【市況】中村潤一の相場スクランブル 「材料株“大回転スペクタクル相場”を追う」
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
米国株は上昇トレンドが崩壊しそうになると、その都度、粘り腰をみせて踏みとどまり切り返す、という売り方泣かせの相場を続けてきました。今回もトランプ発言に端を発した政権運営の先行き不透明感が全体相場のバランスを崩すトリガーとなりましたが、22日にNYダウは200ドル近い上昇で切り返し、強靭な足は、いまだ健在であることを誇示しています。NYダウ もナスダック指数 も日足で判断すると間違えます。高値警戒のなか薄氷を踏むような上昇波構築とはいえ、週足で明確な崩れが確認できない限り、「もうはまだなり」の相場格言を地で行く展開が続きそうです。
●トランプ相場終焉でも光る米国株の粘り腰
トランプ米大統領の政権運営に対する懸念は発足当初からありましたが、それを上回る形で斬新かつ強力な経済政策に対する期待が株式市場の上昇の糧となっていました。しかし、巨額のインフラ投資にしても大幅減税にしても、その財源をどうするのかという現実的な話となって、国境税やオバマケアの改案など俎上に載せた案件はことごとく頓挫、結果として掲げた政策は空手形となる可能性すら浮上しています。ゼロ回答ではないにせよ、議会との折り合いがつかずに“大山鳴動して鼠一匹”となった場合、果たしてこれを米株市場がどこまで織り込んでいるかは未知数です。
市場では時限立法にして経済政策の体裁を保つとの見方もありますが、いずれにしてもひと頃のトランプ相場の面影は、今の米株市場にはありません。ただ、米国企業の業績自体は思った以上に好調であることは救いでしょう。大風呂敷を広げたトランプ政策がアナウンス効果のみで実のないものだったとマーケットが気づいたとしても、それによって大勢波動を根底から揺るがすことにはならないのではないか、と考えます。既に米国は“自動運転相場”状態にあり、当面はNYダウやナスダック指数は13週移動平均線をサポートラインとした上昇トレンドを継続できるというのが、現時点での個人的な見解です。
あす(24日)から26日かけて米ワイオミング州ジャクソンホールで開催される会合にマーケットの耳目が集まっています。過去にも金融政策転換の意思表明の舞台となり為替や株式市場にも大きな影響を与えたことがあるだけに、当然ながら今回も目が離せません。イエレンFRB議長がバランスシート改善(債券再投資の停止)に9月のFOMCで踏み込むことを示唆し、3年ぶりの参加となるドラギECB総裁は来年からのECBのテーパリング(資産買い入れの縮小)に関して何らかの形で言及する可能性が意識されています。
●ジャクソンホール後の為替相場はどうなる?
イエレン氏は利上げ容認の姿勢を明確にすることに慎重なスタンスをみせることも予想され、ドラギ氏も政策変更に関する討議は秋まで見送るとの立場から言質をとられるような発言はしない方針のようですが、いずれにせよ、このジャクソンホールでの会合が為替相場に波紋を広げる可能性は小さくないと思われます。
仮にFRBが9月のFOMCで資産縮小に動くことを決定した場合、9月はもちろんのこと12月も利上げが見送られる可能性があり、一時的に為替が円高に振れることも念頭に置いておかねばなりません。1ドル=109円近辺の水準は今年4月中旬頃と一緒で、この時の日経平均株価は1万8300~1万8700円のゾーンにありました。今回の企業の四半期決算は大方の想定を上回る好調だったため、コンセンサスと比較して下駄を履いた分を考慮すれば実勢の1万9000円台前半は妥当なレベルかもしれませんが、今のドル円相場の水準では2万円大台復帰は遠いでしょう。逆に、一段の円高には注意が必要です。中期的には1ドル=110~115円の円安とみていますが、目先的にはイレギュラーで1ドル=108円絡みの動きも想定され、為替相場にリンクさせたアルゴ売買による揺さぶりに株式市場も警戒が必要となります。
地政学リスクや為替などに戦々恐々とする東京市場は海外マネー不在で主体性に乏しく、全体観として楽観視できない環境下に置かれていることは確かです。しかし、矛盾するようですが個人投資家にとって様子見を余儀なくされる地合いかといえば、それは全く違います。マクロを語っていては今の相場の本質に踏み込むことはできません。
●確変モードの「恐るべき日替わり相場」
少し見る角度を変えれば目に入ってくる風景はガラリと変わってくる、それが今の東京市場です。前回8月9日付の当コーナーで「(日銀のETF買いなどにより)全体が激流にさらされないという点では、本音の部分で個人投資家に安心感を与え、値動きの大きい材料株の回転売買を行ううえで今は“適温相場”といえる」と申しましたが、その環境が継続しています。日銀が敷いたセーフティーネットは、皮肉なことに東証1部ではなく東証2部や新興市場で効果を発揮しています。少々誇張した言い方をすれば、資金の回転は速いが、中小型材料株を中心としたスペクタクル相場が繰り広げられているのです。
今ひとたび東証2部指数をみれば、過去最高値圏に再突入している現実があり、日経ジャスダック平均も7月27日につけた高値に急接近するなど、並々ならぬ中小型株物色のニーズを反映しています。
前回の当コーナーで1本釣り候補銘柄として挙げたラピーヌ <8143> [東証2]が21日に904円までの戻り足をみせ、IMV <7760> [JQ]も今週に入り急動意、富士通コンポーネント <6719> [東証2]に至っては前日(22日)にストップ高を演じています。基本はどの銘柄も間欠泉のように噴き上げては上ヒゲを形成しますが、それで終わりではなく“確変モード”でまた買い直されるという「恐るべき日替わり相場」が演出されているのです。
●高速鉄道で森尾電に上値余地
全体指数が青空圏を舞う東証2部から注目される銘柄を絞り込んでみましょう。株価出遅れ組では森尾電機 <6647> [東証2]、高値近辺で強調展開を続ける王道銘柄ではキョウデン <6881> [東証2]が挙げられます。意外性の高い銘柄として日本和装ホールディングス <2499> [東証2]も注目されます。
まず、森尾電。テーマとしては安倍政権が注力するインフラ輸出でその中軸を担う高速鉄道関連の一角。安倍首相は9月13~15日にインドに渡りモディ首相との会談を行う方向で調整していることが伝わっています。インドは高速鉄道事業で日本の新幹線方式導入を決定しており、これについても話を進める形となり、関連銘柄への注目度が増しそうです。また、これに先立って今月30日~9月1日の日程で英国メイ首相が訪日。英国とはJR東日本 <9020> が三井物産 <8031> と連携して鉄道路線網の営業権を応札するなどの動きがあります。さらに、麻生副総理は9月上旬に訪米しペンス副大統領と会談、ここでも高速鉄道をはじめとするインフラ整備について話を進めることが予想されます。
鉄道車両は電子デバイスから機械系統までハイテク部品の塊であり、高技術力を有する日本メーカーに商機が膨らむとの思惑が浮上しそうです。そのなか、森尾電は車両用電子部品を手掛けており、面白い存在。17年4-6月期に営業損益が黒字転換、PBR0.9倍の有配企業で指標面からも割高感はありません。今年3月3日に420円の高値に買われた足の速さに注目が集まる可能性があります。
このほか参考までに高速鉄道関連として常連の東証1部銘柄では、東洋電機製造 <6505> 、近畿車輛 <7122> 、ナブテスコ <6268> 、日本精工 <6471> などが挙げられます。
●高成長続くキョウデン、意外性の日本和装
一方、キョウデンは文句なしの好業績銘柄です。米アップルの好調な業績や株価に反映されるスマートフォン向けや、データセンターや車載向けなどに旺盛な半導体需要。これを背景にプリント配線基板メーカーの業績が好調に推移しています。そのなかで車載向けの需要をしっかり取り込んで高成長を続けるキョウデンはまだPER13倍近辺に位置、ROEは12.4%と高水準。時価は10年ぶりの高値水準ですが、戻り売り圧力のない実質的な青空圏をさらに舞い上がる可能性も十分にありそうです。
また、インバウンド関連銘柄に復活の兆しが出るなか、意外性に富む日本和装もマークしておきたいところ。7月の訪日外客数は前年同月比16.8%増の268万人で昨年7月と比較して38万人以上増加し、単月としての過去ピークを大幅に更新しました。“爆買い”は鳴りを潜めても、訪日客の日本のカルチャーに関する興味は高く、建設作業着や地下足袋などが忍者を連想させるとの理由などから売れているそうです。
しかし、本流はやはり「着物」ということになるでしょう。加えて、モノ消費からコト消費への消費傾向の変化が指摘されるなか、「着付け教室」に対するニーズも今後一段と高まる可能性があり、同社株はインバウンド関連の穴株として人気化素地があります。ただし同社株の場合、上ヒゲをつけやすい銘柄であることは理解しておく必要があるでしょう。
このほか、東証2部銘柄で目先的に注目されるのがライザップ関連である堀田丸正 <8105> [東証2]とマルコ <9980> [東証2]。8月19日配信の株探トップ特集「逆風相場を圧倒する“順張り&逆張り”二刀流、超買い場『20銘柄』」の底値買い対象としても紹介しています。深追いできない投資対象ではありますが、6~7月の強烈な上げ足は記憶に新しく、個人投資家の短期資金の注目度は高いと思われます。
(8月23日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース