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【特集】“外国人売り”と“ETF買い”、日銀「官製相場」の真相 <うわさの株チャンネル>

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより

●水面下でぶつかる売りと買いの主体

 秋口から年末相場に向けて最大のヤマ場となるのは、いうまでもなく来週20~21日に行われるFOMCと日銀金融政策決定会合だ。これを目前に東京市場は値動きこそ荒いものの「無人のエレベーターが行き来している状態」(中堅証券営業部)で模様眺めムードに支配されている。しかし、水面下では売り方と買い方が巨躯(きょく)をぶつけ合う派手な戦いが繰り広げられており、今後の株式市場の行方をも左右する可能性が出てきた。

 水面下での買い主体といえば、それは日銀にほかならない。7月29日の金融政策決定会合で量的緩和策の選択肢として、日銀はETFの買いをこれまでの3.3兆円から6兆円、月額にして5000億円規模に倍増させることを決定した。これはショートポジションを投機的に積み上げる空売り筋にとっては脅威で、いかに日銀が押し目買いに徹しようとも下値に対する不安が解消されれば、日経平均株価は上昇相場の様相を強めるのではないか、という期待感が市場に漂った。

●“にらみ倒し”から“せめぎ合い”へ

 しかし、流れは意外な方向へと向かう。日銀は決定会合後、8月4日に名刺代わりに従来比倍額の707億円を投下したが、その後は音無しの構えで、これまで通りの機械的な12億円の新型ETF購入を除けば、10日、25日、26日のわずか3回、それぞれ同額の707億円を買い入れるだけにとどまっていた。当然ながら月5000億円消化するには遠く及ばない。にもかかわらず、結局8月相場は日経平均ベースで下ヒゲ付きの陽線を確保した。まさに、にらみ倒しを意図するかのような“ETF買いチケット”の出し惜しみ作戦が、気が付けば全体相場の自立機能を回復させるかたちとなっていた。

 ところが9月初旬を過ぎたところで様相は一変する。レイバーデーを通過した後の米国株市場は変調をきたし、とりわけ9月9日にはNYダウ平均が約400ドルの下げを演じた。まさにこれにタイミングを合わせるかのように、日銀は敢然と動き出した。これまでとは別人のごとく、9日から休日をまたいで12日、13日、14日、15日と5営業日連続で733億円のETFを購入。1回当たり26億円の増額で間断なく買いを入れ、9月は15日時点で計6回、金額にして既に4400億円を市場に投下している。9月1日の日経平均は終値ベースで1万6926円だったが、時価は1万6500円強とそこから400円もディスカウントされた状態。果たして4400億円の買いでも支えきれなかった売り玉はどこから出てきたのか、また、もしETF買いがなかったら日経平均はどこまで下がっていたのか、一部市場関係者の間でも話の種となっていた。

●ヘッジファンド決算絡みなら一過性

 これについて大手生保系調査機関のアナリストは「売りの主体は外国人しかいない。ただ、長期資金の日本株見切り売りとは違うだろう。9月末のヘッジファンドの決算を前にした売りニーズを日銀が受けるかたちとなった可能性がある。したがって一過性のものとみてよいのではないか」という見方を示す。また、「日銀は前場に何%TOPIXが下がったから後場寄りに購入するといった機械的なETF買い発動ではなく、もっと外部環境を考慮した相場観を働かせた買いとみられる。例えば前日の米国株の動きを参考にしているというような印象も受ける」とも指摘する。20~21日の会合での「総括的検証」ではマイナス金利についての考察が中心とみられるが、ETF買いの弾力化についても言及がなされる可能性はある。

●ソシエテ経由の大量売りに募る思惑

 また、14日と15日、前述のように日銀は両日とも733億円ずつ買いを入れたが、日経平均はこの2日間合計で320円強の下げをみせている。市場関係者によると「ソシエテジェネラル証券が14日に941億円、15日に753億円先物経由で大量の売りを出している。この1社だけで日銀の巨額の受け皿から売り玉が零れ落ちている勘定だ」(準大手証券ストラテジスト)と指摘する。「これは欧州系機関投資家の発注とみられているが、ヘッジファンドの売りか年金系の売りかと聞かれれば、後者の可能性のほうが高いような気がする」としており、ここでは長期資金の日本株外し的な要素も多分に含んでいることを示唆している。一部では「米国でのトランプ大統領誕生の可能性が無視できなくなっていることで、日本株にリスクを感じている海外投資家がにわかに増えているのではないか」(中堅証券営業部)という指摘もある。

 米国株は遅かれ早かれ利上げに動く公算が大きく、NYダウには頭打ち感が出ている。米国株頼みの“利益の再分配”による上昇をどこまでも期待するわけにはいかない。2016年はここまで外国人は5兆円を超える日本株売り越しを記録しているが、売りは1~3月に集中している。かなりの部分は戦略的な売り(空売り)も入っているはずで、潜在的な踏み上げ相場の余地は大きいという見方もある。日銀のETF買いが単なる時間稼ぎの車輪止めではなく、日本株の戻り相場に向けた確固たる足場となるのかどうか、これは安倍政権が打ち出す成長戦略の是非にかかっているといえそうだ。

(中村潤一)

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