、インフラ面から加速度的に半導体の需要創出と高集積化・大容量化を促していく。99~2000年のITバブル相場と今とでは、その土台が違うということは明らかです。

 しかし、もう一つマネーフローという現実的な視点で眺めた場合はまた違った世界が見えてきます。好景気の裏返しで、政策面では米国だけでなく、欧州でも直近ドラギECB総裁が言及したように、超金融緩和の出口論が折に触れ俎上に載り、金融相場の色彩は徐々に希薄化していく過程にあります。

●楽観のなかで覚醒する下落トレンドにも注意

 原油市況の下落は実勢経済にはプラスでも、相場的見地に立てば、これまで形成されてきたリスクオンの余熱をあっという間に奪ってしまう厄介な代物です。2015年11月末から2016年2月にかけて、日経平均株価を2万円から1万5000円まで一気に5000円も急落させた背景は原油価格の30ドル台割れ。その下げの最たる根拠は「中東の政府系ファンドが原油価格下落の損失穴埋めのために日本株を売る」でした。

 足もとの原油価格は下げ止まる動きをみせてはいますが、明確な底入れ確認とはいえず、自律反発後は再度下値模索への思惑がつきまといます。WTI原油先物価格が仮に1バレル=40ドル台を割り込み30ドル台に入ってくるようだと、2016年初頭の記憶を呼び覚ます形で、中東SWFを売り主体とする負のスパイラルに巻き込まれる懸念もゼロではなくなってきます。

 大勢上昇トレンドの終焉に近づいているとは思いませんが、前回配信の当コーナーでも触れた「楽観の中で覚醒し、懐疑のなかで静かに立ち上がる下落相場」に対する用心をしておく必要はあるでしょう。

●バイオ、ゲームは、目先は買い一巡感も浮上

 個別銘柄作戦としては、前回6月14日配信の「バイオ、ゲーム、そして“低位株”が輝く」で、バイオ関連ではアンジェス MG <4563> [東証M]に追随する格好でそーせいグループ <4565> [東証M]やJCRファーマ <4552> などが上値指向となり、ゲーム関連では任天堂 <7974> が活況高、アカツキ <3932> [東証M]も上値追い加速となりました。ただし目先はその反動安の局面に遭遇しています。

 テーマ的にはきょう(28日)から30日までの日程で開催されている「第1回AI・人工知能EXPO」に合わせてAI関連には再注目したいところ。AIエンジン「KIBIT」を出展するFRONTEO <2158> [東証M]や、AI新サービス「Third AI(サードアイ)」を出展する日本サード・パーティ <2488> [JQ]などを中心に動きが出やすく、今回EXPOに出展はしていませんが、ブレインパッド <3655> なども動意含みで引き続きマークされます。

●流動性に富む低位材料株の回転売買に針路

 もっとも、銘柄の物色対象は中小型テーマ株から徐々に低位材料株の高速回転売買に移行している感があります。

 当面は資金回転が速い相場の流れにあり、出来高流動性が担保された低位材料株を主軸に組み立てるほうが得策かもしれません。日足で上ヒゲをつける銘柄が非常に多いのですが、これは前述したように、リスクオンの余熱のなかで素早く利を確保したいという思惑が反映されたものです。やや後ろ向きな表現を使えば、今は幕間つなぎ的な相場で、これは3月決算企業の第1四半期発表の開示が始まる7月下旬ごろまで続く可能性があります。しかし、ある程度割り切れるのであれば、個人投資家にとっては主力株を中期で寝かせて1割の値幅を取るよりも、むしろ魅力的な地合いといえます。

 高速回転が主流といっても、日計り的な商いではなく、ロスカットポイントを決めておけば、やや時間軸を広げたスイングトレードで十分対応できるスピード感です。

●芦森工は実態面が支える需給相場に発展も

 商い急増のなかボラティリティの高い相場を演じている芦森工業 <3526> は要注目。タカタ <7312> の民事再生法に絡むエアバッグ代替需要という、ハイエナ的な思惑を上昇相場の原動力と考えると躊躇しますが、それとは関係なく、既に18年3月期業績予想が急回復見通しにある点に注目です。18年3月期は営業利益段階で前期比6割増の24億円見通し。PER9倍、PBR1.1倍台で年間配当も4円と、時価近辺は材料不在の定点観測でも普通に上値が見込める水準です。日証金では株不足状態にありますが、東証でも売り残が増加しているようなら、それは踏み上げ相場の原動力となり意外な値幅もありそうです。

 このほかでは、兼松系のインテリアや寝装品を手掛けるカネヨウ <3209> [東証2]もここ動意含みですが、株価はまだ100円トビ台。前17年3月期は営業利益段階で前の期の3.6倍と回復色を強めました。比較的上値の重い銘柄ですが、今年1月末に144円まで買われた経緯があります。

 往年の仕手材料株的イメージの強い日本カーバイド工業 <4064> ですが、それは遡ること4年前、2013年夏場の話で、この時は800円目前まで買われました。今は電子材料やファインケミカル分野にも展開する優良化学メーカーとして収益水準も大きく回復、今18年3月期は営業減益予想ながら、PER12倍、PBR0.7倍で、時価は実態面から非常に割安な水準にあると判断されます。

(6月28日記、隔週水曜日掲載)

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