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【特集】原油相場も衝突の舞台に?サウジの選択は従属か決別か <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 就任したばかりのトランプ米大統領が提供する話題は多彩だ。米国がグリーンランドやパナマ運河を領有することを主張したほか、メキシコやカナダ、欧州、中国などに敵対的な関税をちらつかせている。石油輸出国機構(OPEC)やサウジアラビアには 原油価格の引き下げを要請した。ウクライナと戦争を続けるロシアには停戦に応じない場合、追加制裁や関税を課すと警告している。

 資源や安全保障のためグリーンランドの領有を主張するトランプ米大統領は、ベネズエラのマドゥロ大統領のように独裁的である。マドゥロ大統領も巨大油田を有する隣国ガイアナを狙っている。中国やロシア、ベネズエラが他国の領土に手を伸ばそうものなら批判の嵐を浴びることは間違いないが、プロパガンダ上手な米国がならず者国家として扱われることはない。

 原油価格の引き下げについて、米国は米石油大手のエクソンモービルやシェブロンなどにまずは圧力をかけるべきだとしても、世界最大のカルテルであるOPECはいつも悪役の立場に置かれるため、一方的に要求を突きつけられる。トランプ政権が目標として掲げる「ドリル・ベイビー・ドリル(石油の大量生産)」をなし得るなら、原油価格は自ずと下がるため、OPECに注文をつける必要はない。

●多極化する世界で主導権を握るのは

 トランプ米大統領はパレスチナ自治区ガザについて、イスラエルの侵攻から逃れたパレスチナ人をエジプトやヨルダンなど近隣へ移住させる意向を表明した。バイデン前大統領はイスラエルによるガザ地区の破壊を支援し、政権交代後のトランプ新大統領はガザからパレスチナ人を一掃しようとしている。パレスチナ人の受け入れを拒否した国も関税引き上げの標的となるのだろうか。ガザの現状について新たな米大統領が「ほとんど全てが解体され、人々は死んでいる」と述べたことからもわかるように、米国の認識ではガザで歴史に刻まれたジェノサイドは起こっておらず、瓦礫が山積みとなり、なぜか数万人のパレスチナ人が死んだだけである。パレスチナ人を排除したうえで、ガザ再建計画は動き出すのだろうか。

 強制移住計画は誰がどう見ても狂っているが、米国が支援するイスラエルのパレスチナ侵略を国連など世界は阻止できず、ただ見ているしかなかった。ガザ地区で支援活動を行った国連職員も、惨劇を伝えるジャーナリストも殺戮の対象となった。イエメン西部を支配するアンサール・アッラー(フーシ派)は直接的にイスラエルや西側各国と衝突し、レバノンのイスラム組織ヒズボラはイスラエル攻撃を繰り返したものの、こういった武装組織を支援するイランが衝突の最前線に出てくることはなかった。中国やロシア、インドなどを中心とするBRICS諸国が台頭しているように、世界は多極化しているとしても、何が秩序であるのか決めているのは未だに米国である。

 今後4年間、米国のでたらめな行動を受け入れ続けるしかないとしても、トランプ米大統領が関税を振り回して米国を強くしようとなりふり構わず政権を運営しようとするならば、米国に隷属しようとしない国々は対抗するだろう。トランプ米大統領は、米国が弱っていることを認識しているがゆえに、関税で他国をけん制しつつ、連邦所得税の撤廃などで米国を強くしようとしているのだと思われる。

●原油市場で非西側諸国の反撃はあるか

 米国を中心とした西側と非西側の摩擦が強まるならば、富の源泉であり、経済的な強さの源である資源市場が衝突の舞台の一つとなるに違いない。金相場の上昇がただの紙切れであるドルなど紙幣の存在を脅かしているように、コモディティ市場はすでに戦争の舞台となっている。金融資産(ペーパーアセット)と、現物資産(ハードアセット)の衝突である。

 現物ではなく、金融市場の動向により左右されやすい原油市場で、非西側の反撃は見られるのだろうか。BRICSへの正式な加盟を表明せず、曖昧な立場を選んでいるサウジアラビアの動きが衝突の行方を占うだろう。ただ、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は米国への巨額投資を表明し、トランプ米大統領の機嫌を取っているように見える。金相場のように、原油相場の動向が米国を脅かすことはないかもしれないが、騒がしい4年間となる可能性が高い。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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