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【特集】ふるさと納税は「人生100年マネー」づくりにおトク?

清水香の「それって常識? 人生100年マネーの作り方-第9回
清水香(Kaori Shimizu)
FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表
清水香1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任。2019年よりOfficeShimizu代表。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。 財務省の地震保険制度に関する委員を歴任、現在「地震保険制度等研究会」委員。日本災害復興学会会員。

前回記事「キャッシュレスを賢く利用、"ウィズコロナ"時代のカンタン家計管理術」を読む
選んだ自治体への寄付で税金が安くなる「ふるさと納税制度(以下、ふるさと納税)」。最近は返礼品をめぐり、ふるさと納税の対象から除外され、国を提訴した大阪府・泉佐野市が最高裁で逆転勝訴して話題になりました。
 
でも、本来は税金として納めるべきものが、寄付に変化し、その感謝の印として返礼品を受け取る、というのは冷静に考えると違和感を持ってしまいます。税金は公共サービスを充実するための義務ですが、寄付は個人が自発的に行うもので、する・しないの判断は個人の裁量に任せられています。
 
納税が寄付に変わることで返礼品をもらえることのみに焦点があたった現在のふるさと納税のあり方は、私たちの暮らしに深刻な影響を及ぼしかねない危うさも孕んでいます。
 
一方で、人口減・過疎化が進む地域の税収不足を緩和するツールとしてふるさと納税が活用されている実態もあり、また地産の返礼品の需要がふるさと納税を通して盛り上がれば、地域の産業振興や経済の活性化に、つながる面もあります。
 
ふるさと納税は、返礼品の"おいしさ"ばかりに注目が浴びがちですが、個人と地域社会のお金の新しい常識を考えるきっかけになります。
 
自分にとってのおトクばかり考える自分ファーストが強すぎると、地域の健全な発展が損なわれて自分に跳ね返るものです。自分ファーストを超越する人生100年マネーづくりを知るうえで、ふるさと納税は格好の教材になるはずです。
寄付の源泉は住民税
ふるさと納税という言葉は知っていても、実はよく知らないという人もいるのではないでしょうか。実際、川崎市の調査によれば、ふるさと納税を利用していない人は約8割におよびます。まずは、仕組みのおさらいからしましょう。
 
ふるさと納税は、自分の選んだ自治体に寄付をすると、所得税や個人住民税から寄付金額の2000円を超える部分が控除される、つまり税金が安くなる制度です。
 
例えば年収700万円の給与所得者が3万円のふるさと納税をすると、所得税・住民税が合計2万8000円安くなります(扶養家族が配偶者のみの場合)。安くなる額には収入や家族構成に応じた上限があり、前述の世帯なら年間8万6000円が上限額の目安です。
【タイトル】
返礼品のない災害支援や子ども宅食も
多くの自治体が寄付額に応じた返礼品を用意していますが、これについて2019年5月に総務省がルールを設けており、寄付額の3割以下、かつ地場産品に限定されています。
 
各自治体のふるさと納税への取り組みを知るには、自治体ウェブサイトのほか、自治体が業務委託しているポータルサイトは各地の情報を一覧できるので便利です。ただ、このポータルサイトでは返礼品が前面に出がちですが、ふるさと納税では、災害支援や地域支援が手軽にできることも知っておきたいところです。
たとえばポータルサイト「ふるさとチョイス」では、7月初頭に発生した「令和2年7月豪雨」の被災自治体に対する災害支援でふるさと納税による寄付を受け付けるページが掲載されています。水害で甚大な被害が生じた熊本県人吉市には、他の自治体が引き受けている代理寄付もあわせると、既に1億2700万円ほどのお金が、集まっています(7月20日午前9時半現在)。
 
また同サイトで募集する「令和2年7月豪雨」全体では、4億0800万円ほどになっています(同)。
 
■「ふるさとチョイス」に掲載されている熊本県人吉市への災害支援寄付受付ページの抜粋
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注:7月20日午前9時半時点
 
返礼品はありませんが、寄付全額が自治体に届けられ、人吉市の復旧・復興のために使ってもらえます。2016年熊本地震の際も、熊本市が6つの復興メニューから寄付先を選択できるふるさと納税に、多くの寄付が寄せられました。
都市部での活用例もあります。東京都文京区はNPOと組み、生活困窮世帯にフードバンク等を活用して食品を配送、支援につなげる「子ども宅食」に取り組んでいます。返礼品はありませんが、事業開始の2017年は、寄付の目標額2000万円を大きく上回る8225万円が寄せられ、現在も続いています。
 
地域課題の解決にふるさと納税を活用する自治体は多くあります。ふるさと納税を使えば、本来は居住地に納めていたお金を、応援したい自治体に寄付、納得できる方法で使ってもらえます。
 
返礼品は受け取れませんが、居住地の自治体にもふるさと納税はできるので、住む地域の一定の使途のためにお金を流すことも可能。自分が本来納めるはずだった税金の範囲で、共感をお金に換え寄付できるので、多くの人が無理なく応援できる優れた仕組みと言えます。
 
寄付の際は、自治体のウェブサイトや、ふるさと納税のポータルサイトなどで手続きをします。その後は書類をそろえ、翌年に忘れず確定申告を。所得税は寄付した年、住民税は翌年度分が減額されます。
 
確定申告のいらない「ふるさと納税ワンストップ特例」は、寄付する自治体数が5団体以内の場合に、確定申告不要の給与所得者等が利用できます。寄付の際に特例申請書の提出が必要です。
 
なお、寄付に伴い受け取った返礼品は一時所得に該当します。懸賞や福引の賞金品、貯蓄型保険の満期金等を合わせて50万円を超えると、超えた額が課税対象になります。
返礼品の経費などで、自治体の実入りは寄付の半額以下に
 
納税者が応援したい自治体を"ふるさと"として選び、そこでの税の使われ方を考えつつ寄付を行うことで、地域・納税者の両者が高めあう関係を目指す。
 
「ふるさと納税」には、こんな美しい理念が掲げられていました。東京一極集中が進む一方、地方では人口流出、高齢化・過疎化がさらに進んでいます。都会に税金が集まり続けるなか、ふるさと納税を導入してこうした不均衡を是正、これが「地方創生」に繋がることが期待されたわけです。
 
導入から10年後の2018年、ふるさと納税は受け入れ額、件数ともに過去最高になりました。
■ふるさと納税の受け入れ額の推移(億円)
【タイトル】
出所:「ふるさと納税に関する現況調査結果」(総務省・2019年8月2日、以下同)
しかし、これは多くのふるさと納税が、理念と離れた方向で利用された結果でもあります。川崎市の資料によれば、約9割の人がふるさと納税をした理由に「よい返礼品があったから」と回答しています。
 
2015年頃から利用者が急増した背景には、税制改正で確定申告不要の制度ができたことのほか、各自治体による返礼品拡充があり、その後、寄付獲得を目指す自治体の返礼品競争はさらに激化しています。
 
例えば、130万円のシルクコートや宮崎牛1頭、ノートパソコンやアマゾンギフト券といった具合です。そこで総務省が新たなルールを設け、寄付額の3割以下の地場産品に限定されることになったのです。
 
そもそもふるさと納税には、かなりの経費が掛かっています


 

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