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【特集】深刻化する人手不足、それでも採用も業績も伸ばすのは
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第149回
前回記事「『来年の新NISA枠はどうしよう』の時期は、『年始の配当プレー』戦略」を読む
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足元の株式市場で懸念材料といえば、第2次ドナルド・トランプ政権の誕生による関税強化、地政学リスクの拡大、国内政治基盤の弱体化がもたらす影響などが挙がりますが、忘れてならないのが深刻化する「人手不足」です。
人手不足というと、働く人が減っている印象がありますが、足元の日本の雇用市場は逆です。過去10年強のトレンドでは、労働力人口の総数は増加傾向にあります(下のグラフのグレー部分)。
ただし、総数は増加しているものの、その増え方の中身を見ると手放しで喜べる状況ではありません。労働力人口の推移を若手・中堅クラスの15歳~44歳とベテランクラスの45歳以上で比較すると、若手・中堅は減少する一方で、ベテランは増加しています。
ここ10年超の労働人口の増加は、退職年齢の引き上げや雇用延長などで、長く働く人が増えたことや、さらに女性の労働参加率が高まったことなどが寄与したといえます。
しかし、長期的に見れば、若手の労働者が増えなければ、労働力人口はいずれピークを迎え、減少に転じます。さらに体力と気力にあふれる若手・中堅層の減少は、産業全体の競争力の弱体化にも直結します。
■労働力人口の推移
出所:厚生労働省
労働力人口は増えていながら産業界で人手不足の声が止まないのは、頭数ではなく、会社に利益をもたらしてくれる技術やスキルを持った、または今後持ちうる人材が足りないことが深刻になっているからです。
この状況を端的に表しているのが、厚生労働省の「労働経済動向調査」で集計している「労働者過不足判断DI」です。
これは、全国の企業の事業所を対象として労働者が足りているか、過剰な状態にあるかを計測したものであり、不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合差し引いた値として定義されます。
数字がプラスに推移していれば人手不足、マイナスに推移してれば人員余剰の状態にあることを示しています。この数値について、前回金融危機前の2007年から時系列の推移を見ると、直近は最高値の近辺でとどまっていることが分かります。
■正社員労働者過不足判断DIの推移(調査産業計)
出所:厚生労働省
不足が深刻な業種は
では、人手不足が深刻な業界はどこなのか。2024年8月の同調査で、業種別DIで「50」を超えているのが、以下になります。
■「労働者過不足判断」業種別DIで50以上の業種
出所:厚生労働省。2024年8月調査
「学術研究、専門・技術サービス」は、おそらく企業などの研究開発部門などに配属される専門人材のことを指しているのでしょう。こうした専門性の高い人材は時代を問わず探すのは困難で、少子化で若年人口が減少する中では、いっそう難易度が増しやすい分野といえます。
次の「医療、福祉」や「建設」も資格や専門的なスキルが必要とされる分野になります。また「運輸、郵便」は業態として労働負担が大きいことや業務経験の積み重ねが強みになる職種を抱えていることもあり、事業の維持そして発展に若手は欠かせない存在です。
「情報通信」は、近年のAI(人工知能)およびDX(デジタル・トランスフォーメーション)ブームによってエンジニアの不足が深刻化していることで知られます。システムや数字に強いプログラマー、プロジェクト・マネージャーなどはまさに人材の奪い合いとなっていることは想像に難くありません。
不足が深刻ではない業種は
一方で、余剰とまではいかないにしろ、比較的人員に余裕があると判断される業種も存在します。DIの数字が40を下回るのは、以下の3業種です。
「卸売、小売」や「生活関連サービス、娯楽」などは、高度な専門知識よりは、対面でのコミュニケーション能力が重視される業態という特色を踏まえると、人材のマッチングが起きやすいのかもしれません。
■労働者過不足判断業種別DIが「40未満」の業種
出所:厚生労働省。2024年8月調査
職種別の不足動向も、専門人材がトップに
先の調査では、職種別のDIも集計しています。職種別で見ると、やはり専門技術系の職種がもっとも人手不足が深刻となっています。
1位の「専門・技術」はその名の通りで、2位の「サービス」は幅が広くどのような職種なのか特定しにくい面はありますが、3位の「技能工」も、やはり専門的なスキルが求められる職種です。
しかも、前年同月である2023年8月の調査結果と比較すると、「単純工」と「輸送、機械運転」以外のすべての職種でDIの値は上昇しています。人手不足は職種を問わず悪化し続けている状況となっています。
■労働者過不足判断職種別DI
出所:厚生労働省
人手の増加率が高い企業ほど、売上高と利益の伸び率が高い
これらを投資判断に活用するために、人手不足の中で人材を確保し従業員を増やしている企業と、逆の企業の間で業績の強さに差が生じるのかについて、これから確認していきます。
分析は、日本の上場全銘柄について、前年度の従業員(連結)の増減率の高低(上位・下位10%を閾値)で銘柄群を抽出します。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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大川智宏(Tomohiro Okawa)
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「『来年の新NISA枠はどうしよう』の時期は、『年始の配当プレー』戦略」を読む
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足元の株式市場で懸念材料といえば、第2次ドナルド・トランプ政権の誕生による関税強化、地政学リスクの拡大、国内政治基盤の弱体化がもたらす影響などが挙がりますが、忘れてならないのが深刻化する「人手不足」です。
人手不足というと、働く人が減っている印象がありますが、足元の日本の雇用市場は逆です。過去10年強のトレンドでは、労働力人口の総数は増加傾向にあります(下のグラフのグレー部分)。
ただし、総数は増加しているものの、その増え方の中身を見ると手放しで喜べる状況ではありません。労働力人口の推移を若手・中堅クラスの15歳~44歳とベテランクラスの45歳以上で比較すると、若手・中堅は減少する一方で、ベテランは増加しています。
ここ10年超の労働人口の増加は、退職年齢の引き上げや雇用延長などで、長く働く人が増えたことや、さらに女性の労働参加率が高まったことなどが寄与したといえます。
しかし、長期的に見れば、若手の労働者が増えなければ、労働力人口はいずれピークを迎え、減少に転じます。さらに体力と気力にあふれる若手・中堅層の減少は、産業全体の競争力の弱体化にも直結します。
■労働力人口の推移
出所:厚生労働省
労働力人口は増えていながら産業界で人手不足の声が止まないのは、頭数ではなく、会社に利益をもたらしてくれる技術やスキルを持った、または今後持ちうる人材が足りないことが深刻になっているからです。
この状況を端的に表しているのが、厚生労働省の「労働経済動向調査」で集計している「労働者過不足判断DI」です。
これは、全国の企業の事業所を対象として労働者が足りているか、過剰な状態にあるかを計測したものであり、不足と回答した事業所の割合から過剰と回答した事業所の割合差し引いた値として定義されます。
数字がプラスに推移していれば人手不足、マイナスに推移してれば人員余剰の状態にあることを示しています。この数値について、前回金融危機前の2007年から時系列の推移を見ると、直近は最高値の近辺でとどまっていることが分かります。
■正社員労働者過不足判断DIの推移(調査産業計)
出所:厚生労働省
不足が深刻な業種は
では、人手不足が深刻な業界はどこなのか。2024年8月の同調査で、業種別DIで「50」を超えているのが、以下になります。
■「労働者過不足判断」業種別DIで50以上の業種
出所:厚生労働省。2024年8月調査
「学術研究、専門・技術サービス」は、おそらく企業などの研究開発部門などに配属される専門人材のことを指しているのでしょう。こうした専門性の高い人材は時代を問わず探すのは困難で、少子化で若年人口が減少する中では、いっそう難易度が増しやすい分野といえます。
次の「医療、福祉」や「建設」も資格や専門的なスキルが必要とされる分野になります。また「運輸、郵便」は業態として労働負担が大きいことや業務経験の積み重ねが強みになる職種を抱えていることもあり、事業の維持そして発展に若手は欠かせない存在です。
「情報通信」は、近年のAI(人工知能)およびDX(デジタル・トランスフォーメーション)ブームによってエンジニアの不足が深刻化していることで知られます。システムや数字に強いプログラマー、プロジェクト・マネージャーなどはまさに人材の奪い合いとなっていることは想像に難くありません。
不足が深刻ではない業種は
一方で、余剰とまではいかないにしろ、比較的人員に余裕があると判断される業種も存在します。DIの数字が40を下回るのは、以下の3業種です。
「卸売、小売」や「生活関連サービス、娯楽」などは、高度な専門知識よりは、対面でのコミュニケーション能力が重視される業態という特色を踏まえると、人材のマッチングが起きやすいのかもしれません。
■労働者過不足判断業種別DIが「40未満」の業種
出所:厚生労働省。2024年8月調査
職種別の不足動向も、専門人材がトップに
先の調査では、職種別のDIも集計しています。職種別で見ると、やはり専門技術系の職種がもっとも人手不足が深刻となっています。
1位の「専門・技術」はその名の通りで、2位の「サービス」は幅が広くどのような職種なのか特定しにくい面はありますが、3位の「技能工」も、やはり専門的なスキルが求められる職種です。
しかも、前年同月である2023年8月の調査結果と比較すると、「単純工」と「輸送、機械運転」以外のすべての職種でDIの値は上昇しています。人手不足は職種を問わず悪化し続けている状況となっています。
■労働者過不足判断職種別DI
出所:厚生労働省
人手の増加率が高い企業ほど、売上高と利益の伸び率が高い
これらを投資判断に活用するために、人手不足の中で人材を確保し従業員を増やしている企業と、逆の企業の間で業績の強さに差が生じるのかについて、これから確認していきます。
分析は、日本の上場全銘柄について、前年度の従業員(連結)の増減率の高低(上位・下位10%を閾値)で銘柄群を抽出します。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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