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【特集】「洋上風力発電」に普及の波、“脱炭素”と政府後押しで拡大へ <株探トップ特集>

政府の後押しを受け、洋上風力発電の普及に向けた動きが加速しそうだ。

―広い裾野と長期メンテナンス、波及効果にも魅力―

 脱炭素社会の実現という世界的な潮流のなか、国内でも 洋上風力発電の普及に向けた動きが加速しそうだ。梶山弘志経済産業相は3日の会見で環境負荷が大きいとして国際的に批判が高まっている非効率な石炭火力発電を段階的に削減していく方針を表明したが、これを進めるためには再生可能エネルギーの拡大が欠かせない。なかでも海の上で土地の制限なく風車を設置できる洋上風力発電は、国土が狭く四方を海で囲まれた日本で再生エネの供給を大量に増やす切り札として注目されている。関連部品が1~2万点と多く、メンテナンスが数十年続くことなどを含めて経済への波及効果が大きいことから、政府は民間投資を活用した建設を進め主力電源化したい考えだ。

●官民協議会が初会合

 経済産業省と国土交通省は17日、洋上風力発電の導入拡大と関連産業の競争力強化に向けた官民協議会の初会合を開いた。会合では風車の組み立てなど関連産業の投資を呼び込むために必要となる中長期的な導入量が議論され、政府側は年間100万キロワットの導入を5~10年間続ける必要性を指摘。これに対し、民間側の日本風力発電協会は2030年の導入量を10ギガワット(1ギガワット程度を10年間)、40年には世界各国と肩を並べる競争環境を醸成できる市場規模である30~45ギガワット(年間当たり2~4ギガワット)を求めた。

 今後は事業者の予見性の確保(中長期的な洋上風力発電導入のポテンシャルと課題の分析)や、個別分野(設計・製造、建設・海洋土木、メンテナンス、ファイナンスなど)ごとの課題の分析、インフラ・環境整備(系統、港湾・コンビナート、産業基盤)、業界の投資やコスト低減に向けた取り組みなども話し合われる予定で、課題解決と導入拡大に向けた具体的な方向性を示す「洋上風力産業ビジョン(仮称)」を作成するとしている。

 世界各国は脱炭素の流れから洋上風力発電に注力しており、30年の導入目標として欧州連合(EU)が65~85ギガワット、米国が22ギガワット、台湾が10ギガワット、韓国が12ギガワットを打ち出している。政府のエネルギー基本計画では30年度の再生エネの構成比率を全体の22~24%に高めるとしているが、19年12月時点の実績は約17%。目標達成には再生エネを大量導入できる洋上風力発電が必要不可欠で、今後は関連企業のビジネス機会が一段と増えそうだ。

●発電事業者を中心に動き活発化

 こうしたなか、民間企業の動きも本格化しつつある状況で、東京電力ホールディングス <9501> 子会社の東京電力フュエル&パワーと中部電力 <9502> が折半出資するJERAは6月、仏イデオルなどと共同で浮体式洋上風力発電事業の開発会社を設立することで基本合意した。風車を海上に浮かべる「浮体式」のノウハウを蓄積するとともに、案件の初期段階からの関与による高い収益性の確保を目指すとしており、新会社の設立で洋上風力発電の開発を加速させたい考えだ。

 また、レノバ <9519> や東北電力 <9506> などが出資する事業会社「秋田由利本荘洋上風力」は、由利本荘市沖で洋上風力発電プロジェクトを進めている。今月には同地域が再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)に基づき、洋上風力発電設備を優先的に整備できる「促進区域」に指定された。同プロジェクトでは既に三菱重工業 <7011> グループのMHIヴェスタスの風力発電設備を採用することや、洋上建設業者に鹿島 <1812> を優先交渉権者とすることを決定するなど事業実現に必要な準備を整えており、今後予定される事業者公募手続きに向けて期待は高い。

 このほか、国際石油開発帝石 <1605> や住友商事 <8053> 、JR東日本 <9020> グループのJR東日本エネルギー開発など8社は5月、秋田県能代市、三種町、男鹿市沖での洋上風力発電事業の実施を目的にコンソーシアムを組成。九州電力 <9508> 子会社の九電みらいエナジーは秋田県由利本荘市沖での入札参加に向けた検討に入り、日立造船 <7004> と東洋建設 <1890> は共同で着床式の洋上風力発電施設の低コスト化を実現できるサクションバケット基礎の施工技術実証に取り組んでいる。

●部品やメンテナンス企業にも注目

 国内には潜在的な技術力とものづくりの基盤があり、中長期の導入目標があれば市場形成の期待感から関連産業の設備投資が進むとみられる。風車を手掛ける駒井ハルテック <5915> 、風力発電 向け軸受けを扱う日本精工 <6471> やNTN <6472> 、グループ会社がシステム設計やメンテナンスなどを請け負っている明電舎 <6508> などに加え、風力発電設備を建設する専用船であるSEP船を持つ清水建設 <1803> 、五洋建設 <1893> 、大林組 <1802> と共同で保有する東亜建設工業 <1885> に商機がありそうだ。

 これ以外では、日本風力発電協会の会員に名を連ねている日本国土開発 <1887> 、協和エクシオ <1951> 、太平電業 <1968> 、イメージ ワン <2667> [JQ]、構造計画研究所 <4748> [JQ]、藤倉コンポジット <5121> 、千代田化工建設 <6366> [東証2]、安川電機 <6506> 、パスコ <9232> 、アジア航測 <9233> [東証2]、応用地質 <9755> 、いであ <9768> などの動向も注目される。

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