アンジェス Research Memo(1):2023年は国内で椎間板性腰痛症、米国で遺伝性希少疾患の臨床試験を開始予定
■要約
アンジェス<4563>は、1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーで、遺伝子医薬を中核とした開発を進めており、長期ビジョンとして「遺伝子医薬のグローバルリーダー」になることを目指している。新薬候補品を開発し、販売パートナーとの販売権許諾契約によって得られる契約一時金や、開発の進捗状況などによって得られるマイルストーン収入、上市後の製品売上高にかかるロイヤリティ収入を獲得するビジネスモデルである。2020年12月に米国で先進ゲノム編集技術の開発を行うEmendoBio Inc.(以下、Emendo)を子会社化した。
1. 日米で新たな臨床試験を開始
2023年は国内及び米国で各1本の臨床試験を開始する予定となっている。国内では椎間板性腰痛症を適応症としたNF-κBデコイオリゴDNAの第2相臨床試験を開始する。米国で実施した後期第1相臨床試験では、痛みを長期間にわたって軽減する効果が確認されており、国内でも同様の試験を実施しエビデンスを積み上げていく。また、2023年3月には第2相臨床試験について、塩野義製薬と協力に関する契約を締結している。一方、子会社のEmendoで希少遺伝性疾患であるELANE(好中球エラスターゼ遺伝子)関連重症先天性好中球減少症(以下、SCN)※を対象としたゲノム編集治療薬について米国で2023年10~12月に臨床試験を開始し、2027年の実用化入りを目指している。Emendoについてはその他にも複数の開発パイプラインで前臨床試験が進められており、今後は共同開発契約の締結やIPOも選択肢に含め、研究開発費の自力調達を目指している。
※顆粒球系細胞の成熟障害により発症する好中球減少症で、発症すると細菌感染などが起きやすくなり、中耳炎や気道感染症、皮膚感染症等を繰り返し、敗血症等により死亡することもある。
2. その他の主なパイプラインの動向
慢性動脈閉塞症を対象としたHGF遺伝子治療用製品「コラテジェン(R)」については、国内で条件付き承認を得ていた潰瘍の改善を効果・効能とした市販後調査が完了し、本承認申請に向けた準備を進めている段階にある。順調に進めば2024年の本承認取得が見込まれる。また、米国で進めていた後期第2相臨床試験についても被験者登録が完了し、2024年前半には結果が判明する見通しで、良好な結果が確認されれば市場規模も大きいだけに注目度も上昇するものと期待される。また、カナダのVasomune Therapeutics(以下、Vasomune)と共同開発中の治療薬「AV-001」(中等度から重度の新型コロナウイルス感染症肺炎患者を対象)は、新型コロナウイルスの変異により重度の肺炎症患者が少なくなったため、対象疾患をウイルス性及び細菌性肺炎を含む急性呼吸窮迫症候群(以下、ARDS)に拡大して前期第2相臨床試験を進め、2023年内の被験者登録完了を目指す。そのほか、2022年5月に米Eiger Bio Pharmaceuticals Inc.(以下、アイガー)から導入したハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(以下、HGPS)及びプロジェロイド・ラミノパチー(以下、PL)※1を適応症とした治療薬「ゾキンヴィ」※2は、2023年3月にオーファン・ドラッグの指定を受け、早期の国内での販売承認申請に向けた準備を進めている。
※1 HGPSやPLは遺伝子の突然変異により発症し、平均14.5歳までに心臓病(動脈硬化症)で死亡するのが一般的とされる。病気の症状としては深刻な成長障害、強皮症に似た皮膚、全身性脂肪性筋萎縮症、脱毛症、骨格形成不全、心血管系の衰えを伴う全身性動脈硬化の促進、衰弱性の脳卒中が含まれる。世界の患者数は600人程度で、日本でも難病指定されており、10人弱の患者が確認されている。
※2 HGPSの死亡リスク低減、プロセシング不全性早老性PLの治療薬として、2020年11月に米国で承認された。臨床試験の結果ではHGPS患者において死亡率を60%減少させ、平均生存期間を2.5年延長させることができたとしている。開発元はメルクでアイガーはメルクから全世界での独占的権利をライセンスされた。
3. 業績動向
2022年12月期の事業収益は前期比4.5%増の67百万円、営業損失は16,316百万円(前期は15,632百万円の損失)となった。事業収益は希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査に関する手数料収入が増加した。費用面では、研究開発費が同215百万円増加の10,999百万円となった。新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発費が減少した一方で、Emendoの開発費が人員増や円安の影響等で増加した。また、円安の影響でEmendoののれん償却額も同476百万円増加したことも損失拡大要因となった。
2023年12月期の業績は事業収益で前期比123百万円増の190百万円、営業損失で同816百万円縮小の15,500百万円を見込む。事業収益は主にオプショナルスクリーニング検査業務が拡大する。費用面では販管費が横ばい、研究開発費が若干の減少となる見通しだ。営業外収支で新型コロナウイルスワクチン関連の補助金収入の計上が見込まれるため、経常損失は9,900百万円と前期の14,610百万円から大幅縮小する。2022年12月期末の現金及び預金は約110億円の水準となっており、今後も事業活動資金を確保していくため、パイプライン導出活動に加えて株式市場からの資金調達についても適宜検討していく方針だ。
■Key Points
・HGF遺伝子治療用製品は国内で2023年春の本承認申請に向け準備中、米国の後期第2相臨床試験は2024年前半に結果が判明する見通し
・NF-κBデコイオリゴDNAは椎間板性腰痛症を対象とした第2相臨床試験を日本で開始予定、塩野義製薬との協力を決定
・Emendoは2023年内の臨床試験開始と2024年以降のIPO、大型共同開発契約の早期実現を目指す
・2023年12月期の経常損失は補助金収入の計上により縮小する見込み
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《YI》
提供:フィスコ