【特集】年初から上振れする原油相場、トランプ次期大統領の初動は今年を占う可能性大 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
政権交代が迫っているなか、バイデン米政権はロシアに対する追加制裁を発表した。トランプ次期大統領は、ロシアとウクライナの和平交渉を開始する構えであり、ウクライナが協議を有利に進められるようにロシアの石油収入に打撃を与え、ロシアの財政を消耗させる目的のようだ。ロシアの石油産業や流通網に厳しい制裁を科すならもっと早い段階で実行していれば、西側がウクライナ紛争で優勢に立てたかもしれないが、原油高を嫌ったのか、バイデン米大統領は政権末期までなぜか引き伸ばした。
●ロシア・イランへの圧力で供給がひっ迫
バイデン政権のロシアに対する最後の抵抗により、ロシア産原油を輸送するシャドーフリート(影の船団)が制裁対象となる。影の船団はロシアやイランなど、制裁対象の国の石油を輸送している。今回の追加制裁により、ロシアの海上原油輸出の日量170万バレル程度が制裁の影響を受ける可能性があり、この規模の原油が行き場を失うなら、需給バランスに与える影響は多大である。
トランプ次期米大統領は、イスラエルに敵対するイランに最大限の圧力をかける見通しで、イランの石油産業が再び標的となりうる。イスラエルによるイラン攻撃もあって、昨年のイランの原油輸出は一時的に落ち込んだようだが、2024年の平均では日量170万バレル規模を維持しているのではないか。イランとロシアの原油輸出が合計で日量340万バレルも下振れするようだと、今年の供給不足はほぼ確実である。供給ひっ迫懸念見通しを背景に、週明けのニューヨーク市場でウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は1バレル=80ドルの節目に接近した。
米エネルギー情報局(EIA)の週報によると、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油と石油製品の在庫は昨年夏ごろから減少傾向にある。年初にかけては米石油在庫の取り崩しは一巡しているものの、米国に寒波が到来していることで暖房用の石油需要が拡大している公算で、需給はさらに引き締まっている可能性が高い。
また、EIA週報で受け渡し地クッシングの原油在庫は2003万8000バレルまで減少しており、タンクボトムとされる節目の2000万バレルに接近している。タンクボトムとは、クッシングで受け渡しのために最低限維持されなければならない水準であり、この付近を大きく下回って原油在庫を取り崩すことが出来ない下限として認識されている。クッシングで渡すための原油を確保することが難しくなっている可能性があり、一言でいえば売りたくても現物がなく、売れない状況といえる。原油先物はペーパーアセットの一角であるため、現物がなくとも売りオーダーは通るものの、裸の売り(ネイキッド・ショート)が増えるならば、売り方は踏み上げの燃料となりうる。
●来週の相場は今年を占う
ロシアに対するバイデン米政権の追加制裁、トランプ次期政権による新たなイラン制裁の発動リスク、寒波による燃料需要拡大、オクラホマ州クッシングで原油在庫が低水準で推移していることは原油相場をさらに押し上げる可能性がある。米国がイランに軍事行動を起こすリスクも否定できないうえ、カナダから日量400万バレルもの原油を輸入する米国がカナダからの輸入品全てに関税を科す暴挙も想定しなければならない。足元の原油高は上昇トレンドの始まりなのか。来週の相場展開は今年を占うだろう。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース