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【特集】錯綜する思惑、検証・半導体関連株は「売り」か「買い」か <うわさの株チャンネル>

東エレク <週足> 「株探」多機能チャートより

―米主力IT株上昇でも日本半導体株“軟調推移”の「なぜ」―

 22日の東京株式市場は、売り買い交錯のなか狭いレンジのもみ合いに終始したが、“過熱感なき強気相場”の様相で、日経平均株価は2万円大台を固めるステージに入ったようにもみえる。結局全体指数は小幅安で着地したものの、東証1部の値上がり銘柄数は値下がりを上回った。売買代金上位をみても、任天堂 <7974> 、ソフトバンクグループ <9984> といった常連に加え、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> などメガバンクや、トヨタ自動車 <7203> 、ソニー <6758> といった主力どころも総じて買い優勢の展開となり、全体地合いが改善方向にあることを物語っている。しかし、その中で“何かが足りない”という違和感をもって相場と対峙する投資家も少なくなかったはずだ。

●6月相場で風向き変わった半導体関連

 昨年来、一貫した上昇波を形成し東京市場を牽引してきた半導体関連株に冴えがみられない。日経平均が2万円大台を回復し、さらに上を目指すという場面で、東京エレクトロン <8035> やSCREENホールディングス <7735> 、アドバンテスト <6857> 、SUMCO <3436> など半導体セクターを代表する銘柄群が軟調に推移し、引き続き売り圧力に晒される展開を強いられている。

 前日の米国株市場ではフェイスブックやアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックスといったFANG株とよばれる主力IT株が軒並み上値を指向し、ハイテク株比率の高いナスダック指数も上昇、半導体関連銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も反発に転じており、東京市場でも本来ならこれに連動する形で関連株に資金流入が想定されるところ。この、判で押したようなセオリー的な買いが入らない、もしくは細い買い物に躊躇なく売りをぶつけてくるのが今の相場だ。

 世界的な半導体需要は構造的な拡大局面が続いている。ビッグデータの普及加速に伴うデータセンターの増設、あらゆるものをネット接続するIoT時代の到来、スマートフォンの高機能化、そして自動車の電装化進展の先には自動運転の巨大市場も待つ。これらすべてが、半導体の高集積化・大容量化や部品点数の増加を促すことになり、これまでのシリコンサイクルを覆すスーパーサイクル期突入の思惑と合わせ、ここまでの株価変貌の原動力となってきた。ところが、6月に入ってからは先駆した半導体製造装置株をはじめ精彩を欠く銘柄が増えている。

●あえて上値を買いに行く気がしない…

  半導体製造装置トップでエッチング装置など前工程を手掛ける東エレクは、3次元NAND型フラッシュメモリーの普及で恩恵を享受するとの見方を底流に、今年春先以降に上値追いが加速した。3次元NANDは積層化した電極を柱状に突き通す構造であり、エッチング工程では深掘り技術に優れる同社の収益機会が急速に高まるとの思惑が漂う。同社の18年3月期営業利益は前期比4割増の2160億円予想、19年3月期も成長トレンドは続くとみられている。しかし、株価は6月9日に17年ぶりとなる1万7000円をつけてからは、上値の重さが露呈した。株価形成は実態に先駆するものだが、果たして、17年ぶり高値圏にある時価近辺は、構造的な需要の追い風によってもたらされる収益変化を、既に織り込みつつあるのだろうか。

 経済ジャーナリストで個人投資家からの人気も厚い雨宮京子氏は、今の東エレク株について「成長への可能性は否定しないが、要は今のタイミングで無理に上値を買いに行く気は起きないというのが投資家心理だと思う」としている。いわく「今のマーケットは“順張りの循環物色相場”であり、高値圏の東エレクを買うなら、リターンリバーサル狙いで出遅れの村田製作所 <6981> を買いに行きたいと考えるのが人情」とする。これは、個人投資家の視点ということではなく、機関投資家の視点でも一緒である。

 東エレクに深押しがあれば買いたいが、今は“買いたい弱気”も含めてネガティブな意見があちらこちらで聞かれるにもかかわらず、株価は崩れていない。今買うのは結果的に蛮勇を奮うことにもなりかねず、得策ではないという見方のようだ。また、半導体関連株全般についても同様で「半導体業界は企業側のディスクローズが悪くなっている印象を投資家に与えているのも、買い手控えムードを助長しているのではないか」(雨宮氏)とも指摘している。

●期待を裏切ってきた歴史が懐疑の根源に

 SMBC日興証券の投資情報部部長で機関投資家の視点にも詳しい太田千尋氏は「半導体関連を一元的に売りか買いかといっても答えは出ない。要は時間軸の問題。今の調整波動は1週間や2週間という短期間で完了するほど軽いものではなく、数ヵ月のタームでみる必要があるだろう」という意見だ。また、「半導体関連株全般について今から1年後はどうかと聞かれれば、現在の水準よりは高い位置にいるものが多くなるとは思っている」としている。

 もっとも市況がスーパーサイクルに突入しているという見方については「スーパーサイクルと言わせる諸々の条件が揃っているようにも見えるが、これまでにも強力な成長ストーリーがあって、それを裏切られてきたのが半導体の歴史でもある」(太田氏)とし、楽観的なムードには警鐘を鳴らしている。

●株価位置ではなく株価指標で判断する

 一方、今は自然体の調整に過ぎないとして、半導体関連の上値余地に肯定的な見解を示すのは、東洋証券ストラテジストで冷静かつ明快な見通しに定評のある大塚竜太氏だ。数年来のチャートをみれば高所恐怖症に陥っても、それは視覚のなせる業であって本質ではない。大塚氏いわく「株価指標面での判断が必要で、例えば東エレクもスクリーンもPER16倍前後、割高感はない。また、半導体関連人気は米国発であり、SOX指数が崩れない限り日本の半導体関連相場も打ち止めということにはならない」という。需要の先行きに懐疑的な思惑があることは承知のうえで、中長期上昇トレンドの踊り場に過ぎないという強気の見解を示している。

●電子デバイスの範疇で見れば強気相場は不変

 個人投資家資金の流れを敏感に捉え、鋭い分析に定評のある松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は「スマートフォンに続くAIスピーカーの普及で音声認識市場も本格的に立ち上がり、車載向け半導体の市場も大きく、長い目で見て(半導体の)構造的な需要拡大は疑いがない。ただし、過去を振り返っても活況の後には必ず反動がある。そのなか、株価は短期的にはまだ上値余地があると思うが、中長期的にみれば高値圏に位置しているというイメージは拭えない」という。

 また、半導体で一区切りにせず、電子デバイスという範疇で見れば銘柄は横に広がりをみせているのが今の地合いであり、直近は先駆した半導体関連株が小休止する一方で、村田製やアルプス電気 <6770> 、京セラ <6971> など電子部品株がスポットを浴びているが、「これは物色資金のシフトではなく、半導体から派生した物色人気の裾野の広がりと捉えるべき」(窪田氏)と前向きな解釈を示している。

●日の丸半導体を死守する意味は大きい

 プロのマーケット関係者の間でもそれぞれ見解は微妙に違うことが分かる。共通しているのは中長期的な半導体市場の構造的な需要増加について肯定的だが、株価は別モノとしてみている印象が強い。

 くしくも22日、経営再建のための半導体事業の売却を巡り思惑を錯綜させた東芝 <6502> だったが、まだ流動的な面はあるものの、子会社の「東芝メモリ」の売却に向けた優先交渉先を産業革新機構、米ベインキャピタル、韓国半導体大手のSKハイニックス、日本政策投資銀行からなるコンソーシアムに決定した。なぜか2兆円という買収総額のほうが先に独り歩きしていた感もあるが、革新機構が過半を出資する形で日の丸半導体を死守する方向に動き出したことの意味は大きい。半導体関連株の収益環境とは別次元の話ながら、この方向は将来的な技術開発という点で重要であり、日本にとってポジディブに働く。

 強弱感対立のなかも、半導体関連が今後も株式市場の中軸テーマとして注目を浴び続けることは間違いのないところだ。

(中村潤一)

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