【特集】共有家計簿アプリ「OsidOri」に見る、サブスクビジネスにおける「MAU」の意味
村上茂久のスタートアップ投資術-新世代アップルの見つけ方-(2)
スタートアップ企業(ベンチャー企業)の市場は年々成長し、2021年に資金調達額が7801億円(1919社)を記録するなど、近年、日本でも盛り上がりを見せています。
本連載では、株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームである「FUNDINNO」を通じて資金調達を行った企業を毎回取り上げ、スタートアップ企業のビジネスモデルや成長戦略について、これまで、数多くのスタートアップ企業の資金調達支援を行ってきた株式会社ファインディールズ代表取締役の村上茂久さんが考察します。
村上さんは「スタートアップ企業は情報が少ないものの、調達にあたり、投資家に刺さるポイントがある程度、形式知化されていることも分かってきた」と話します。
事業が成熟している上場企業とは異なるスタートアップ企業を分析する際、どのような視点が必要とされるのでしょうか。
第2回は、夫婦共同で家計管理・貯金ができる「家族の金融マネジメントアプリ」である「OsidOri(オシドリ)」を取り上げるとともに、月額課金制のサブスクリプション型ビジネスの分析の要点を解説します。
夫婦で家計簿を管理できるアプリ「OsidOri」
スマートフォンが普及したことで、多くのアプリが世の中に出てきましたが、その中でも、家計において重宝されているのが家計簿管理アプリです。家計簿のアプリといえば、マネーフォワードME、Zaim、Moneytree等が有名です。これらのアプリでは、銀行口座、クレジットカード、電子マネー等と連携することで、銀行口座の入出金を通じて自動で家計簿が出来上がったり、レシートを写真に撮ることで、簡単に支出を管理できたりするといった特徴があります。
私自身、家計簿管理アプリを6年以上使っていますが、日々の入出金が可視化されるとともに、自動で家計簿が出来上がるので非常に重宝しています。
一方で、個人の口座や家計簿だけでなく、家族の口座全体を管理するとなると、違う難しさが出てきます。というのも、共働き世代が増えている昨今、口座の管理は夫婦別々に行われている家庭も多いからです。実際のところ、へそくり額の平均は夫133万円、妻233万円という調査結果もあります(※1)。
とはいえ、夫婦で協力して教育費や老後の貯蓄をしたり、住宅ローンの頭金を準備したりするなど、家族間での口座管理や家計簿管理は避けては通れないと言えます。
事実、2018年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書では、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯において、20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円」といったことが報告されたことで、「老後2000万円問題」も話題になっています(※2)。
では、どのようにして、家族や夫婦間での口座管理をすればよいのでしょうか。夫婦間で貯蓄をしたいものの、互いの口座は直接共有したくないという課題に対して、夫婦で共同利用できる家計簿管理アプリ、それが「OsidOri」です。
OsidOriは資産情報について、家族ページと個人ページに分かれています。家族ページは夫婦どちらも閲覧可能ですが、個人ページは本人しか見ることができません。そうすることで、個人の家計簿と家族の家計簿を同時に管理することができるようになるのです。また、家族ページで共有したい項目については、個別に口座や支出項目等を設定することもできます(図表1)。
図表1
出所:〈累計調達額約1.9億円〉家族のお金の「管理」から「金融アクション」までをスマホ1つで可能にする金融マネジメントアプリ『OsidOri(オシドリ)』
日々の家賃や水道光熱費はもちろんのこと、子供の教育費や子供へのプレゼント、家族旅行等、夫婦で支出するお金は結構多いものです。個別に分担することもあれば、どちらかがまとめて支払うケースもあるでしょう。これら日々の生活費の支払いのほか、貯金もするとなると、夫婦でどのような支払いと貯蓄をするかを分担するのは簡単ではありません。ですが、OsidOriを使えば、互いの支出を上手に管理できるようになります。
サブスクのビジネスではMAU(Monthly Active User)が重要
OsidOriを提供する株式会社OsidOri(東京都新宿区)は、目標募集額1467万円に対して、投資家392人を集めて、5787万円もの調達に成功しました。何が成功要因だったのでしょうか。大きな要因はインストール数と月額ユーザーの多さです。
前回の連載でも解説したように、スタートアップにおいて重要なのが、プロダクトやサービスが市場に受け入れられる状態となるプロダクトマーケットフィット(PMF)です。このPMFを達成する前において、ボーリングのセンターピンともいえる最初に着手すべきことが「課題を抱える人たち」が実在するかどうかを検証し、人物像や課題の重要性の捉え方にずれがないかを確認する「Customer Problem Fit」となります。
OsidOriは2019年9月にリリースされ、オーガニックと呼ばれる、広告等を使わない自然流入によって、調達時点で、インストール数15万人を突破していました。まさに多くのユーザーが夫婦におけるお金の管理を課題に感じていたことから、OsidOriでは「Customer Problem Fit」に成功したと言えます。さらには、プロダクトが顧客の課題の解決を発揮できたという意味での「Solution Product Fit」も達成し、広告を使わなくとも、自然流入だけで、これほどまでにユーザー数を獲得できています。
もちろん、インストール数が15万人を突破したとしても、全員がアプリを使い続けるわけではありません。読者の方も、ダウンロードをしたものの、そのまま使わずに放置しているアプリが結構あるのではないでしょうか。このような状況において重視すべきなのは、月にどれくらいのユーザーが使っているかを見る指標である「Monthly Active User(以下、MAU)」という概念です。MAUは「エムエーユー」と読みます。
OsidOriは調達時の2021年4月時点で、MAUが3万人を超えていました。つまり、1カ月間で3万人ものユーザーが使っているという状況です。これは過去1年間と比べて約3倍の増加数だったようです(図表2)。
このように、15万ダウンロードに加えて、3万人という大きなMAUが調達成功の要因になったと考えられます。
図表2
出所:〈累計調達額約1.9億円〉家族のお金の「管理」から「金融アクション」までをスマホ1つで可能にする金融マネジメントアプリ『OsidOri(オシドリ)』
月額の売上高MRRはMAUとARPUから構成される
月額課金を伴うサブスク系のサービスではとりわけ、この月額ユーザー数を意味する「MAU」という概念が重要になってきます。というのも、売上高は価格×数量に分解することができますが、これを月額課金のいわゆるサブスクのビジネスモデルに当てはめると、次のように計算できるからです。
月額の売上高=平均顧客単価×数量
=ARPU(Average Revenue Per User)×MAU(Monthly Active User)
ここで、ARPU(Average Revenue Per User)とは平均顧客単価であり、MAUは月額の有料利用者数です。例えば、月額1000円課金のアプリがあったとして、月の有料ユーザー数が1万人だった場合、月の継続的な売上高はARPU1000円×MAU1万人=1000万円になります。
SaaSやサブスクでは、これら月額の課金から得られる収益のことをMRR(Monthly Recurring Revenue)とも呼びます。
わかりやすい例として、ネットフリックスを挙げてみましょう。ネットフリックスの2021年度の年間売上高は295億ドルでした。そのため、月額の売上高(MRR)は295億ドル÷12=24.6億ドルになります。年度末のユーザー数(MAU)は約2.2億人だったため、月額における1人あたりの平均顧客単価を意味するARPUは約11.2ドル(295億ドル÷MAU2.2億人)です。つまり、MAUを用いると、次のような計算ができるのです。
MRR24.5億ドル=ARPU11.2ドル×MAU2.2億人
売上高を上げるためには、平均顧客単価(ARPU)を上げるか、数量(MAU)を増やすかのどちらか、もしくは両方を行うしかありません。経済学の需要と供給の考え方が示しているように、価格が上がると需要は減ります。そのため、サブスク系のアプリのサービスにおいては、まずは数量を意味するMAUをいかに増やせるかがが鍵となってきます。
OsidOriのビジネスモデルはフリーミアム
OsidOriでは、フリーミアムモデルを採用しています。フリーミアムとは、機能の一部を無料で使えたり、広告を付けて無料で使えるようにするもので、多くのスマホアプリで採用されています。例えば、家計簿アプリの先輩でもあるマネーフォワードMEも基本機能は無料で使えますし、他のアプリのサービスで言えば、名刺管理アプリのEightや音楽のSpotify等は一部の機能を無料で使えます。
アプリにおけるフリーミアムでは、有料のプレミアムプランを提供することで、無料だと使えない機能が使えたり、無料だと表示される広告をなくしたりしています。このようにして、基本無料でも収益を得られるようにしているのです。
OsidOriでは、基本機能は無料で使えて、その上で、サブスクとなる「プレミアム課金」と無料ユーザーへの広告配信を通じて、マネタイズ(収益化)を目指しています。
そのため、今後はプレミアム課金のユーザーを増やすことと、MAUを増やすことで広告配信を通じた収入を得ることの2つが肝要になってきます。
先ほど見てきたように、調達時点でOsidOriのMAUは3万人でした。ですが、これら全員が有料プランを申し込んでいるわけではありません。FUNDINNOの募集ページによれば、累計のプレミアムプランの申込者数は2021年4月時点で915件。MAU3万人と比較すると、およそ3%です。今後はMAUを増やしながらも、無料ユーザーから有料のプレミアムプランへのコンバージョン(転換)をいかに高められるかがポイントになります。
OsidOriのミッションと施策
では、MAUを増やしたり、プレミアムプランを申し込む会員を増やしたりするためには、どうすればよいのでしょうか。一番簡単なのは広告宣伝費を使うことです。実際、成長著しいスタートアップ企業の多くは、広告宣伝費を多額に使っています。例えば、メルカリは上場前後の2017年6月末決算において、売上の54%を広告宣伝費に使っていたほどです。
確かに資金を十分に調達できていれば、広告宣伝費をふんだんに使えますが、創業間もないスタートアップには、これほどの資金的な余裕はありません。何より、PMFを達成する前の段階では、広告宣伝費を使ったとしてもユーザーが獲得できず、砂漠に水をまくがごとく、効果がない可能性もあるのです。
そのため、広告宣伝費を使う段階では(1)広告を通じて十分にユーザーを獲得できること(2)獲得したユーザーが継続的に利用してくれることで、広告宣伝費に見合う将来の収益が見込めること――の2つが極めて重要になります。見方を変えれば、これら2つの検証ができたことで、PMFを達成し、その上で、広告を使った成長が機能するようになるのです。
OsidOriの場合、おそらくまだ、その手前のフェーズのため、広告宣伝費をそれほど多くは使わない形で上記(1)(2)を検証しながら、MAUの増加とプレミアム会員を獲得することが求められます。プレスリリースによれば、OsidOriはMAUの増加とプレミアム会員の獲得とも関連して、次のような施策を行っています。
・家計簿アプリデータを活用し、FP(ファイナンシャル・プランナー)から無料アドバイスをもらうことができる「家計簿アプリデータ活用のFPアドバイスサービス」の提供(※3)
・ユーザーの固定費(電気代)の削減をサポートする「OsidOri でんきの見直し」の提供(※4)
・住宅購入診断士や住宅FPといった有資格者が第三者の視点で厳選して、住宅会社を紹介する「OsidOri おうちの相談窓口」を提供(※5)
これらの施策は、以下の図表3にあるように、OsidOriの取り組みとも合致しています。OsidOriのミッションは「誰もがお金に困らず、生きたい人生を歩める世界をつくる」ですが、まさに、このミッションを体現した施策と言えます。
図表3
出所:〈累計調達額約1.9億円〉家族のお金の「管理」から「金融アクション」までをスマホ1つで可能にする金融マネジメントアプリ『OsidOri(オシドリ)』
スタートアップにおいては、ミッションやビジョンが重要とよく言われます。リソースが少ないスタートアップでは、これらミッションやビジョンが競争優位となるためです。OsidOriは、ミッションが事業の施策とマッチしている好例と言えるでしょう。
MAUから事業の伸びを判断する
今回は、5787万円を調達したOsidOriを取り上げ、サブスク系の事業の考え方をMAUを中心に解説しました。
OsidOriでは、これまでの個人向けの家計簿のアプリとは異なり、家族で使える家計簿というコンセプトを打ち出しています。これが顧客の課題を見事に捉えて、調達応募時点で15万ダウンロード、MAU3万ユーザーと、創業間もなくして好調な状況となり、調達に成功しました。今後はPMFに向けて、まずはMAUを増やすとともに、プレミアム会員をいかに獲得していくかが重要論点となります。
多くのスタートアップ企業は、短期的には、売上高や利益が出るものではありません。一方で、事業が進捗しているかを判断するには、売上や利益以外のKPIを押さえる必要が出てきます。その一つが、サブスク系の事業では月額のユーザー数を示すMAUです。MAUがどれくらいのペースで成長しているかは、事業が伸びているかどうかの一つの指針になります。スタートアップ企業を見る際には、ぜひ、MAUの視点も活用してみてください。
(※1)スパークス・アセット・マネジメント調べ 夫の52%、妻の49%が「へそくりをしている」、 へそくりをしている夫の割合は 昨年調査から9ポイント上昇
https://www.atpress.ne.jp/news/334874
(※2)金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
(※3)夫婦の共有家計簿・貯金アプリ「OsidOri(オシドリ)」が、『家計簿アプリデータを活用したFPアドバイスサービス』を開始
(※4)夫婦の共有家計簿・貯金アプリ「OsidOri(オシドリ)」が、固定費をお得に見直せる『OsidOri でんきの見直し』を開始
(※5)夫婦の共有家計簿・貯金アプリ「OsidOri(オシドリ)」が、住宅購入相談サービス『OsidOri おうちの相談窓口』を2022年7月より開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000047164.html
村上茂久
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社フェロー、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。大学院の経済学研究科を修了後、新生銀行で証券化、不良債権投資、不動産投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事。2018年より、GOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業開発、起業支援、スタートアップファイナンス支援業務等を手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。著書に「決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」(PHP研究所)がある。
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社フェロー、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。大学院の経済学研究科を修了後、新生銀行で証券化、不良債権投資、不動産投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事。2018年より、GOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業開発、起業支援、スタートアップファイナンス支援業務等を手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。著書に「決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」(PHP研究所)がある。
スタートアップ企業(ベンチャー企業)の市場は年々成長し、2021年に資金調達額が7801億円(1919社)を記録するなど、近年、日本でも盛り上がりを見せています。
本連載では、株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームである「FUNDINNO」を通じて資金調達を行った企業を毎回取り上げ、スタートアップ企業のビジネスモデルや成長戦略について、これまで、数多くのスタートアップ企業の資金調達支援を行ってきた株式会社ファインディールズ代表取締役の村上茂久さんが考察します。
村上さんは「スタートアップ企業は情報が少ないものの、調達にあたり、投資家に刺さるポイントがある程度、形式知化されていることも分かってきた」と話します。
事業が成熟している上場企業とは異なるスタートアップ企業を分析する際、どのような視点が必要とされるのでしょうか。
第2回は、夫婦共同で家計管理・貯金ができる「家族の金融マネジメントアプリ」である「OsidOri(オシドリ)」を取り上げるとともに、月額課金制のサブスクリプション型ビジネスの分析の要点を解説します。
夫婦で家計簿を管理できるアプリ「OsidOri」
スマートフォンが普及したことで、多くのアプリが世の中に出てきましたが、その中でも、家計において重宝されているのが家計簿管理アプリです。家計簿のアプリといえば、マネーフォワードME、Zaim、Moneytree等が有名です。これらのアプリでは、銀行口座、クレジットカード、電子マネー等と連携することで、銀行口座の入出金を通じて自動で家計簿が出来上がったり、レシートを写真に撮ることで、簡単に支出を管理できたりするといった特徴があります。
私自身、家計簿管理アプリを6年以上使っていますが、日々の入出金が可視化されるとともに、自動で家計簿が出来上がるので非常に重宝しています。
一方で、個人の口座や家計簿だけでなく、家族の口座全体を管理するとなると、違う難しさが出てきます。というのも、共働き世代が増えている昨今、口座の管理は夫婦別々に行われている家庭も多いからです。実際のところ、へそくり額の平均は夫133万円、妻233万円という調査結果もあります(※1)。
とはいえ、夫婦で協力して教育費や老後の貯蓄をしたり、住宅ローンの頭金を準備したりするなど、家族間での口座管理や家計簿管理は避けては通れないと言えます。
事実、2018年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書では、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯において、20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円」といったことが報告されたことで、「老後2000万円問題」も話題になっています(※2)。
では、どのようにして、家族や夫婦間での口座管理をすればよいのでしょうか。夫婦間で貯蓄をしたいものの、互いの口座は直接共有したくないという課題に対して、夫婦で共同利用できる家計簿管理アプリ、それが「OsidOri」です。
OsidOriは資産情報について、家族ページと個人ページに分かれています。家族ページは夫婦どちらも閲覧可能ですが、個人ページは本人しか見ることができません。そうすることで、個人の家計簿と家族の家計簿を同時に管理することができるようになるのです。また、家族ページで共有したい項目については、個別に口座や支出項目等を設定することもできます(図表1)。
図表1
出所:〈累計調達額約1.9億円〉家族のお金の「管理」から「金融アクション」までをスマホ1つで可能にする金融マネジメントアプリ『OsidOri(オシドリ)』
日々の家賃や水道光熱費はもちろんのこと、子供の教育費や子供へのプレゼント、家族旅行等、夫婦で支出するお金は結構多いものです。個別に分担することもあれば、どちらかがまとめて支払うケースもあるでしょう。これら日々の生活費の支払いのほか、貯金もするとなると、夫婦でどのような支払いと貯蓄をするかを分担するのは簡単ではありません。ですが、OsidOriを使えば、互いの支出を上手に管理できるようになります。
サブスクのビジネスではMAU(Monthly Active User)が重要
OsidOriを提供する株式会社OsidOri(東京都新宿区)は、目標募集額1467万円に対して、投資家392人を集めて、5787万円もの調達に成功しました。何が成功要因だったのでしょうか。大きな要因はインストール数と月額ユーザーの多さです。
前回の連載でも解説したように、スタートアップにおいて重要なのが、プロダクトやサービスが市場に受け入れられる状態となるプロダクトマーケットフィット(PMF)です。このPMFを達成する前において、ボーリングのセンターピンともいえる最初に着手すべきことが「課題を抱える人たち」が実在するかどうかを検証し、人物像や課題の重要性の捉え方にずれがないかを確認する「Customer Problem Fit」となります。
OsidOriは2019年9月にリリースされ、オーガニックと呼ばれる、広告等を使わない自然流入によって、調達時点で、インストール数15万人を突破していました。まさに多くのユーザーが夫婦におけるお金の管理を課題に感じていたことから、OsidOriでは「Customer Problem Fit」に成功したと言えます。さらには、プロダクトが顧客の課題の解決を発揮できたという意味での「Solution Product Fit」も達成し、広告を使わなくとも、自然流入だけで、これほどまでにユーザー数を獲得できています。
もちろん、インストール数が15万人を突破したとしても、全員がアプリを使い続けるわけではありません。読者の方も、ダウンロードをしたものの、そのまま使わずに放置しているアプリが結構あるのではないでしょうか。このような状況において重視すべきなのは、月にどれくらいのユーザーが使っているかを見る指標である「Monthly Active User(以下、MAU)」という概念です。MAUは「エムエーユー」と読みます。
OsidOriは調達時の2021年4月時点で、MAUが3万人を超えていました。つまり、1カ月間で3万人ものユーザーが使っているという状況です。これは過去1年間と比べて約3倍の増加数だったようです(図表2)。
このように、15万ダウンロードに加えて、3万人という大きなMAUが調達成功の要因になったと考えられます。
図表2
出所:〈累計調達額約1.9億円〉家族のお金の「管理」から「金融アクション」までをスマホ1つで可能にする金融マネジメントアプリ『OsidOri(オシドリ)』
月額の売上高MRRはMAUとARPUから構成される
月額課金を伴うサブスク系のサービスではとりわけ、この月額ユーザー数を意味する「MAU」という概念が重要になってきます。というのも、売上高は価格×数量に分解することができますが、これを月額課金のいわゆるサブスクのビジネスモデルに当てはめると、次のように計算できるからです。
月額の売上高=平均顧客単価×数量
=ARPU(Average Revenue Per User)×MAU(Monthly Active User)
ここで、ARPU(Average Revenue Per User)とは平均顧客単価であり、MAUは月額の有料利用者数です。例えば、月額1000円課金のアプリがあったとして、月の有料ユーザー数が1万人だった場合、月の継続的な売上高はARPU1000円×MAU1万人=1000万円になります。
SaaSやサブスクでは、これら月額の課金から得られる収益のことをMRR(Monthly Recurring Revenue)とも呼びます。
わかりやすい例として、ネットフリックスを挙げてみましょう。ネットフリックスの2021年度の年間売上高は295億ドルでした。そのため、月額の売上高(MRR)は295億ドル÷12=24.6億ドルになります。年度末のユーザー数(MAU)は約2.2億人だったため、月額における1人あたりの平均顧客単価を意味するARPUは約11.2ドル(295億ドル÷MAU2.2億人)です。つまり、MAUを用いると、次のような計算ができるのです。
MRR24.5億ドル=ARPU11.2ドル×MAU2.2億人
売上高を上げるためには、平均顧客単価(ARPU)を上げるか、数量(MAU)を増やすかのどちらか、もしくは両方を行うしかありません。経済学の需要と供給の考え方が示しているように、価格が上がると需要は減ります。そのため、サブスク系のアプリのサービスにおいては、まずは数量を意味するMAUをいかに増やせるかがが鍵となってきます。
OsidOriのビジネスモデルはフリーミアム
OsidOriでは、フリーミアムモデルを採用しています。フリーミアムとは、機能の一部を無料で使えたり、広告を付けて無料で使えるようにするもので、多くのスマホアプリで採用されています。例えば、家計簿アプリの先輩でもあるマネーフォワードMEも基本機能は無料で使えますし、他のアプリのサービスで言えば、名刺管理アプリのEightや音楽のSpotify等は一部の機能を無料で使えます。
アプリにおけるフリーミアムでは、有料のプレミアムプランを提供することで、無料だと使えない機能が使えたり、無料だと表示される広告をなくしたりしています。このようにして、基本無料でも収益を得られるようにしているのです。
OsidOriでは、基本機能は無料で使えて、その上で、サブスクとなる「プレミアム課金」と無料ユーザーへの広告配信を通じて、マネタイズ(収益化)を目指しています。
そのため、今後はプレミアム課金のユーザーを増やすことと、MAUを増やすことで広告配信を通じた収入を得ることの2つが肝要になってきます。
先ほど見てきたように、調達時点でOsidOriのMAUは3万人でした。ですが、これら全員が有料プランを申し込んでいるわけではありません。FUNDINNOの募集ページによれば、累計のプレミアムプランの申込者数は2021年4月時点で915件。MAU3万人と比較すると、およそ3%です。今後はMAUを増やしながらも、無料ユーザーから有料のプレミアムプランへのコンバージョン(転換)をいかに高められるかがポイントになります。
OsidOriのミッションと施策
では、MAUを増やしたり、プレミアムプランを申し込む会員を増やしたりするためには、どうすればよいのでしょうか。一番簡単なのは広告宣伝費を使うことです。実際、成長著しいスタートアップ企業の多くは、広告宣伝費を多額に使っています。例えば、メルカリは上場前後の2017年6月末決算において、売上の54%を広告宣伝費に使っていたほどです。
確かに資金を十分に調達できていれば、広告宣伝費をふんだんに使えますが、創業間もないスタートアップには、これほどの資金的な余裕はありません。何より、PMFを達成する前の段階では、広告宣伝費を使ったとしてもユーザーが獲得できず、砂漠に水をまくがごとく、効果がない可能性もあるのです。
そのため、広告宣伝費を使う段階では(1)広告を通じて十分にユーザーを獲得できること(2)獲得したユーザーが継続的に利用してくれることで、広告宣伝費に見合う将来の収益が見込めること――の2つが極めて重要になります。見方を変えれば、これら2つの検証ができたことで、PMFを達成し、その上で、広告を使った成長が機能するようになるのです。
OsidOriの場合、おそらくまだ、その手前のフェーズのため、広告宣伝費をそれほど多くは使わない形で上記(1)(2)を検証しながら、MAUの増加とプレミアム会員を獲得することが求められます。プレスリリースによれば、OsidOriはMAUの増加とプレミアム会員の獲得とも関連して、次のような施策を行っています。
・家計簿アプリデータを活用し、FP(ファイナンシャル・プランナー)から無料アドバイスをもらうことができる「家計簿アプリデータ活用のFPアドバイスサービス」の提供(※3)
・ユーザーの固定費(電気代)の削減をサポートする「OsidOri でんきの見直し」の提供(※4)
・住宅購入診断士や住宅FPといった有資格者が第三者の視点で厳選して、住宅会社を紹介する「OsidOri おうちの相談窓口」を提供(※5)
これらの施策は、以下の図表3にあるように、OsidOriの取り組みとも合致しています。OsidOriのミッションは「誰もがお金に困らず、生きたい人生を歩める世界をつくる」ですが、まさに、このミッションを体現した施策と言えます。
図表3
出所:〈累計調達額約1.9億円〉家族のお金の「管理」から「金融アクション」までをスマホ1つで可能にする金融マネジメントアプリ『OsidOri(オシドリ)』
スタートアップにおいては、ミッションやビジョンが重要とよく言われます。リソースが少ないスタートアップでは、これらミッションやビジョンが競争優位となるためです。OsidOriは、ミッションが事業の施策とマッチしている好例と言えるでしょう。
MAUから事業の伸びを判断する
今回は、5787万円を調達したOsidOriを取り上げ、サブスク系の事業の考え方をMAUを中心に解説しました。
OsidOriでは、これまでの個人向けの家計簿のアプリとは異なり、家族で使える家計簿というコンセプトを打ち出しています。これが顧客の課題を見事に捉えて、調達応募時点で15万ダウンロード、MAU3万ユーザーと、創業間もなくして好調な状況となり、調達に成功しました。今後はPMFに向けて、まずはMAUを増やすとともに、プレミアム会員をいかに獲得していくかが重要論点となります。
多くのスタートアップ企業は、短期的には、売上高や利益が出るものではありません。一方で、事業が進捗しているかを判断するには、売上や利益以外のKPIを押さえる必要が出てきます。その一つが、サブスク系の事業では月額のユーザー数を示すMAUです。MAUがどれくらいのペースで成長しているかは、事業が伸びているかどうかの一つの指針になります。スタートアップ企業を見る際には、ぜひ、MAUの視点も活用してみてください。
(※1)スパークス・アセット・マネジメント調べ 夫の52%、妻の49%が「へそくりをしている」、 へそくりをしている夫の割合は 昨年調査から9ポイント上昇
https://www.atpress.ne.jp/news/334874
(※2)金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
(※3)夫婦の共有家計簿・貯金アプリ「OsidOri(オシドリ)」が、『家計簿アプリデータを活用したFPアドバイスサービス』を開始
(※4)夫婦の共有家計簿・貯金アプリ「OsidOri(オシドリ)」が、固定費をお得に見直せる『OsidOri でんきの見直し』を開始
(※5)夫婦の共有家計簿・貯金アプリ「OsidOri(オシドリ)」が、住宅購入相談サービス『OsidOri おうちの相談窓口』を2022年7月より開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000047164.html
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