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【市況】【フィスコ・コラム】カザフスタンへの投資はいかがですか?


先日、東京都内で開かれた投資家向けセミナーで、米国のある著名投資家が来年の有望な投資先として、イランやコロンビアに並んでカザフスタンを挙げていました。その理由を質問するチャンスがなかったのですが、投資対象としては政治リスクが大きすぎると思われます。


カザフスタンは1991年12月に旧ソ連から独立した後、市場経済に移行しました。2000年以降は石油輸出を柱に年10%前後の高成長を遂げ、中央アジアでは屈指の資源大国となりました。リーマン・ショック以降は成長が鈍化したものの、その後は回復基調となり、資源依存からの脱却や産業の多角化を目指してきました。しかし、原油価格の下落や主要貿易相手国である中国とロシアの景気減速の影響で経済は再び停滞に向かい、2016年はマイナス成長が見込まれています。


国際金融市場でカザフスタンが注目されたのは、2015年8月の変動相場制の移行の時でしょう。通貨テンゲはそれまで1ドル185テンゲで固定されていたのですが、ドルペッグ制を維持するコストに耐え切れなくなり、この時にテンゲを実質切り下げています。その後も原油安を背景にテンゲの下落は続き、2016年1月には一時390テンゲ付近まで下落しました。


11月30日の石油輸出国機構(OPEC)加盟国の減産合意により原油価格は持ち直し、テンゲは足元では330-350テンゲ付近で落ち着いていますが、再び原油安に振れれば通貨に下方圧力がかかるかもしれません。また、「国際競争力ランキング」(世界経済フォーラム)によると、カザフスタンは2015年に140カ国中42位に躍進したものの、2016年は53位に後退するなど、投資環境は必ずしも改善していないようです。


投資対象として危惧されるのは、強大な権力が1人の高齢な指導者に集中している点です。同国では2007年にナザルバエフ大統領を終身大統領とする決議案が圧倒的多数で可決されています。憲法改正で3選禁止を決議しながら同氏は「創始者」のため適用されませんでした。また、同大統領が任期延長法案を拒否して前倒し実施した2015年4月の大統領選では、対立候補の1人がナザルバエフ氏に投票するなどコメディのネタのようなプロセスを経て、同大統領は4選を果たしました。



カザフスタンはとりわけ経済的にロシアへの依存度が高いのですが、ロシアによるクリミア併合問題は、旧ソ連邦諸国の親ロシア路線を再考させるきっかけとなった可能性があります。最近ではロシア中心の関税同盟はカザフスタン経済にメリットが乏しいとの不満も高まっており、国際的に孤立を深めるロシアと従来通りに政治や経済のつながりを維持するべきか悩ましい問題となっているようです。


こうしたなか、ナザルバエフ大統領は12月1日に行われたトランプ米次期大統領との電話会談で、中央アジアの安定に関しても意見交換したと伝えられています。ただ、カザフスタンは領土拡大を狙うロシアの潜在的ターゲットとの観測もあり、ナザルバエフ政権が親米路線に転換した場合には大きな波乱要因となりそうです。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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