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【特集】「2017年、AI投資の新たな潮流が来る!」 <トレンドを読む>


 米大統領選の結果を受け、世界の株式市場は“トランプラリー”と称される思惑先行の上昇が続いている。しかし、これによって恩恵を受けている日本の個人投資家は極めて少ないのが実情だ。それどころか、日銀の調査では日本の個人金融資産約1746兆円のうち、半数を上回る52.7%が現金・預金で占められ、欧米諸国などと比較してもその比率は高く、依然として日本人の株式投資を含めた資産運用への抵抗感は根強いものがある。こうした個人の“投資アレルギー”解消に一石を投じる可能性のある新商品として注目を集めているのがAI(人工知能)を活用した投資信託だ。

●“貯蓄から投資へ”の促進は、投資信託への不満解消が有効

 政府はNISA(少額投資非課税制度)を導入するなど、“貯蓄から投資へ”の方針を掲げ、株式投資促進に取り組んでいる。しかし、必ずしも効果をあげているとは言えないのが実情だ。その典型例ともいえるのが、本来は個人の投資入門編ともいえる投資信託への関心が盛り上がりに欠けている点だ。

 これは、従来の証券会社主導の投資信託に対して、個人が必ずしも満足していないことが背景にある。16年1月に、一般社団法人・投資信託協会が、「投資信託に関するアンケート調査結果」(20歳以上の男女個人を対象に、2700人“回収数1523”に対しアンケート調査を実施)を発表した。それによると、他の金融商品と比較して、投資信託の不満に感じる点(重複回答)は、「元本保証がない」が61.6%で最も高く他を大きく上回り、以下「手数料が高い」(43.1%)、「仕組みや運用実績がわかりにくい」(37.1%)となっている。

●市場の規則性をAI活用で解析しパフォーマンスを高める

 本来は、中長期保有を前提とした資産形成が目的であるはずの投資信託が、販売会社主導の手数料収入獲得を目的とした回転売買などの対象となっているケースがあることに、個人が不満を抱いているようだ。そこで、近年注目を集めているのが、中期的な投資視点から低コストの手数料で資産形成をサポーするAI運用モデルとビッグデータを活用した新たな投資信託だ。

 株価推移自体は、「ランダムウォーク」であり、一定のパターンは存在しないことが分かっている。しかし、(1)株価が強く上昇する局面では売買代金が膨らみ、反対に下落局面では、売買代金は減少する、(2)1年間の前半と後半では、前半(1-6月)の方が上昇の確率が高い、(3)個別銘柄には季節性で同じパターンを繰り返す銘柄がある――といった規則性をAIで解析することにより、上昇や下落の確率を50%から、50%プラスアルファに引き上げることは可能だという。

●ビッグデータの膨大な蓄積と処理スピードアップが背景

 AIが投資に積極活用されるようになった背景には、 ビッグデータを貯蔵する技術が急速に向上したことや、非常に廉価でデータを蓄積できるようになったことがある。例えば1981年と現在のコストを比較すると、300万分の1、2000年に比べても100分の1のコストでデータの備蓄が可能になった。これに伴い、ほとんど無限のストレージ(記憶装置)が出現したといえる。あわせてデータを処理するスピードや、画像を認識する技術なども向上し、こうした条件が整ったことで、AIを積極的に活用した投資が可能となったわけだ。

 大量のビッグデータを高速で処理することが可能となり、従来から“市場のクセ(アノマリー)”として認識されていた市場における源泉を、より精緻に分析し、捉えることが可能となった。アクティブ運用をはじめ、従来型の手法による運用成績がグローバル的にも低迷するなか、一部大手ヘッジファンドを含む運用会社でも、AI、ビッグデータを活用したものに急速にシフトしている。将来的には、ロボットアドバイザーが、生損保の保険料、税金支払い、日々のショッピング動向などを把握し、老後のライフスタイル情報も勘案して、その個人に最適なアセットアロケーションを組み、個人資産の管理を自動的に行っていく可能性もある。

●規則性が確認された領域でAIを用いて予測

 将棋や囲碁とは異なり、明確なルールの存在しない株価動向を直接予測するのは難しい。ただ、規則性がない「ランダムウォーク」である株価を直接予測しようと試みるのではなく、規則性が確認された領域でAIを用いて予測することは可能だ。そして、この精度を上げるためには、ビッグデータの質の向上が欠かせない。AI化投資を成功に導くためには、(1)質の高いビッグデータ、(2)スーパーコンピューター、(3)高度な人工知能アルゴリズム――の3要素が必要だ。

●AI投資が2017年資産運用の大きなトレンドに

 すでに海外では、「ツーシグマ」や「D.E.Shaw」など、AIを武器にして多くの資金を集めることに成功しているファンドが出現している。2016年には、日本でも「ロボアドバイザー」、「AI運用投信」などさまざまな呼び方で、AIを活用した投資商品が相次いで登場してきている。ブレグジッド(英国のEU離脱)や、トランプショックなど不測の事態が頻発する目まぐるしい市場環境のなか、これまでの経験値だけで成功を収めるのは極めて困難な時代となってきた。今後は、日進月歩のAIの精度向上とともに「AI投資」が個人投資家からさらなる注目を集めることは確実で、2017年の個人資産運用の大きなトレンドとなるかもしれない。

(株経ONLINE編集長 冨田康夫)

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