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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「フィンテック、大相場への扉」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

 相場の世界では「国策に売りなし」といいます。これは昨年までのアベノミクスのように日経平均そのものが「売りなし」の対象であることもあれば、相場で脚光を浴びる有望テーマがその枠に該当することもあります。今は長期ドル高・円安トレンドの転換を背景に、株式市場全般が上値のフシをすべて払拭して新値を追えるような段階にはありません。しかし、得てしてテーマ買いの流れが奔流を形成するのは、全体相場がボックス圏に移行した時であり、個人投資家の皆さんは今の環境に悲観する必要など全くないのです。

●有力テーマはモメンタム重視

 流れに従って流れを制すことが株式トレードの基本戦略。株価が大勢上昇トレンドを形成している時というのは、海原に例えれば上げ潮の局面であり、策を弄せずして自然体で資金を寝かせれば利を得ることができる状態といえます。流れが来たら、むしろ貪欲なまでに前屈みに利を追求しても報われるケースが多いようです。

 昨年来、東京株式市場ではフィンテック、自動運転車、ドローン、人工知能関連などの循環物色が続いています。これに加え、再生医療・新薬開発関連にも小野薬 <4528> やそーせい <4565> [東証M]がリード役となって物色の輪が広がる気配があります。いずれも調整を入れては切り返す、まさに上げ潮に乗った状態で、そのテーマ性が前面に押し出されることによりPERやPBRなどの王道的な指標では語れない“勢い”を得ています。

 行き過ぎに買われているとしても、モメンタム重視で確信犯的に買いを入れるのが短期値幅取りに長じた相場巧者の技といえるでしょうか。指標面から株高の妥当性を欠いているようで、「国策」いわゆる官民学が足並みを揃えた上げ賛成ムードが底流していることが大きいのです。

●仮想通貨の貨幣認定でネクストステージへ

 自動運転関連と人工知能関連については当コーナーで既に取り上げたので、今回はフィンテック関連にスポットを当ててみましょう。当然ながら、テーマ買いは物色人気が高まるに従い反動安へのリスクも常に念頭に置いておかねばなりません。投資に躊躇しても機会損失で実損を被るわけではないので、参戦に慎重であることは決して悪ではありません。ただ、市場の資金が今どこに向かっているかを把握しておくことは、あらゆる場面で投資のヒントとなるので、投資するしないにかかわらず視線を外さないことが大切です。

 政府は3月4日、「ビットコイン」など仮想通貨に対する規制を盛り込んだ資金決済法改正案を閣議決定し、事実上、仮想通貨を貨幣と認めたことで舞台は大きく回りました。

 また、17日には、日銀の黒田東彦総裁が行内で催された決済システムフォーラムで、資金決済のシステムを担当する決済機構局内に「フィンテックセンター」を近く新設することを明らかにしており、ITと金融を融合したサービスであるフィンテックの将来性を、金融を司る中央銀行も認知したことから、この流れはがぜん太くなったといえます。

●さくらネット、インフォテリのツートップ銘柄に続く新星は?

 ITベンチャーのテックビューロと連携密接で、ブロックチェーン環境を実用レベルのクラウドサービスとして一般向けに提供するさくらネット <3778> や、同じくテックビューロと協業体制のもと、金融システムの構築・運用コストを大幅低減するプラットフォーム実現に取り組むインフォテリ <3853> [東証M]、当初はこの2銘柄がツートップとして指標株的な役割を担っていましたが、その後マネパG <8732> が2月下旬から3月初旬にかけて勇躍人気化、10営業日で株価を約4倍化させ、この間に8回のストップ高(取引時間中含む)という離れ業を演じるなど市場関係者の耳目を驚かせました。

 ただ、上記3銘柄はやや買い疲れ感があり、次の新星の登場が待たれるところ。ここ勢いをみせているのはアイリッジ <3917> [東証M]。3月1日に発表した今期業績予想の下方修正で狼狽売りに見舞われましたが、その後の鮮烈な切り返しは足もとの収益減額を不問に付すだけの成長期待を映しているともいえます。同社は昨年12月に、テックビューロと事業提携し、ブロックチェーン技術を使ったフィンテック関連のスマートフォン用アプリを共同開発することを発表して脚光を浴びました。NTTグループとの連携による展開力で思惑を内包していることも買いの背景にあります。また、関連株のなかではチャートの出遅れ感が顕著であり、これが投機筋の琴線に触れている面もあるようです。

 アイリッジほどではありませんが、やはりチャート面で買いやすさがあったのがラクーン <3031> [東証M]。東証1部指定替えに伴いファンド組み入れ需要も想定され、需給面でも上値の可能性が広がっています。同社は、運営するBtoB掛売り・請求書決済代行サービス「Paid」のフィンテック協会加盟で人気が加速した経緯があります。業績も高成長路線をまい進、12年4月期から営業利益段階で2ケタ以上の増益を続けており、16年4月期予想までの5年間の年平均成長率は27%強、この間に利益は3.3倍に変貌しました。

●枯渇しないテーマは押し目に勝機

 このほか、GMO-PG <3769> 、セレス <3696> [東証M]、ウェルネット <2428> なども関連有力株としてマークしておきたい銘柄です。

 GMO-PGはビットコインの決済サービスを展開するbitFlyerと提携関係にあることで注目されています。セレスは昨年12月にビットコインサービスを手掛けるビットバンクに追加出資するとともに業務提携を決めたことが物色人気の源泉です。また、ウェルネットはリアルタイムの電子請求・電子決済ができるマルチペイメントサービスを展開、今後の業容拡大に期待が集まっています。

 このほか直近ではフィスコ <3807> [JQG]がビットコイン取引所の運営を行う会社「フィスコ・コイン」の設立を材料に3日連続ストップ高(取引時間中含む)を演じ、目先は信用規制の動きに反落となっていますが、売り一巡後の動きが注目されそうです。

 フィンテックのテーマ性そのものが枯渇することはなく、どの銘柄についても押し目が深ければそれだけリバウンドを取るチャンスが広がります。ただし、落ちてくるナイフは掴まず(逆張りは避け)、反転したのを見届けてから参戦する順張りスタイルが、フィンテックに限らずテーマ物色のコツともいえます。

(3月23日記、隔週水曜日掲載)


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