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【市況】揺れ動くトランプ・トレード、テクノロジー銘柄における投資機会【フィリップ証券】

 米国株市場に変調の兆しがみられる。第2次トランプ政権の政策への期待を背景とした「トランプ・トレード」と呼ばれる銘柄物色は、政府要職への人事が報道されるに連れて勢いを失ってきた。1-3月、4-6月、7-9月、10-12月における四半期決算発表が一巡するのが、それぞれ5月半ば、8月半ば、11月半ば、2月半ばであり、その時期を過ぎると業績に関する材料による買いが一服しやすい季節要因もあるだろう。特に11月半ばは、ヘッジファンドに関する「45日ルール」によって年末を決算日とするファンドの解約通知期限とされることが多い。

 それに加えて、相場の転換点を示唆するとされる「対等数値」によるアノマリーも無視できない。ダウ工業株30種平均株価(ダウ平均)について、2022年の安値2万8660ドルを付けた10/13を起点として、2023年の高値3万5679ドルの8/1までの上昇を経て同年の安値3万2327ドルを付けた10/27までの営業日数が262日に上る。23年の10/27から262日目の対等数値に相当するのが今年の11/11である。ダウ平均は11/11に付けた4万4486ドルの史上最高値から、11/15終値まで1000ドル安となっていた。
第1次トランプ政権下の2017-2020年の内、保護主義的な貿易政策と米中貿易摩擦の激化に見舞われた2018-2019年は、アップル<AAPL>など一部の大型ハイテク成長株に牽引されて米国株市場は堅調に推移し、「米国1人勝ち」と言われる状況となった。他方、他の主要国経済は成長が鈍化し、二極化傾向が強まった。2018年10月以降は世界経済の鈍化を背景として米長期金利が低下。同年末まで株価・原油価格ともに大幅に下落した。トランプ政権発足後に一時的であっても同様の事態が起きやすい面はあるだろう。

 特定の技術の成熟度、採用度、社会への適用度を示す「ハイプ・サイクル」は、調査会社ガートナーが考案したマーケティング概念で、①黎明期、②流行期(過度な期待)、③幻滅期、④回復期、⑤安定期の5段階があるとされる。この考え方をテクノロジー関連のグロース銘柄に当てはめることも可能だろう。業績の裏付けがない成長株が過度な期待を背景に理屈で説明できない水準まで買われるものの、その後に幻滅期へ移行することで大幅な株価下落に見舞われることがある。株価は人気離散後、経営変革によって業績に利益率が伴い始めると、回復期から安定期へとシフトするというサイクルを辿ることとなる。実際に、2020年の新型コロナ禍以降に業績を拡大したテクノロジー・IT関連銘柄には、2021年の頃に付けた史上最高値から数年かけて大幅な株価下落に見舞われたものの、ようやく業績の裏付けを伴った株価回復軌道に差し掛かかってきた銘柄が見られるようになってきた。投資チャンスの面もあるだろう。


参考銘柄


ジーニアス・スポーツ<GENI> 市場:NYSE・・・2025/3/6に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2001年に英ロンドンを本拠として設立。NFL、MLB、PGAツアーなどプロスポーツリーグと提携し、スポーツブックやカジノ業界向けにデータを中心に拡張性の高いテクノロジー製品・サービスを提供。

・11/12発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比18.2%増の1.20億USD(会社予想:1.19億USD)、非GAAPの調整後EBITDAが同45.2%増の0.256億USD(同:0.250億USD)。主力のベッティング(賭け)技術・コンテンツ&サービス(売上比率71%)が同18.2%増収と成長を牽引した。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比24%増の5.11億USD(従来計画:5.10億USD)、調整後EBITDAを同60%増の0.86億USD(同:0.85億USD)。更に、通期のフリーキャッシュフロー黒字化の見通しも示した。スポーツベッティング市場は欧州で先行していた中、2018年に米連邦最高裁がスポーツ賭博を禁じる連邦法を違憲として以降、米国内で拡大。税収増の観点から解禁する州が増加傾向だ。


グローバルイー・オンライン<GLBE> 市場:NASDAQ・・・2024/11/20に2024/12期3Q(7-9月)の決算発表予定

・2013年設立の消費者直販(D2C)プラットフォームを提供するイスラエル企業。ファッション・アパレルやラグジュアリー、化粧品ほか業界大手ブランドが同社の越境プラットフォームを利用している。

・8/14発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比26.0%増の1.68億USD(会社予想:1.62-1.68億USD)、非GAAPの調整後EBITDAが同49.4%増の0.313百万USD(同:0.245-0.285億USD)。流通総額が同31%増の10.82億USD、調整後粗利益率も同4.5ポイント上昇の47.8%と堅調に推移。

・通期会社計画は、売上高を前年同期比25-32%増の7.1-7.5億USD(従来計画:7.33-7.73億USD)へ下方修正も、調整後EBITDAを同37-54%増の1.27-1.43億USD(同:1.24-1.40億USD)へ上方修正。同社の越境ECプラットフォームは、世界200以上の国・地域の消費者向けに現地言語・通貨表示に加え、税金対応・支払方法、配送・返品等のサービスを一括で現地仕様にローカライズしている。


グラブ・ホールディングス<GRAB> 市場:NASDAQ・・・2025/2/21に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2012年にマレーシアで設立、2014年よりシンガポールを本拠に配車アプリを運営。アプリのGrabはアセアン各地で宅配、配車、金融の各事業を単一アプリで実現する「スーパーアプリ」で知られる。

・11/11発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同月比16.4%増の7.16億USD、純利益が前年同期の▲0.99億USDから0.15億USDへ、非GAAPの調整後フリーキャッシュフローが同▲0.06億USDから1.38億USDへ黒字転換。調整後EBITDAは、配車が同18%増、宅配が60%増、金融が赤字幅縮小。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比17-18%増の27.6-27.8億USD(従来計画:27-27.5億USD)、調整後EBITDAを前期▲0.22億USDから3.06-3.13億USD(従来計画:2.5-2.7億USD)へ黒字転換とした。人員削減と支出抑制といったコスト削減が奏功。トランプ米次期政権の下、アセアン市場は中国からの生産シフトおよび域内関税の削減・撤廃を追い風としたEコマース拡大が見込まれる。


シー<SE> 市場:NYSE・・・2025/3/4に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2009年設立のシンガポールのネット企業。主にアセアンの消費者および中小企業向けにデジタルエンターテイメント(Garena)、Eコマース(Shopee)、デジタル金融サービスの3事業を運営する。

・11/12発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同月比30.8%増の33.10億USD、繰延収益調整後の非GAAPの調整後EBITDAが5.21億USD(前年同期:35.2百万USD)。デジタルエンターテイメントが同41%減収も、売上比率73%のEコマースが同41%増収に加え、デジタル金融も同39%増収。

・3Qの事業セグメント別調整後EBITDAは、デジタルエンターテイメントが前年同期比34%増の3.14億USDに対し、デジタル金融が同13%増の1.87億USD、Eコマースが前年同期の▲3.46億USDから34.4百万USDへ黒字転換。Eコマースは昨年7月以降の販促強化に伴う赤字が増収効果で解消。高い成長性を維持しつつ収益性を伴ってきた。11/15終値は21年10月高値から72%下落した水準である。


ショッピファイ<SHOP> 市場:NYSE・・・2025/2/13に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2004年にカナダで設立。フェイスブックやインスタグラム上で商品の販売が可能となるネットショップ、およびEコマースサイト構築用のクラウド型ECプラットフォームを運営。越境ECにも事業を展開。

・11/12発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比26.1%増の21.62億USD、出資株式の影響を除く非GAAPの調整後純利益が同98.8%増の3.44億USD。流通総額(GMV)拡大とGMVに占める自社決済システム利用比率上昇が貢献のほか、大手企業を顧客ターゲットとする戦略も奏功。

・2024/12期4Q(10-12月)会社計画は、売上高伸び率が前年同期比20%台半ば~後半、粗利益率が51.7%。3Q会社計画は売上高伸び率が同20%台前半~半ば、粗利益率が2Q比0.5ポイント上昇の51.6%(実績:51.7%)と、実績が対会社計画比でも堅調に推移。従来の北米の小規模事業者向けから、卸売業者向け企業間取引を含めて世界中のあらゆる規模のブランドを支える存在へと変貌。


執筆日:2024年11月19日

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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