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【特集】動き始めた「不動産株」、都心オフィス需要底打ちの兆しを見逃すな <株探トップ特集>

東京都心のオフィス需要はコロナ禍で低迷していたが、底打ちの兆しがみえてきた。コロナ感染者の減少で出社勤務への回帰は強まっており、オフィス空室率の低下が続く可能性も考えられる。

―コロナ禍で初、オフィス空室率21ヵ月ぶり低下で浮かび上がる意外な銘柄とは―

 いま、不動産周辺株に静かに投資マネーが流入し始めている。ウィズコロナ環境で創生されたニューノーマル時代のビジネス経済。果たして、ここで注目される銘柄とは何か。

  オフィス仲介大手の三鬼商事(東京都中央区)が9日に発表した11月末時点の東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオフィス平均空室率は前月比0.12ポイント低下の6.35%となり、21ヵ月ぶりに下落に転じた。このデータは毎月10日前後に発表されるが、不動産業界の関係者だけでなく、景気全体の状況を示すものとして、市場関係者からも注目されている。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた企業業績の悪化や在宅勤務の普及を背景にオフィスの解約が増えたことで、空室率の上昇は2020年3月から続いていた。低調なオフィス需要を背景に、都内を基盤にして不動産事業を展開する各社の株価は低パフォーマンスのものが目立っていたが、オフィス空室率の低下が一服し、更に改善への見通しが広がるならば、関連株に投資資金が流入する可能性は否定できない。

●都心のオフィス需要は下げ止まった可能性も

 11月分のデータは、需給ともに空室率の改善方向が寄与した。三鬼商事によると需要面では、竣工1年未満のビルで小規模ながらも成約がみられたという。加えて、複数の報道によれば、増床に伴う大型成約のほか、拡張移転の増加、更には解約の減少も寄与したようだ。供給面では、11月は新築ビルの竣工がほぼゼロであったもようだが、東京都心ではこのところ、完成した大規模ビルなどでテナントが埋まらないケースが相次いでおり、これがコロナ禍以降の空室率上昇トレンドの背景にあった。

 今回の結果だけで、底打ちから改善に向かうとするのは楽観的すぎるという見方もある。しかし一方で、10月1日に緊急事態宣言が解除され、その後も新型コロナの感染再拡大に歯止めがかかっている状況下、自宅でテレワークをしていた従業員がオフィスに戻りつつある流れは確かであり、企業のオフィス縮小の動きが今後も続くとは考えにくい。すぐには上向かないとしても、下げ止まった可能性は高く、東京都心のオフィス需要は転機を迎えたとみてよさそうだ。

●新宿区と渋谷区は大幅に改善

 三鬼商事のデータをみると、11月は新築ビル、既存ビルともに改善を示している。また、エリア別では前月比ベースで、中央区は空室率の悪化が続いたものの、千代田区は横ばい、港区、新宿区、渋谷区の3区は改善した。

 とりわけ新宿区は6.79%から6.13%へ、渋谷区は5.89%から5.41%へと大幅に改善した。新宿区や渋谷区はIT企業が多く、システムエンジニアなどの在宅勤務の増加によって余剰となったオフィスの解約が続いていたが、オフィス見直しの動きが一巡した可能性がある。また、オフィス賃料の低下によって郊外から都心へのオフィス回帰や、コロナ禍で業績好調のコールセンターなど、入居済みの企業によるフロア拡張の動きが出始めたことも考えられる。

●空室率の低下は不動産株の見直しにつながる

 不動産セクターでは、コロナ禍においてのオフィス需要の低下のみならず、中国の不動産大手「中国恒大集団」の経営不安や、レジデンスでは住宅ローン減税の控除率の引き下げも悪材料となっていた。業績に対する投資家の目線や期待値は低めとみられることから、12月分以降もオフィス空室率の低下傾向が示されれば、需要回復が意識され始め、不動産株は見直し買いの対象となる。

 このなかで、懸念されるのは「中国恒大集団」のデフォルト(債務不履行)リスクであり、これによって日本の不動産株に連想売りが出ている側面は強い。ただしこの点について、「中国恒大集団」と取引がある日本企業はほとんどないとみられており、行き過ぎた不安は今後修正される可能性が高い。

 なお、今回11月分のデータでは、平均賃料は前月比ベースで5区すべてにおいて悪化継続が示された。ただ、悪化ペースはスローダウンしつつあり、これがプラスに転じるようなことがあれば、弱気に傾いていた不動産株へのセンチメントは改善すると考えられる。

●不動産株以外でも、サッポロHDや松竹などに注目

 三井不動産 <8801> 、三菱地所 <8802> 、東京建物 <8804> 、住友不動産 <8830> 、野村不動産ホールディングス <3231> 、東急不動産ホールディングス <3289> 、ヒューリック <3003> など、大手不動産株は当然のことながら、都心5区のオフィス需要回復の恩恵が大きい。

 しかし、注目は不動産セクター以外の企業であり、東京都心5区に土地や建物を保有し、不動産事業で利益をあげている会社がマークされる。

 その代表格は渋谷区恵比寿を中心に不動産を保有するサッポロホールディングス <2501> だ。20年12月期のセグメント別情報では、売上収益全体における不動産事業の占める割合は6%弱に過ぎず、不動産事業の比率はそれほど高いわけではないが、市場参加者の間では「土地持ち企業」として知られており、思惑的な買いが株価を押し上げることも考えられる。

 また、「歌舞伎座タワー」をはじめ不動産事業を展開する松竹 <9601> 、港区赤坂に不動産を有するTBSホールディングス <9401> のほか、JR東日本 <9020> 、東急 <9005> 、小田急電鉄 <9007> 、京王電鉄 <9008> などの鉄道セクター、更には、駅前などに保有する膨大な土地を再開発し、不動産事業を新たな経営の柱にすべく注力している日本郵政 <6178> も有力な投資対象に挙げられる。

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