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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「波乱相場に勝つための選択」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

●増税延期なら本当に相場は変わるか?

 株式投資の本質的な意義とは、原点に立ち返れば、成長が見込める企業への先行投資ということになるでしょう。しかし現実は、そうたやすく綺麗に割り切れるものでもありません。遠方から眺める富士山は美しいけれど、いざ登山してみると、視界に飛び込んでくるのはその風光明媚なイメージとはまるで違う岩山です。株式市場も、立ち位置によって目に映る風景がグラリと揺さぶられることが少なくありません。

 表向きは成長への投資を標榜しても、実践的なトレードの観点に立てば、もっとドロドロした人間心理の錯綜があり、個人的には株式投資とは「恐怖の代償」によって利益を得るメカニズムであると考えています。臆病であっては投資に踏み込むことはできませんが、かといって恐怖に鈍感であってもいけない。「もうはまだなり、まだはもうなり」という有名な相場格言が教えるように、投資行動を起こす前に、いったんは自分の判断が先入観に支配されていないかどうかを疑ってみることは、決して無駄な作業ではないのです。

 今の東京市場はひとことで言えば下落トレンドの只中にあるといえますが、市場関係者の大勢的な見方は政策催促相場という名の下り坂。財政出動を伴う経済対策や追加金融緩和、そして切り札として消費再増税の延期と、ここまでくれば一気に相場は浮上するという見立てであり、これが間違っているとは思えないのですが、だとすればここまで下げる必要があったのかどうかを疑問に思う必要があります。増税延期待望論はかなり相場に織り込まれてきているはずで、その過程で下り坂が続いてきたことに警戒を強める必要があるのです。

●リスクオフの延長線上の売りではない

 新年度入りからの波乱相場の背景を考えた場合、昨年8、9月や今年2月とは明らかに下げの性質が違います。世界的なリスクオフの延長線上で売られているのではなく、今回は“日本売り”の臭いを発散させながらのスパイラル的な下げであり、買い向かうにしても、これまでとは違った投資のコンセプトが求められそうです。

 東証1・2部合算ベースで外国人投資家は1月に1兆556億円、2月に1兆9983億円、3月に1兆9509億円を売り越しました。15年度の最終コーナーを回った第4四半期の3カ月で実に5兆円強の売り越しを記録したわけです。年度ベースでみても、100年に一度の金融危機と言われたリーマン・ショックが起きた2008年度の売り越し金額は4兆2000億円、対して15年度は3月第4週までで5兆1000億円の売り越しとこれを大幅に上回っています。世界最大の資産運用会社で東京市場への積極投資を続けてきたブラックロックが、直近は日本株に弱気スタンスを明示するなど、アベノミクスに見切りをつけたともとれる動きで、先行きに暗雲が漂っていることは否定できません。

●ドル円相場と一蓮托生のアベノミクス

 実際はアベノミクスへの失望ではなく、為替の長期トレンドがドル安・円高に変わったことが東京市場の最大の足かせであると考えています。以前にも触れましたが過去10年間の日経平均チャートとドル円相場のチャートを並べると、その波動は驚くほどに合致しており、円安=株高、円高=株安の構図は動かしがたい不変のセオリーといっても過言ではありません。よく、為替の円高に対して全般株式相場は抵抗力が出てきたとか、円安でも反応が鈍くなったなどと解説されることがありますが、それは短期的なブレであって、長い目でみれば結局この2つのチャートは収れんするのです。

 2月24日の当コーナーで、一度は1ドル=110円を割り込む円高局面に遭遇することも覚悟しておくべきとしましたが、約1カ月半のタイムラグはあったとはいえ現実のものとなりました。今ここで1ドル=100円を割り込み90円台に突入するとはさすがに言えないものの、海外マネーの先を競った日本株売りをみると、円高の終着点はまだ先とみていることが窺われます。また過去に遡れば、アベノミクス相場のスタート地点である12年11月から昨年末までの累計で外国人投資家は日本株を実に17兆円も買い越しており、足もとの外国人売りも早晩枯れるだろうというのは、希望的観測の域を出ていないと思われます。

●主力を避けテーマ買いで活路を開く

 とすれば投資家のとるべき投資戦略もおのずと見えてきます。主力株、とりわけ外国人投資家の保有株比率が高く、なおかつ海外売り上げ規模の大きい為替感応度の高い輸出型企業は回避しておく方が無難です。短期的には売られ過ぎの反動で買い戻される場面も出てきますが、下値切り下げトレンドに対するリスクは大きいと判断されます。

 裏を返せば、ここ新興市場銘柄などを中心に、人工知能、バイオ、自動運転車フィンテックVR/ARなどのテーマ物色の波が沸き起こっているのは、逆風環境にない内需型の中小型株が優位性を発揮するという点で確固たる理由があるのです。

 PERやPBRという伝統的な指標も重要ですが、当面、PERについては17年3月期の業績見通しが不透明である以上買いの根拠とはなりにくく、PBRも下値のストッパーにはなるものの株高の起爆剤にはなり得ません。とすれば、選択肢に挙がるのは各テーマで有望視される銘柄群であり、ヒット&アウェイを前提に循環物色の流れに乗ることでしょう。

●ジグソー、カルナバイオ、アイリッジなど注目

 人工知能関連ではジグソー <3914> [東証M]やロゼッタ <6182> [東証M]、テクノスジャパン <3666> などの切り返しに期待。バイオ関連では黒字ベンチャーであるペプチドリーム <4587> 、そーせいグループ <4565> [東証M]、カルナバイオサイエンス <4572> [JQG]、自動運転車ではドーン <2303> [JQ]、コア <2359> 、モルフォ <3653> [東証M]あたりの捲土重来を待ちたいところ。また、フィンテックではセレス <3696> [東証M]、アイリッジ <3917> [東証M]などに可能性を感じます。VR/ARでは本命はソニー <6758> ということになるのでしょうが、外国人保有株比率の高い主力輸出株の代表格として向かい風も強い。業績面に難はありますが、サン電子 <6736> [JQ]の25日移動平均線との上方カイ離解消場面などは狙い目となりそうです。

(4月6日記、隔週水曜日掲載)


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