【特集】「建設現場に革命起こすICT自動化施工、急成長に拍車」トプコン・仲雅弘執行役員に聞く!<直撃Q&A>
仲雅弘氏(トプコン 広報・IR室長 執行役員)
将来的には建機への搭載率50%超に拡大
2020年の東京五輪開催を前にして大規模建設工事が目白押しとなるなか、土木工事の現場で最先端のIT技術を駆使して油圧ショベルやブルドーザーで自動施工する「ICT(情報通信技術)自動化施工」に注目が集まっている。そこで、この分野をリードするトプコン<7732>の広報・IR室長の仲雅弘執行役員に、このシステムの成長の背景と今後の展開について聞いた。
Q1 ICT自動化施工の概要を分かりやすく教えてください
仲 ICT自動化施工は、2000年ごろから既に米国でビジネスとしてスタートしていました。現在、国土交通省が建設現場の生産性向上を目指し、ICT技術を活用する取り組みとして推進している「アイ・コンストラクション」の中核部分の技術がこれです。まず工事が始まる前に現況測量を実施します。そのデータを基に、どういう道路の形状にするのかをCAD(コンピューターを利用して行う機械や構造物の設計・製図)で設計します。その3次元データを基に、建設機械で自動施工するというのがICT自動化施工です。最後に仕上がりをチェックする検査があって、この4工程全体がアイ・コンストラクションです。
従来の建設工事のステップは、まず、工事を請けた建設会社が発注機関から2種類の紙の図面を受け取ります。それを現場にどう展開するかというと、現場監督が測量技師を呼んできて、この図面通りに道路を造るための測量を依頼し、20メートル間隔で道路の中心に目印となる杭を打ちます。実際に土を動かして工事をするのは建機のオペレーターで、測量で得た杭に従って目視で掘削を行います。ある程度の掘削作業が終わると元の杭は飛んでしまうため、工事を全て止めてまた測量し直して次のステップに向けた杭を打って工事を行う工程を繰り返すことになります。
したがって、せっかくCADによる3次元データの設計図があっても、紙の図面を使って杭で目印を設置するアナログ的な作業にとどまっていたわけです。これでは効率も精度も上がりません。そこでこの3次元設計データを基に、3次元データをインプットしたコントローラーを建機の運転席に設置して、現場で自動稼働させるのがICT自動化施工です。建機が3Dプリンターのように作動することになるわけです。なお、3次元データの扱いに不慣れな現場オペレーターのためにトレーニングセンターも3カ所開設し研修を積極化しています。
また、我々が販売している高精度GPS(全地球測位システム)受信機を建機に搭載した場合の精度の誤差は1センチメートル程度で、これが差別化の大きなポイントです。この技術水準には現状世界で3社しか到達しておらず、日本では唯一当社がその技術を保有しています。
Q2 ICT自動化施工のメリットを具体的にお話しください
仲 工事の種類や規模によってもさまざまですが、施工期間が30~50%程度と大幅に短縮されます。それとともに、ここにきて熟練の建機オペレーター減少に拍車が掛かるなか、そう簡単に技術者を育成できるものではありません。また、高度な技術力を持つ熟練オペレーターの給料は極めて高額となっているのが実情です。このICT自動化施工の仕組みがあれば、建機の免許を取得したてで、スタートやストップができる程度の初心者でもかなり高精度な施工が可能となります。つまり、工期短縮、労働賃金の低減の両面でコストの大幅な削減が見込めます。道路、ダム、宅地造成、空港といった土を大量に動かす比較的大規模な土木工事の現場で最も効果を発揮します。
Q3 ICT自動化施工の今後の成長の見通しはいかがでしょう
仲 これまでは、米国や欧州向けが主でしたが、今年から日本でアイ・コンストラクションが本格スタートしたことで、一種のブームのようになっています。今後は国内向けの需要拡大が予想され、先進国の中では成長余地は一番大きいと思います。政府の成長戦略の新たな司令塔となる「未来投資会議」(議長・安倍晋三首相)で、安倍首相は建設現場の生産性革命を進めるよう指示し、建設現場の生産性向上策「アイ・コンストラクション」を推進。現場の生産性を25年度までに20%向上を目指すと表明しています。また、3年以内に、ICTを活用する工種・工程の拡大や、3次元データのオープン化なども打ち出しています。
現在は代理店を通して、建設会社向けに建機を改造して後付けするタイプのシステムを主力に販売していますが、今後は建機メーカー向けのOEM(相手先ブランドによる生産)が急速に拡大する見通しです。17年3月期の通期売上高で560億円を見込んでいるポジショニングカンパニー売上の大半は、ICT自動化施工とトラクター自動化のIT農業事業で占められています。また、世界レベルで現在、建機のICT自動化施工システムの搭載率は15%程度と推定されますが、今後10~20年後にはそれが50%にまで高まることが予想されています。とくに、OEM供給が本格化してくると成長に一段と拍車が掛かることになりそうです。
(聞き手・冨田康夫)
<プロフィール>(なか・まさひろ)
トプコン 執行役員 広報・IR室長。営業部門を経て2007年から広報・IR部門を担当。国内外の機関投資家とのエンゲージメントを積極的に展開すると共に、メディアとの対話にも注力している。
出所:株経ONLINE(株式会社みんかぶ)