【経済】【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3):◆秋相場乱高下リスクに金融縮小の影◆
〇不透明感にキャッシュ比率高める動き〇
一週間前の7日付で、米WSJ紙は「縮み続ける布地を使って身体に合った服を作るのは難しい。投資銀行に尋ねてみるといい」と、主に欧州系投資銀行の業務縮小が続いていることを揶揄する記事を掲載した。
今もなお、金融規制強化が続いている。単純に見れば、マイナス金利で利ザヤ圧迫を主張するなら、金融・運用機関はリスク資産投資をもっと行ってもよいはずだが、銀行も生保も株式投資などを膨らませられない規制がある。上昇場面ではむしろ保有株処分に動かざるを得ない状況だ。皮肉にも、金融緩和の効果を乏しくする作用に見える。
最近も、米FRBは議会に対し、銀行のコモディティー関連業務への関与を制限するよう提言した(8日)。安全性や健全性のみならず、コモディティー部門への投資は大手金融機関に不当に有利な立場を与えている可能性があることを理由に挙げた。一方、ECBはユーロ圏銀行の不良債権削減に関する新ガイドラインを発表した(12日)。今もなお、欧州系銀行は9000億ユーロ規模の不良債権を抱える。各行は独自に不良債権削減目標を設定し、1年後、3年後の数値目標が達成できなければ制裁される可能性がある。法的拘束力は持たず、銀行への打撃を避ける姿勢も見せているが、その分時間を要す。ECB報告によると、129行の昨年末不良債権比率は約7%で、イタリア12%、ポルトガル15%、ギリシャ47%が突出している。
13日付ブルームバーグは「大規模で知名度の高いヘッジファンドが顧客資金の流出に見舞われている」と報じた。ペリー・キャピタル(昨年9月の100億ドルから40億ドル)、オクジフ・キャピタル(年初の446億ドルから392億ドル)、著名投資家ジョン・ポールソン氏のファンド(5年前の380億ドルから1/3、今年も15%減)など。一時は中小ファンドから大手へのシフトが進んだと言われたが、運用成績などで選別が一段と厳しくなっているようだ。今年1-6月の業界全体の資金減は233億ドル(全体の運用規模は2兆9000億ドル)と伝えられたが、下期に加速している公算がある。
通例、秋は年末資金引き揚げに対応した換金売り、資金獲得競争のためのパフォーマンス向上への勝負(期末ドレッシングを含め)などの思惑が渦巻く。秋相場が波乱となり易い一因だが、今年は日米金融政策攻防、米大統領選(どちらになっても新大統領への期待が持てない異例の展開)、年明けのブレグジット交渉開始などを控え、不透明感が色濃い。
6月の英国民投票を巡る攻防では、予想外の結果で大波乱→比較的短期に収束・戻り相場のパターンとなった。その教訓から見ると、イベント前にキャッシュ比率を高め、結果を受けてポートフォリオ再構築が望ましいように見える。実際、13日の米債市場では中長期債中心に売られ、10年物国債利回りは3ヵ月ぶり高水準(1.7288%、前日1.6720%)となり、機関投資家のキャッシュ比率は最近15年間の最高水準に迫っていると報じられた。何処までが短期的要素か、何処までが年末に向けた金融収縮の要因か、不明だが、金融政策と金融収縮のバランス、整合性に目配りして置く必要がある。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/9/14号)
《TM》
提供:フィスコ