【経済】【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(4):◆北朝鮮問題を複雑化させる二つの要素◆
〇電磁パルス攻撃など、水面下の攻防激化か〇
日本を飛び越える北朝鮮ミサイル後、表面上の軍事的緊張は高まらず、国連安保理での制裁強化の攻防、対話路線模索の動きが中心になっている。制裁強化に向けては、日本の動きが活発で、安倍首相がトランプ大統領と連日の電話協議を行い、来日中のメイ英首相とも制裁強化で合意した。河野外相は、英、豪、エジプト、イスラエル各外相と電話協議を行い、小野寺防衛相も英国防大臣と電話協議を行った。
制裁課題に石油禁輸が伝えられているが、出稼ぎ規制、海上封鎖などにしろ、中国とロシアの賛同が不可欠。個別制裁が中ロの企業や個人に及び始めているので、両国は慎重姿勢で、制裁強化の成否は未知数な状況。対話路線では、金正恩委員長排除後の政治体制の方向性が全く浮上しておらず、さりとて、金委員長が核・ミサイル開発放棄を飲むとは思えず、入り口にも届かない情勢だ。
議論の背景に、二つの軍事的緊張があると考えられる。一つは27日付産経新聞が報じた「『電磁パルス攻撃』の脅威、上空の核爆発で日本全土が機能不全に」。電磁パルス(EMP)爆弾は、当欄でも以前に取り上げたことがあるが、2010年に米ヘリテージ財団がオバマ政権(当時)に警告し、12年に北朝鮮総参謀長が「米国を一撃で破壊することが可能な移動式の兵器システムを保有している」と発言し、注目されるようになった。
産経の記事は「クローズアップ科学」で取り上げられており、軍事的緊張との認識は限定的だが、高度30~400kmの上空で核爆発を起こすとガンマ線の影響で5万ボルトの巨大電流が発生し、送電線を伝って電子機器を破壊し、都市機能・インフラを全て破壊するとされる。1962年に北太平洋で米軍が行った核実験で、ハワイが停電となり、威力が知られるようになった。米軍やボーイングが実験を行っているが、8月10日、米政府はEMP攻撃に対しての準備演習「ブラック・スカイ」を開始すると報じられて、緊張高まりの要因になった。表面上は1859年に地球を襲った太陽フレア「キャリントンの嵐」に備えるとするが、北朝鮮が執拗にグアム攻撃を言うのは、沖合洋上で核爆弾を爆発させ、米軍基地を機能マヒにすることを狙っていると見られることにも関連していると考えられる。何処でこの脅威が表面化するか注目される。
もう一つは、相次ぐ米軍イージス艦衝突事故に中国のサイバー攻撃の影が付きまとっている点。今のところ否定され、トンデモ論の扱いだが、関連を主張する向きの根拠は、1)7月30日の内蒙古軍事パレードに人民解放軍サイバー部隊が参加、最新鋭電子戦装備(防空網レーダー、通信妨害、地上通信かく乱装置など)があった、2)両艦とも側部を衝突、極めて類似、3)マラッカ海峡のマケインの場合、衝突したタンカーを中国船籍が追尾し衝突寸前に離れている、などが指摘されている。北朝鮮もサイバー攻撃能力を持っていると考えられ、米軍が集結した場合、どういう攻撃を受けるか未知数。示威行動はあっても具体的な軍事行動に慎重な要因の一つと見られている。
日本の対策はお粗末あるいは無策と批判されているが、表面化していないだけの場合も多い。高度な電子技術戦の様相も踏まえて、注視したい。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/8/31号)
《CS》
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