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【特集】リスクオンの地図、2つの世界“緩和継続”と“引き締め開始”が導く未来(前編) <三編集長座談会>

山岡和雅(為替担当編集長)、中村潤一(株式担当編集長)、森成俊(商品先物担当編集長)

―株式・為替・コモディティ3人のスペシャリストが語る2017年秋相場の行方―

株式投資サイト「株探」「みんなの株式」、外国為替情報サイト「KlugFX」を中心にマーケット情報、分析記事を日々配信するminkabu PRESS編集部。その株式、為替、コモディティの各分野を統括する3人のベテラン編集長が一堂に会し、リスクオンに転じた絡み合うマーケットを立体的に俯瞰、今後の見通しを展望する。(9月21日の対談を掲載)

○出席者
中村潤一(株式担当編集長)、山岡和雅(外国為替担当編集長)、森成俊(商品先物担当編集長)

■予想外だった9月の日本株急上昇

――9月後半を迎えたマーケットですが、前半の暗い雰囲気から一転してリスクオンに転じています。日経平均株価は2万0500円近くまで上昇し、2015年8月以来の高値をつけています。為替もドル円は1ドル112円台後半までドル高・円安が進行。対ユーロでは2015年10月以来の水準まで円安が進んでいます。また、コモディティにおいても景気のバロメーターである銅価格が2014年以来の水準まで上昇しています。こうした2014年以来、あるいは2015年8月以来といった水準への相場上昇について、皆さんはいかがとらえていますか。

中村(株式担当編集長) 株式市場では北朝鮮を巡る地政学リスクが警戒され、全般的に買いが手控えられていましたが、9月9日の北朝鮮の建国記念日を無風で通過したことで、翌週から一気に買い転換しています。ただ、事前に9日に何も起こらなければ翌週から相場がガラッと良くなるという見解を示していた市場関係者は、私の知る限りでは極めて少なかったと思います。株価は少ししっかりするだろうけども、一気にそこから急激に切り返すとは誰も考えていなかったわけです。

――まだまだ悪いムードが続くと皆さん考えていた?

中村 ところが、翌週から一気に切り上がりました。その背景はリスクオフの巻き戻しといわれていますが、需給面では外国人の先物の買い戻しが入り始めたことがあると思います。おそらく最初にショートポジションを積んでいた向きの買い戻しが入り、続いてそれに乗じた短期資金の仕掛け的な買いが、作用して一気に持ち上げたとみています。当然、溜まっていた空売り筋は、踏み上げ的なイメージで買い戻さなければなりません。こうして大方の予想を上回るような反転に転じたとみています。

――目先の需給で買い戻しが進んだだけで、景気や企業業績の良さを評価して上げているわけではないと。

中村 そうですね。当初は市場関係者も非常に懐疑的で、この流れは続かないだろうという見方が強かったように思います。ただ、徐々にどうもそうではないのではないかという流れになってきました。その背景の一つは、やはり円安ですね。もともと第1四半期時点での企業収益が非常に良かった、そこに収益面で今まで重荷になっていた為替の円高が逆に動き出しました。それが全体の買いの勢いを強めた背景にあるのではないでしょうか。

■ドル円レンジブレイクの可能性と円独歩安の芽

――為替はいま対ドルで円安が進んでいますが、今年の初めから上は114円、下は107円処のボックス圏にあります。114円まで円安が進むと、また円高に向かうのでしょうか。山岡編集長はどう見てますか?

山岡(外国為替担当編集長) 円安についてですが、ドルだけではなく、ユーロやポンドに対しても円安が進んでいます。いま何が起きているかというと、アメリカが3月、6月と利上げし、12月も利上げの可能性が高まっています。ユーロも10月にこれまでの量的緩和の縮小開始を決定する見込みです。イギリスも11月に利上げに踏み切る可能性が非常に高い状況にあります。

一方、日本は、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続しています(本対談後、日銀は金融緩和の維持を決定)。国際経済の中で見ると、ほとんどの主要国が金融引き締めに舵を切る中、日本だけが唯一緩和維持といった構図ができあがり、そうなるとお金ってやっぱり日本から逃げてしまうものです。いわゆる『日本から外へと』という投資資金の流れができてくると、どうしても円安に傾きやすくなります。

――ボックスを円安方向に放れる可能性が高いということでしょうか?

山岡 北朝鮮リスクという問題がありますが、アメリカに関していえば、10月から始まる新年度予算を無事にクリアしそうだということも大きかった。トランプ大統領については何をするかわからない怖さがある一方で、トランポノミクスに対する期待感もあります。そうした中で、9月の最終週に共和党とホワイトハウスが税制改革の大枠を発表すると。また、12月までの暫定予算も決まりました。そうなると、「あれ、混乱せずに、そのまま何とか上手くいきそうだね」みたいな、雰囲気ができたのがかなり大きいです。特に減税への方針をしっかり示していますので、こうなるとアメリカ経済はこのまま持ち上がってくれるだろうとの期待が高まります。もともとアメリカ経済に対する期待感が強い中で、さらにそれが押し上げられるとなると、やはり資金はそこへ向かって流れていきます。

そうした資金が一気に反転する可能性が、有事リスクやトランプ・リスクだったのですが、リスク懸念が後退すれば、資金は日本からアメリカやヨーロッパに向かいます。そういう状況がようやくできてきたのかなというところなので、ドル円で114円で止まらず、上(円安)にいってくれる可能性は十分にあると思います。

――円の独歩安になる可能性は結構あるということですね。

山岡 先進国の中では少なくとも円の独歩安という流れはできてくると思います。年内にはこのレンジ相場をドル円でも抜け出す可能性は結構高いとみており、115円がターゲットになってくると思います。

■金は上昇第2幕の可能性も

――景気のバロメーターである銅、あるいはアルミといった商品市況の上昇の背景には中国経済の好調などがあり、世界経済の先行きは非常に明るくなっているという印象です。

森(商品先物担当編集長) アメリカ経済が非常に好調で、一次産品需要が底上げ状態にあります。この夏の相場を振り返ってみると、中国での銅、アルミといった非鉄関連の需要が、商品相場全体を押し上げたと言えます。加えて、中国国内では環境問題を背景に銅やアルミの減産が進んでいます。これらが国際需給を引き締め、国際価格を押し上げる買い材料になっている点も見落とせません。さらにプラスして投機資金の動きがあります。ファンドを含めた投機資金が流入しているといったことも、商品市況上昇の背景にはあります。

金に関しては、他のコモディティと違う側面があります。金は昔から有事に買われる商品ですが、9日の北朝鮮独立記念日を控えて非常に投資家の不安心理が強まったことで、一気に1300ドル/トロイオンス台から1400ドル台に向かうのではないかとの見方がありました。結局、北朝鮮の軍事的挑発がなかったことで安心感が広まり、金市場から株式市場へと資金が流出したと言えると思いますね。ただ、長い目で見ると、まだ北朝鮮リスクは完全に払拭されたわけではありませんので、戻り安感が出る水準まで下げてきたら、投資家が押し目買いを入れる可能性は非常に高いと考えています。

金は1300ドルの水準にありますが、これが1300ドル/トロイオンスを割り込む状態が1週間、10日と続くと、ファンドとしてはしびれを切らして手仕舞う可能性があります。この水準を維持できれば、第2幕の上昇局面に入っていくことも期待できます。

――一方で石油に関しては泣かず飛ばすですが、この状態は続くのでしょうか。

森 世界的にダブついている需給を引き締めようという試みを、サウジアラビアを旗振りにOPEC関連国がここ半年ぐらい続けてきましたが、ようやく効果が出てきたかなというところです。ただ、リビアは減産を免れており、急速に需給が引き締まってくることはないでしょう。最悪期は脱出してようやく50ドル水準まで上げてきましたが、産油国としてはやはりもう少し価格を上げたいという思惑があると思います。55ドル、60ドル台までに引き上げるには、さらなる減産が必要です。しかし、基本的には45ドル~55ドルのレンジ相場の中間水準かなという感じはします。

――やはり石油の低迷はまだまだ続くと?

森 そうですね。ドルと基本的に逆相関性がありますので。アメリカの12月利上げ観測が、今回のFOMC声明文で強まりました。ここから3ヵ月の間にドル高傾向が強まると、原油相場にとっては上値圧迫要因になります。もう一回、ファンド筋の手仕舞いが出た場合、47、48ドルくらいまで水準が下がる可能性はあります。一方で11月にOPEC総会がありますので、おそらく10月から11月上旬にかけて、思惑による売買が広がる可能性があります。その点は少し要注意という感じですね。


■回復著しい欧州、ポンドとユーロが強さ発揮か

――ドルとの逆相関の話しが出ましたが、ドルの見通しはどうでしょうか? 先ほど円は独歩安の可能性があると指摘されていましたが、ユーロや資源国通貨に対するドルの動きをどう見ていますか。

山岡  トランプ政権の今後の動向次第というのはあります。結局、税制改革が上手くいき、企業減税が進み設備投資を増やせば、当然そこにお金は流れていきますから、ドルが買われていきます。いまは、回復が遅れていた欧州圏の回復が著しいのでそちらにお金が向かっています。為替の場合は、リスク相場でなくなってくると話は非常に単純化されてきます。結局、景気が良くなるところ、景気の期待感の強いところにお金は流れます。

他にやはり金利差ですね。アメリカの利上げ期待が強まってくると、オセアニア、新興国に流れるお金も減ります。その辺のところの差もあって、おそらくポンド、欧州ユーロの2通貨、それに続いてドル、新興国、円ぐらいの順番の強さになっていくのではないでしょうか。

――適温状態が続くイメージでしょうか。

山岡 ドルに関しては若干強いけども、欧州通貨が先に行って、ドル単体ではそこまで強くなり過ぎないぐらいのイメージですね。その他通貨では、原油がもう少し上がってくれば、カナダの景気がよいのでもう少し買われてくれるかもしれませんけどね。

※「リスクオンの地図、2つの世界"緩和継続"と"引き締め開始"が導く未来(後編)」へ続く

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