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【特集】国内金が最高値更新、日銀の金融政策正常化の行方など焦点に <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 国内金は9月に入り、米労働市場の減速の見方や円安を受けて上値を伸ばし、現物(店頭小売価格、税込)が1万0105円、先物(JPX金先限)が9158円とともに最高値を更新した。米連邦準備理事会(FRB)が長期間、高金利を維持するとの見方を受けて米10年債利回りが4.36%と15年ぶりの高水準となったが、欧米の購買担当者景気指数(PMI)が低下したことをきっかけに米国債の利回り上昇が一服し、金に買い戻しが入った。また、米雇用動態調査(JOLTS)で求人件数が減少したことや、全米雇用報告で民間部門雇用者数が予想以下となり、労働市場の減速が示されたことも金の支援要因になった。

 8月の米雇用統計では非農業部門雇用者数が18万7000人増加と事前予想の17万人増加を上回ったが、過去分が下方修正された。19~20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では金利据え置きが確実視されている。ただ、その後に発表された米ISM景気指数は製造業、非製造業ともに上昇し、米経済のソフトランディングに対する期待感が強い。目先は今夜発表される8月の米消費者物価指数(CPI)が焦点である。事前予想は前年比3.6%上昇(前月3.2%上昇)と伸びが加速するが、コアCPIは同4.3%上昇(同4.7%上昇)に鈍化するとみられている。

 CMEのフェドウォッチで、11月の米FOMCでの利上げ確率が約40%となっており、今後発表される経済指標次第で利上げの可能性が残っている。ただ、来年半ばには利下げに転じることを織り込んでいる。

●日銀や中国人民銀行の政策の行方が焦点

 植田日銀総裁は、8月に米ワイオミング州で開催されたカンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で、金融緩和を維持しているのは基調インフレが目標をやや下回っているためだと述べ、金融緩和継続の姿勢を示した。円相場は米国債の利回り上昇も要因となって昨年11月以来となる1ドル=147円台後半の円安に振れた。

 ただ、9月9日付の読売新聞の記事で同総裁は単独インタビューに応じ、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になれば、大規模な金融緩和策の柱である「マイナス金利政策の解除」を含め「いろいろなオプション(選択肢)がある」と述べたことが伝えられた。週明けの東京市場では、年内の金融政策正常化の思惑を受けて長期金利が2014年1月以来の高水準となる0.70%まで上昇し、円高に振れた。

 実質賃金が16ヵ月連続で減少し、当面は金融緩和を維持するとみられるが、今後の日銀金融政策決定会合を確認したい。円安が止まるようなら、国内金の上昇が止まる可能性が出てくる。

 中国は財新サービス業購買担当者景況指数(PMI)の低下や貿易収支で輸出入の減少が続き、経済の先行き懸念が強い。中国当局は不動産市場の活性策や株式取引での印紙税引き下げ、国有銀行は住宅ローン金利引き下げを発表したが、不動産開発大手のデフォルト(債務不履行)に対する懸念もあり、オンショア人民元は対ドルで16年ぶりの安値をつけた。中国人民銀行は11日、人民元の中心レートを市場価格よりも元高に設定し、元安阻止の姿勢を示した。また、5000万ドル以上を買い入れる必要がある企業は承認が必要とし、投機を抑制するとした。中国経済の行方と人民元の下落が止まるかどうかも当面の焦点である。

●金ETFからの投資資金流出が続く

 世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、9月11日に884.89トン(7月末912.93トン)に減少した。8月25日に884.04トンと2020年1月以来の低水準となった。米FOMCの利上げ停止が見込まれたが、経済のソフトランディング(軟着陸)期待を受けて戻り場面で投資資金が流出した。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは8月22日に10万1946枚まで縮小し、3月7日以来の低水準となったが、その後に新規買い、買い戻しが入り、9月5日に13万8006枚に拡大した。中心限月のニューヨーク金12月限で中長期の節目となる200日移動平均線を8月9日に割り込み、テクニカル面で悪化した。8月下旬に予想以下の米経済指標を受けて地合いを引き締めたが、200日移動平均線で上値を抑えられており、ここを回復できなければ当面は戻り売り圧力が強まる可能性がある。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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