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【特集】ビジネスを真に理解するための「決算書」の読み方-書評「決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」




 「決算書が読めるようになると、何が起こるのか? それは、『お金の流れ』をつかみ、ビジネスへの理解度、解像度が格段に上がることです。その意味で、決算書を読むスキルは『魔法の道具』だと言えます」(「はじめに」)

 「決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」(PHPビジネス新書)は、株式会社ファインディールズ代表取締役で、GOB Incubation Partners株式会社のCFOとして、新規事業の開発や起業の支援、スタートアップ企業等の財務や法務等の支援も行う、村上茂久(むらかみ・しげひさ)氏の初の著書だ。

 企業の決算書を真に読み解くには、

(1)「生きた決算書」を題材に、
(2)多様な視点から、会計とファイナンスの知識を用いて、
(3)複雑なビジネスモデルを理解する

 ことが肝要であることを、7つの具体的な事例をもとに解説していく内容で、読み終えると、とかく表面的かつ平面的になりがちな決算書の読み方が、立体的で生きたものへと変化する、エキサイティングな一冊となっている。

 例えば、「第1章 メガベンチャー『メルカリ』 228億円の赤字でも絶好調の謎」では、「会計」は「過去」を、「ファイナンス」は「未来」を見る指標であり、「成長が著しい企業では、実績だけではなく将来性を重視する必要がある」(p.26)とした上で、ファイナンスを通じて未来を考えるに当たっては、将来、キャッシュフローを生むかどうかが重要だと説く。

 赤字続きのメルカリ <4385> [東証P]がなぜ、株式市場で、時価総額約9827億円(2021年9月30日時点)もの評価を得られるのか。その秘密に迫るには、「キャッシュフロー計算書(C/S)」に注目することが重要だという。

 C/Sには「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」の3つがあり、特に、メルカリの営業キャッシュフローを見ると、125億円もある(2020年6月期)。それに大きく貢献しているのが+377億円の「預り金の増減額」。その正体は、ユーザーがすぐに使うことなく、メルカリに残しているお金であり、メルカリが重視する商品の取引総額(流通取引総額=GMV)の推移を見ていくと、ある"カラクリ"が見えてくる。

 また、連結では赤字でも、メルカリ単体の経常利益は黒字であり、事業は十分なキャッシュを生み出すことができ、さらに「損益の質」に着目すると、メルカリ(連結)は343億円もの「広告宣伝費」を使っていることが分かる。つまり、「メルカリは全体では赤字ですが、めちゃくちゃ攻めの赤字だったんです」(p.55)。

 第2章以降で「ソフトバンクグループ」「Slack」「アマゾン」と具体的な企業の決算書についてスリリングな解説が行われた後、第5章「お金のプロでも差が出る『決算書の読み方』」では、決算に関する情報収集について、「有価証券報告書」「決算短信」「決算説明資料」「統合報告書」などの基本性格とともに明快な解説がなされる。

 決算書を読み解くには「見方を増やす」ことが重要であり、融資をする銀行員の見方、株式投資をする人の見方、転職に役立つ読み方などが紹介される、多くの人にとって興味を引く内容となっている。

 そのほか、以前から「ESG経営」にコミットしてきた「エーザイ」のすごさ、巨額の営業損失を出した「電通」の"大誤算"といった章立ても。日系老舗メーカーの人事担当である「中村さん」と、中村さんのゼミの先輩で、スタートアップのCFOとして活躍する「宮田さん」の掛け合いの形式とすることで、「決算書」という一見難解なテーマでも楽しく、最後まで一気に読み通せる構成となっている。

 投資をしている人はもちろん、就職・転職を考えている人など、企業(経営)に関心のあるすべての人に手に取ってほしい好著だ。

 なお、株探では、村上氏の連載「村上茂久のスタートアップ投資術-新世代アップルの見つけ方-」がスタート。毎回、株式投資型クラウドファンディングで資金調達をしたスタートアップ企業を1社取り上げ、その特徴などを解説する。


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