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【特集】個人が「売り」越した週は、「これ」があるか見逃すな
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第45回
前回記事「ステイホームで増殖、イナゴ投資家の好みは『低』」を読む
とにかく、下がらない相場が続いています。新型コロナウイルス(以下、コロナ)の動向は依然として予断を許さない状況で、かつ過去12カ月の東証1部銘柄の純利益は3割近く減益となっているにもかかわらず、それに反して一方的な強い上昇を達成してきました。
コロナ前の高値まであと数%、1年前の株価水準と比較すればすでにほぼフラットといった具合です。
仮に、株式市場は期先の成長性を事前に織り込むものといいう前提に立っても、12カ月先の予想利益成長は13%程度の増益であり、差し引きで15%以上は株価が過大評価されている計算になります。コロナの第2波到来懸念などを考慮すると、これはあまりに高すぎると言わざるをえません。
個人投資家のセンチメントから行動ファイナンス的な投資アイデアを探索
では、一体何がその上昇のドライバーとなっているのでしょうか。大枠としては、先進各国の中央銀行による流動性供給があります。特に日本では、日本銀行がETF(上場投資信託)を介して株式市場を直接買い支えており、下落すべき時に下がらず、無意味なプレミアム増大が助長され続ける異常な事態となっています。
こうした現在の日本株市場の中で我が世の春を謳歌しているのが、「個人投資家」です。前回も述べましたが、コロナ・ショック以降で個人投資家の影響力は増しており、その存在感が強まっています。
彼らは基本的に逆張りで、市場の下落と同期して株を買い、上昇と同期して利食うというスタイルで一貫しています。特に買い側については、日銀の買い支えと同じで、株式市場の底支え役としての力は決して侮れない規模になっているようです。
今回は、そんな個人投資家が一体どういったセンチメント(投資家心理)のもとで需給を決定しているのかを深堀りし、行動ファイナンス的な観点から投資アイデアへとつなげてみたいと思います。
前回は、彼らが好む銘柄を「低サイズ、低株価、低リターン」の3つの具体的なファクターから検証しましたが、今回は異なる視点で、「相場の方向性」と「需給の論理的な関係性」から、個人投資家のスタイルを洗い出していきます。
個人が売り越す週にTOPIXが上昇しているケースは全体の80%超
まず、個人投資家と外国人投資家の投資の傾向からおさらいです。
下のグラフは、過去10年程度の期間について、個人投資家と日本株市場のトレンドを形成しているといわれる外国人投資家が買い越し、売り越しした週のTOPIXの上昇週の数の割合を見たものです。
■個人と外国人投資家の週次の売買動向と、TOPIXが上昇している割合
出所:データストリーム。図中の「売り」は売り越し、「買い」は買い越しを表す(以下同じ)
個人投資家が売り越しの週にTOPIX(東証株価指数)が上昇しているのは全体の80%以上を占めており、逆に買い越しの週は10%程度しか上昇していません。
言い方を変えれば、TOPIXが上昇するときに個人投資家は積極的に利食うので売り越しとなり、下落しているときは押し目買いが一気に発生して買い越しとなる、ということになります。
外国人投資家はその逆で、彼らは基本的には順張りで、下落時は売り、上昇時は買いになります。両者の動きはほぼ逆と見ていいでしょう。このあたりは、前回も述べた通りです。
個人が売り越した翌週のTOPIX騰落率は年率換算で15%に迫る
さて、今度は少し視点を変えて、「前週」に買い越し、または売り越しであった場合に、その翌週の株価はどのように動きやすいのか、という点について見てみたいと思います。
結果としては、個人投資家が前週に「売り」越した翌週は上昇しやすく、「買い」越しの場合はほぼフラットかややマイナスになりやすい、といった傾向が見られます。ここでも、外国人投資家はまったく逆の傾向です。
ここで注目したいのは、一番左の「前週売り越し」で次の週が上昇するケースです。これが何を意味しているのかを定性的に考えてみましょう。
■個人および外国人の売買動向別に見た翌週のTOPIX騰落率(年率換算)
出所:データストリーム
先に見た個人と外国人の売買と、TOPIXの上昇割合との兼ね合いでは、個人が前週に売り越しているということは、多くの場合で市場は上昇していた可能性が高いでしょう。
つまり、個人が前週に売り越したのは、上昇相場でしっかりと「利食い」し、それにより手元資金が潤沢になっていると仮定できます。そうなると、売り越しした翌週はその手元資金を元手に買い入れやすい状態にある、と考えるのが自然です。
ではこうした個人の逆張りスタンスは日本株の下支え役として機能しているのでしょうか。それを見るために、個人が売り越した週にTOPIXが下落した場合の平均下落率を見てみましょう。下のグラフの左に示したのがそれで、2%未満になっています。
参考まで右側に個人が売り越した翌週に、TOPIXが下落した場合の平均下落率を示しています。こちらは2.5%近くとなっており、ここからも、わずかな差ではありますが個人投資家の下支え効果を確認することができます。
ただし、過去10年の週次という長期のサンプルでのデータなので、この差は小さいながらも決して無視できるものではありません。個人が利食いした週のポテンシャル・マネーが、下支え役として機能しているといっても過言ではないでしょう。
■個人の売買動向別に見た翌週のTOPIX平均下落率
出所:データストリーム
売り越した翌週は個人の買いが増える前提での戦略は
そうとなれば、そこから投資アイデアへと落とし込むのはシンプルです。
基本的に、前週に個人が売り越しとなった週は、まず手元資金を元手に彼らが買いにくるという前提を立てます。そして、この動きとの連動性が高い銘柄は高いパフォーマンスを上げる可能性が強まります。
この連動性を個人の売買動向の売り買い差し引き額と、週次の株価リターンとの相関係数によって定義します。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
株探ニュース
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大川智宏(Tomohiro Okawa)
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「ステイホームで増殖、イナゴ投資家の好みは『低』」を読む
とにかく、下がらない相場が続いています。新型コロナウイルス(以下、コロナ)の動向は依然として予断を許さない状況で、かつ過去12カ月の東証1部銘柄の純利益は3割近く減益となっているにもかかわらず、それに反して一方的な強い上昇を達成してきました。
コロナ前の高値まであと数%、1年前の株価水準と比較すればすでにほぼフラットといった具合です。
仮に、株式市場は期先の成長性を事前に織り込むものといいう前提に立っても、12カ月先の予想利益成長は13%程度の増益であり、差し引きで15%以上は株価が過大評価されている計算になります。コロナの第2波到来懸念などを考慮すると、これはあまりに高すぎると言わざるをえません。
個人投資家のセンチメントから行動ファイナンス的な投資アイデアを探索
では、一体何がその上昇のドライバーとなっているのでしょうか。大枠としては、先進各国の中央銀行による流動性供給があります。特に日本では、日本銀行がETF(上場投資信託)を介して株式市場を直接買い支えており、下落すべき時に下がらず、無意味なプレミアム増大が助長され続ける異常な事態となっています。
こうした現在の日本株市場の中で我が世の春を謳歌しているのが、「個人投資家」です。前回も述べましたが、コロナ・ショック以降で個人投資家の影響力は増しており、その存在感が強まっています。
彼らは基本的に逆張りで、市場の下落と同期して株を買い、上昇と同期して利食うというスタイルで一貫しています。特に買い側については、日銀の買い支えと同じで、株式市場の底支え役としての力は決して侮れない規模になっているようです。
今回は、そんな個人投資家が一体どういったセンチメント(投資家心理)のもとで需給を決定しているのかを深堀りし、行動ファイナンス的な観点から投資アイデアへとつなげてみたいと思います。
前回は、彼らが好む銘柄を「低サイズ、低株価、低リターン」の3つの具体的なファクターから検証しましたが、今回は異なる視点で、「相場の方向性」と「需給の論理的な関係性」から、個人投資家のスタイルを洗い出していきます。
個人が売り越す週にTOPIXが上昇しているケースは全体の80%超
まず、個人投資家と外国人投資家の投資の傾向からおさらいです。
下のグラフは、過去10年程度の期間について、個人投資家と日本株市場のトレンドを形成しているといわれる外国人投資家が買い越し、売り越しした週のTOPIXの上昇週の数の割合を見たものです。
■個人と外国人投資家の週次の売買動向と、TOPIXが上昇している割合
出所:データストリーム。図中の「売り」は売り越し、「買い」は買い越しを表す(以下同じ)
個人投資家が売り越しの週にTOPIX(東証株価指数)が上昇しているのは全体の80%以上を占めており、逆に買い越しの週は10%程度しか上昇していません。
言い方を変えれば、TOPIXが上昇するときに個人投資家は積極的に利食うので売り越しとなり、下落しているときは押し目買いが一気に発生して買い越しとなる、ということになります。
外国人投資家はその逆で、彼らは基本的には順張りで、下落時は売り、上昇時は買いになります。両者の動きはほぼ逆と見ていいでしょう。このあたりは、前回も述べた通りです。
個人が売り越した翌週のTOPIX騰落率は年率換算で15%に迫る
さて、今度は少し視点を変えて、「前週」に買い越し、または売り越しであった場合に、その翌週の株価はどのように動きやすいのか、という点について見てみたいと思います。
結果としては、個人投資家が前週に「売り」越した翌週は上昇しやすく、「買い」越しの場合はほぼフラットかややマイナスになりやすい、といった傾向が見られます。ここでも、外国人投資家はまったく逆の傾向です。
ここで注目したいのは、一番左の「前週売り越し」で次の週が上昇するケースです。これが何を意味しているのかを定性的に考えてみましょう。
■個人および外国人の売買動向別に見た翌週のTOPIX騰落率(年率換算)
出所:データストリーム
先に見た個人と外国人の売買と、TOPIXの上昇割合との兼ね合いでは、個人が前週に売り越しているということは、多くの場合で市場は上昇していた可能性が高いでしょう。
つまり、個人が前週に売り越したのは、上昇相場でしっかりと「利食い」し、それにより手元資金が潤沢になっていると仮定できます。そうなると、売り越しした翌週はその手元資金を元手に買い入れやすい状態にある、と考えるのが自然です。
ではこうした個人の逆張りスタンスは日本株の下支え役として機能しているのでしょうか。それを見るために、個人が売り越した週にTOPIXが下落した場合の平均下落率を見てみましょう。下のグラフの左に示したのがそれで、2%未満になっています。
参考まで右側に個人が売り越した翌週に、TOPIXが下落した場合の平均下落率を示しています。こちらは2.5%近くとなっており、ここからも、わずかな差ではありますが個人投資家の下支え効果を確認することができます。
ただし、過去10年の週次という長期のサンプルでのデータなので、この差は小さいながらも決して無視できるものではありません。個人が利食いした週のポテンシャル・マネーが、下支え役として機能しているといっても過言ではないでしょう。
■個人の売買動向別に見た翌週のTOPIX平均下落率
出所:データストリーム
売り越した翌週は個人の買いが増える前提での戦略は
そうとなれば、そこから投資アイデアへと落とし込むのはシンプルです。
基本的に、前週に個人が売り越しとなった週は、まず手元資金を元手に彼らが買いにくるという前提を立てます。そして、この動きとの連動性が高い銘柄は高いパフォーマンスを上げる可能性が強まります。
この連動性を個人の売買動向の売り買い差し引き額と、週次の株価リターンとの相関係数によって定義します。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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