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【特集】ロシア産原油の価格制限措置がまもなく発動も、目的や効果は不透明<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 来月5日、ロシア産原油の海上輸出価格に上限を設定する新たな対ロシア制裁が発動する。注目されている上限価格については先月伝わっていた67~72ドルのレンジから、65~70ドルに引き下げられたが、水準的にまだ高すぎるとの批判もあってまだ合意に至っていない。制裁の対象であるロシアに供給を維持してもらいつつ、ウクライナで軍事行動を続ける同国の石油収入を限定しようとする今回の制裁には違和感しかない。

●即効性の薄い制裁を行う意図は

 結論として、この制裁の設計そのものが違和感の正体である。ロシアの石油収入を大幅に減少させようという意思があまり感じられない。新たな制裁によって、ロシアにウクライナでの即時停戦を促すことは目的ではなく、むしろ戦闘を継続する余地を与えようとしている。ロシアのウラル産原油は報道された上限価格を下回っており、新たな制裁が発動してもロシアの石油収入がほとんど変化しない可能性がある。

  石油価格が上昇した場面では、ウラル産の輸出価格が抑制されることから効果がないとは言えないが、長期的な視点からロシアの弱体化を目指している印象が強い。ウクライナ、ロシアともに民間人を動員して死傷者数が拡大しているなか、目先の停戦協議に関心が薄いのは何故か。

 輸出価格の制限は、世界最大級の産油国であるロシアに対して、石油価格の変動を武器として利用させないことを意図した制裁であるようにも見える。ゼロコロナを続ける中国は違うかもしれないが、インフレが頭痛の種ではない国は存在せず、エネルギー価格のさらなる上昇に西側各国はおそらく耐えられないことから、ロシアの攻撃を封じようとしているのではないか。原油価格の変動はしばしば武器として利用される。軍事兵器に頼らずとも、ロシアは主要7ヵ国(G7)や欧州連合(EU)を攻撃可能であり、西側としてはこの危機から身を守る必要がある。

●マーケットが歪み禍根を残す

 日々変動し続ける相場に対して一定の上限を設定するという行為は、自由であることを最大限に尊重する西側のイデオロギーからかけ離れており、自由を一切無視した感染対策を続ける中国政府のような所業であることも異様な印象を与える。

 ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する制裁で、自由主義的な思想を介入させる必要はないのだろうが、主要国が一致団結してマーケットを歪めようとするさまは、ただただ不快である。中国のステンレス鉄鋼大手の青山集団が引き起こしたニッケル事件のように禍根を残すだろう。金融市場の自由を侵しても構わない場合など存在しない。

 ロシア産原油の輸出価格制限は意図が不明確で、不気味である。この気味の悪さを一番感じているのはロシアではないだろうか。発動を控えて緊迫感が高まっている。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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