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【特集】OPECプラスの相場誘導術が進化、洗練された対話は相場を強気な領域へ<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 石油輸出国機構(OPEC)プラスの中核国であるサウジアラビアとロシアは輸出削減や減産について、これまで1ヵ月毎に延長するかどうか、あるいは規模を変更するかどうか発表してきたが、今週発表されたのは供給制限の3ヵ月延長だった。10月だけの延長を想定していた市場参加者にとっては驚きである。サウジアラビアは日量100万バレルの自主減産を、ロシアの同30万バレルの自主減産を年末まで継続する。ただ、供給制限の終了期限は示されていない。供給制限の規模については毎月見直しが行われる。満足な価格水準、あるいは理想的な需給バランスを目指して、OPECプラスの中核国は積極的で先制的な行動を続けている。

 先週、ロシアのノバク副首相は原油輸出の削減についてOPECプラスと合意し、プーチン大統領に報告したと伝わった。ロシアが輸出制限を続けることについて、「OPECプラスと合意した」とわざわざ報道機関が伝えたことが目を引いた。行動としてはこれまでの延長線上にあり、発表そのものに驚きはまったくなかったが、OPECプラスと合意という文言が交じるだけで、産油国全体としての協調的な雰囲気が演出されたように思われる。ロシアが自主的に輸出量を制限しているだけであるにも関わらず、発表の仕方を工夫することでニュースの受け手の印象は変わる。

●行動もその見せ方も柔軟、洗練されてきた産油国の相場誘導術

 世界最大級の産油国が自主的な生産調整について毎月発表することは、否が応でも市場参加者の目を引く。生産調整についてのヘッドライン(見出し)の本数が自ずと増えるためである。自主減産の終了期限時期が明示されていないことから、思惑が介在する余地もあり、産油国への関心を途切れさせないような配慮がそこかしこに見受けられるのが、ロシアとサウジによる最近の供給制限である。行動そのものも柔軟だが、行動の見せ方も柔軟である。主要産油国の目標は ブレント原油や、ニューヨーク市場のウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物など相場の誘導であり、中央銀行の物価安定目標とは全く異なるものの、サウジやロシアは巧みな対話を繰り広げて金融市場を導く金融当局者のようだ。

 これまでのOPECプラスは一定期間の生産調整を発表したら、次の会合まで市場参加者と対話することはあまりなかった。相場の短期的な変動はあまり考慮されず、悪く言えば怠慢な対応である。コロナショックの当時のように、場合によってOPECプラスは緊急会合を開催することはあるが、機動的で柔軟な対応は大所帯のOPECプラスにはそもそも困難である。ただ、最近数ヵ月間のロシアやサウジのやり方を見る限り、目標に向けて手法は洗練されてきたのではないか。

 世界的な石油需要が堅調であることもあって、主要産油国の減産戦略は奏功している。すでにエネルギー高による悲鳴が聞こえている日本など消費国はともかく、サウジやロシアに不満を抱く産油国は存在しないのではないか。チャート的にはWTI先物やブレント原油は弱気相場から強気相場へ分岐点の付近で推移しており、主要産油国が供給制限を早々と緩める可能性は低い。強気相場入りし、満足できる上向きの流れが発生するまで手綱を緩めないだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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