アンジェス Research Memo(6):高血圧DNAワクチンは技術改良等の検討を進める
■アンジェス<4563>の主要開発パイプラインの動向
4. 高血圧DNAワクチン
プラスミドDNA製法を用いたワクチンの1つとして、高血圧症を対象としたDNAワクチン(AGMG0201)の開発を進めている。同ワクチンは大阪大学の森下竜一(もりしたりゅういち)教授の研究チームにより基本技術が開発されたもので、血圧の昇圧作用を有する生理活性物質アンジオテンシンIIに対する抗体の産生を誘導し、アンジオテンシンIIの作用を減弱させることで長期間安定した降圧作用を発揮するワクチンとなる。
現在販売されている主な高血圧治療薬としてはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬(経口薬))があるものの、毎日服用する必要があるため、長期的に見た患者1人当たりの治療コストは高くなる。このため、発展途上国では医療経済上の問題から使用が限定的となっている。同社が開発するDNAワクチンは既存薬よりも高薬価になると想定されるが、薬効の持続期間次第ではトータルの治療コストが既存治療薬を下回る可能性もある。
同社がオーストラリアで2018年4月から実施した第1相/前期第2相臨床試験(症例数24例)の結果については、2021年10月17日付でHypertension Researchに論文として掲載された。要旨としては、安全性に問題がなく、DNAワクチンを投与した患者では、特に高用量群で抗アンジオテンシンII抗体の産生が多く認められ、全体として同ワクチンに対する忍容性は良好であるとの結果であった。ただ、被験者ごとに抗体価にバラつきがあるため、今後はプラスミドDNAの発現量を増やすなどの技術的な改善を図っていく必要があると考えており、当面は技術改良に向けた検討を進めていく予定にしている。なお、高血圧DNAワクチンに関しては2020年6月に日本で、7月に米国でそれぞれ製剤特許及び用途特許を取得している。
「ゾキンヴィ」は販売承認申請に向けた準備を進める
5. ゾキンヴィ
同社は2022年5月に米バイオ医薬品企業のアイガーと、希少遺伝性疾患で早老症とも呼ばれるHGPS及びPLを適応症とした治療薬「ゾキンヴィ」について、日本における独占販売契約を締結した。今後、同社が日本の薬事承認取得を担当し、承認取得後にアイガーから製品を仕入れて販売していくことになる。なお、契約一時金及び開発進捗に応じたマイルストーンの支払総額は最大150万米ドルとなっている。
HGPS及びPLは、患者数が世界でも合わせて600人程度と極めて少ない致死性の高い遺伝的早老症のことで、HGPSはLMNA遺伝子の点突然変異により、ファルネシル化※された異常タンパク質であるプロジェリンが生成されることにより発症する。また、PLはLMNAやZMPSTE24遺伝子の変異によりプロジェリンとは異なるファルネシル化タンパク質を生成し老化を促進する。「ゾキンヴィ」はHGPSやプロセシング不全性早老性PLの小児及び若年成人において、核膜と強固な結合を形成するファルネシル化した欠陥タンパク質(細胞の不安定化と早期老化を惹起)の蓄積を阻害する作用を持つ。臨床試験の結果ではHGPS患者の死亡率を60%減少させ、平均生存期間を2.5年延長させることができたとしている。また、安全性についても多くのPL患者が10年以上にわたって「ゾキンヴィ」治療を継続しており、副作用も嘔吐や下痢、悪心等その大半が軽度または中等度のものとなっている。2020年11月に米国、2022年7月に欧州で相次いで販売承認されており、国内でも承認される可能性は高い。
※タンパク質に行われる修飾の一種。ファルネシル化により、タンパク質の末端には疎水性のプレニル基が結合する。末端が疎水性になったタンパク質は、その疎水性の部分を細胞膜内に挿入するため、タンパク質は細胞膜(細胞の内側)につなぎ留められる。つまり、ファルネシル化されたタンパク質は、細胞の内側の細胞膜上に存在するようになる。
難病情報センターの資料によると日本におけるHGPSの患者数は10人弱と極めて少ないため、同社は薬事承認を得るために米国の臨床試験データを援用することにしている(同臨床試験には3人の日本人データが含まれる)。過去にも希少遺伝性疾患であるムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイム(R)」の独占販売契約を米BioMarin Pharmaceutical Inc.と2006年12月に締結し、販売してきた実績がある(契約解消に伴い2019年12月期第2四半期で販売終了)。当時の経緯を辿ると販売契約締結後、2007年6月にオーファン・ドラッグ※指定を受け、同年8月に米国での臨床試験データを援用して販売承認申請を行い、2008年3月にスピード承認されている。「ゾキンヴィ」についても、有効な治療法がなく死亡リスクの高い疾患(平均寿命14.5歳)のため、同様の手順で販売承認を取得するものと予想され、2023年3月にはオーファン・ドラッグの指定を受けている。
※オーファン・ドラッグは希少疾病用医薬品のことで、指定基準としては患者数が5万人未満と少なく、治療法が未だ確立されておらず代替する医薬品がないこと、またはすでにある治療薬に対して非常に高い有効性または安全性が期待される医薬品であることなどが挙げられる。オーファン・ドラッグ指定を受けると、研究開発費用の助成金が交付されるほか、優先審査を受けることが可能となる。
なお、売上規模に関しては薬価や投与患者数次第ではあるものの、米国での販売価格を参考にすれば「ナグラザイム(R)」と同等かやや上回る規模になると見られる(「ナグラザイム(R)」のピーク時売上高は2018年12月期382百万円)。また、同社は薬事承認取得と並行して、新生児のオプショナルスクリーニングを行うACRLで、HGPSやPLも検査可能疾患として加えていく予定にしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《YI》
提供:フィスコ