【市況】中村潤一の相場スクランブル 「東証2部は超バリュー株と夢の成長株の宝庫」
株経ONLINE 副編集長 中村潤一
株経ONLINE 副編集長 中村潤一
今月はスケジュール的に起伏の激しい月です。今週10日のメジャーSQ算出を控え波乱となる懸念もゼロではありませんが、基本的に日経平均2万円未満の水準では大きく下に振られる可能性は限定的と思われます。また、米国時間10日には米2月の雇用統計、それに先立って8日にADP全米雇用リポートが発表されます。基本的に米国経済は堅調であり、よほどのことがない限りここで3月利上げのシナリオが払拭されるようなことは考えにくく、日米のマーケットも来週14~15日の利上げについては、ほぼ100%織り込んでいる状態でしょう。ただし、今後の利上げペースがどうなるかに市場関係者の関心が集まっており、FOMC後のイエレンFRB議長の記者会見を、固唾を飲んで見守る格好となります。
●相場の大勢波動に変化なし
とはいえ、ここでイエレン議長が予想以上にタカ派的な発言をしたとしても反応は短時日にとどまり、相場の大勢が変化するには至らないでしょう。
くしくも15日は日銀の金融政策決定会合(~16日)、オランダ議会選挙と日程が重なります。米国債務上限引き上げ問題の期限もこの日です。日銀の決定会合は現状維持の無風通過が濃厚で注目する要素はあまりありませんが、オランダ議会選挙の結果は今後の反EUの火種にもなるだけに世界的にも注目度は高いようです。極右政党である自由党の議席数が躍進する可能性が指摘されています。自由党は全150議席のうち現在12議席を有するに過ぎませんが、議席数を伸ばせばその分だけ他の政党が減らすことになり、40議席の自由民主国民党や35議席の労働党も安穏とはしていられない状況にあります。ただ、自由党が万が一第一党になったとしても、ここと他党が連立を組んで政権を揺るがすようなことは現実的には起こり難く、身構えるほどのリスクを孕んでいるとは思えません。
15日に期限を迎える米国債務上限引き上げ問題についても、今に始まった話ではなく、これについては過去に遡っても狼が来るぞ、と見せかけて来ないパターンの繰り返し。大統領がトランプ氏だからといって、ここで米国デフォルトに向けた引き金がいきなり引かれることは考えられず、15日までに議会の承認を得る形となりそうです。
●懐疑の中で育つ相場、予算教書でエンジン再始動も
一方、13日前後とみられる予算教書提出は、少なからず相場に影響を及ぼすことが考えられます。しかしトランプ陣営にすれば、ここで掲げる数字は議会の交渉を前にした値切られることを前提とした正札のようなものであって、商売人であるトランプ大統領が、マーケットに最初から失望感を与えるようなプライシングは絶対に避けたいところではないかと考えます。この予算教書提出では“トランプマジック”でむしろ、株価を押し上げる方向に働くのではないかと考えるのは楽観的過ぎるでしょうか。
いずれにしても、日経平均1万9000円台で瀬踏みを続ける東京市場において、戦々恐々としているのは買い方ではなく売り方なのです。今は3月期末を前にした決算対策売りや先物にリンクさせたアルゴリズム売買が上値を押さえていますが、新年度入りもしくは3月下旬にも需給関係は良化してくる公算が大きい。地政学リスクなど相場を取り巻く不透明な環境は拭いきれませんが、ここはじっくりと腰を据え、懐疑の中で育つ相場を堪能する局面ではないかと思います。
●東証2部、ジャスダック、そしてマザーズが吠える
もっとも、こうした今の外部環境は国内外の機関投資家資金が集結する東証1部の主力株の動向に影響を与えるものです。しかし、今の個人投資家の主戦場はもっと時価総額の小さい銘柄群です。そこにフォーカスを絞ると全く違った光景が広がっていることに気づかされます。中小型株優位の構図は昨年12月28日掲載の「究極の輝き2017年AI相場本格始動へ【第2部】2017年相場で何を買うか」以降、当コーナーで主張してきた相場戦略の基本軸でもありますが、それが東証2部、ジャスダック、マザーズ市場の全体指数にも如実に反映されています。
1ヵ月前の当コーナー(2月8日掲載)で「マザーズ開眼!」として出遅れているマザーズ市場に吹く“春一番”を取り上げましたが、マザーズ指数はその後、直近高値まで1ヵ月間で7%強上昇、今週初めまで11連騰でまさに南風の絨毯(じゅうたん)に乗るという感じで上値追い態勢にあります。ただ、時価は昨年4月の高値1226ポイントから見れば12%下回っています。この出遅れ感が今後は上値の伸びしろとして意識されそうです。
一方、ジャスダック市場では日経ジャスダック平均がその上を行く19連騰で3000円ラインを何の躊躇もなく風のように通過、足もとは3050円台まで上昇しており、これはバブルの余韻冷めやらぬ1991年7月以来約26年ぶりの高値圏。さらに驚くべきは、東証2部指数で、8日こそ上昇一服となったものの直近高値は5800ポイント台まで買われており、これは既に指数算出以来の最高値圏を舞う状況にあります。これまで、ジャスダック平均も東証2部指数も戻りの大きなポイントとなっていたのが2006年1月の高値( 東証2部指数が5531ポイント、ジャスダック平均が2904円)でした。しかし、いずれも今年2月上旬にこの戻りの要衝を抜いたことで、青空相場突入の切符を手に入れた格好となっているのです。
ただし両市場とも上昇率でいえば、直近1ヵ月は5~6%にとどまり、マザーズの後塵を拝している状況です。マザーズは相対的な出遅れ感がある分だけ上昇パフォーマンスにプラスアルファが働いている状況。また、鮮烈人気化する直近IPO銘柄もマザーズ市場に多いことが指数に寄与していると思われます。
●東証2部は超バリュー株の宝庫
東証2部は4市場のなかで唯一、未踏の高峰を行く地味にスゴイ市場となっています。指数の急激な上昇だけを見ると、半ばバブル的な印象も受けますが、バリュエーション面ではそうともいえません。大きな礎となっているのは会社解散価値を大きく下回る有配(配当を実施している)銘柄が数多く存在することです。こうした銘柄群は、出来高流動性の乏しさが超割安水準に放置されている背景となっていますが、時に爆発的な上昇をみせる銘柄には低PBRの条件を備えたものが少なくないようです。最大の弱点である商いが膨らみさえすれば、自然と株価には浮揚力が働くメカニズムです。したがって、目先動意含みの超バリュー株に勝機ありです。
具体的には解散価値の半値以下、PBR0.4倍台の岡山県貨物運送 <9063> [東証2]、さらに低PBRのリンコーコーポレーション <9355> [東証2]。自動車部品メーカーで三菱自動車工業 <7211> の経営再建と合わせて来期業績回復期待のイクヨ <7273> [東証2]。船舶用電機システムを手掛ける西芝電機 <6591> [東証2]は東芝 <6502> が親会社だけに逆に低PBRが注目されるケースも考えられます。このほかスポーツ用品卸大手のゼット <8135> [東証2]、特殊土木工事を手掛け業績増額サプライズのあった技研興業 <9764> [東証2]なども改めてマークしておきたいところです。
●テーマ買いならIoT時代到来でFPGAとGPU
また、モメンタム重視で値幅取りを狙うのであれば、ここはテーマ買いの動きにつくところです。株式市場は「経済を映す鏡」とよく言われますが、それは個別企業のファンダメンタルズの集大成でもあるからです。しかし、株式市場はそうした側面にとどまらず「時代の潮流を映す鏡」でもあります。ここにきてにわかにテーマ性を帯びてきたのが、人工知能(AI)の発展やIoT時代到来のキーデバイスとなり得る「FPGA」と「GPU」。これに関連する銘柄群は要注目です。
元来はASIC(特定用途向け集積回路)がハードウエアの中に組み込まれる電子部品の集積回路の主流でしたが、集積回路は一度載せたら、決められた設定を変更することはできませんでした。FPGAは、搭載した集積回路の設定を後から自由に変更することが可能という点で、これまでと大きく異なります。並列処理で計算するため高速化を可能とし、リアルタイム処理が必然となる自動運転やドローンなどで高水準の需要を囲い込むことが予想されています。
●安川情報、日本ラッド、アバールなどに照準
FPGAは米インテル子会社のアルテラと米半導体大手ザイリンクスが双璧となっており、今後日本企業との連携も頻繁化してくると思われます。直近ではPALTEK <7587> [東証2]がザイリンクスのFPGAを搭載した「DATA BRICK」開発で動意含みとなりました。また、GPU(画像処理半導体)では米半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)が日本でも有名。GPUもまたコンピューターの演算処理の高速化に貢献するデバイスとして脚光を浴びており、いうなればザイリンクスとエヌビディアはAI革命の根幹でポールポジションを奪い合うライバル関係といえそうです。
東証2部市場は前述したように超バリュー株の宝庫といえますが、夢を内包する成長株も数多く眠っています。FPGA・GPU関連として注目される銘柄も例外ではなく、東証2部、そしてジャスダック市場に目立つようです。安川情報システム <2354> [東証2]、日本ラッド <4736> [JQ]、アルチザネットワークス <6778> [東証2]、ソリトンシステムズ <3040> [東証2]、アバールデータ <6918> [JQ]、ULSグループ <3798> [JQ]などがその代表格となります。
(3月8日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース