市場ニュース

戻る
 

【市況】中村潤一の相場スクランブル 「海外マネー再上陸で騰がる株」

株経ONLINE 副編集長 中村潤一

株経ONLINE 副編集長 中村潤一

●外国人の日本株再攻勢が始まった

 債券から株式へのグレートローテーションが始まっています。東京株式市場でも海外マネーの再上陸によりその風景は一変しました。外国人投資家は11月第2週(7-11日)に現物で4007億円、先物で2226億円、合計で6230億円強を買い越し、第3週(14-18日)には同じく現物で4903億円、先物では何と6904億円の買い越しを記録、現先合計では1兆1800億円強に達しました。前週(21-25日)のデータについては現時点では分かりませんが、地合いから類推する限りはやはり大幅に買い越している可能性が高そうです。

 11月第2週というのはいうまでもなく、11月8日に米大統領選挙というビッグイベントが行われた週です。日本時間9日の米大統領選の結果が判明した直後の段階(実際には大勢が決した時点)では海外ファンド勘定であるアルゴリズム取引でこれでもかという売りの洗礼を浴びたわけですから、週間ベースで現先合わせて6000億円以上の買い越しとなったということは、週後半にその「総売り叩きモード」を根こそぎひっくり返す強烈な物色資金が海外から流入したことを示唆しています。翌週の11月14-18日は、外国人は躊躇することなく日本株に“かぶりつき状態”で一気に買い上がる格好となりました。

●リスクオンの象徴、円安がもたらす上昇旋風

 では、この間に為替はどう動いたのでしょうか。リスクオンの象徴であるドル高・円安は日本株にとっても最強の上昇エンジンであることに変わりありません。

 運命の11月8日(日本時間では9日)にドル円相場は、ブローカー気配値レートで1ドル=101円台攻防の水準まで過激な円高が進行し、終値(翌朝7時前の時点)では105円70銭近辺で着地するという乱高下。俗に言う“往って来い”で実に4円40~60銭幅の激動をみせました。さらに11月中旬以降は日々円安が進み、11月14日に108円台半ば、15日に109円台前半、そして18日に111円台目前とドル買い円売りの流れは続きました。直近25日には1ドル=113円90銭近辺と114円台をうかがう円安水準に達し、そこがとりあえず目先の安値となっています。

 仮にこのまま、昨年につけた円の最安値水準である1ドル=125~126円水準まで円安が進行するなら、それは日本株にとっても“神風”となり得ます。しかし、あえて警鐘を鳴らせば、足もとはやや半身に構えておくことが必要かと思います。

●トランプ理想買いの“前倒し調整懸念”も大局は買い

 ドルの実効レートの上昇は著しく、「1995年以来で最もドルの実効レートが高かったのは米ITバブルの余韻冷めやらぬ2002年1月であり、直近はそのレベルに急接近している状態」(国内生保系エコノミスト)との指摘も聞かれます。米製造業を敵に回さないためにトランプ次期米大統領のドル高牽制発言が早晩出てくるとの見方が、市場の一部では強まっているようです。ドルの実効レートを跳ね上げている張本人は“人民元安”ですが、ドル高牽制に動けば、ドル円相場の動向にも少なからぬ影響を与えることは避けられず、円高へのトレンド転換には至らないまでも円安進行に歯止めがかかる可能性が大きそうです。11月第4週は外国人の大幅買い越しが続いている公算が大きいと申しましたが、今週(第5週)についてはOPEC総会や米雇用統計などを控え、全体の売買動向を見る限り海外マネーも様子見に転じている感触です。

 もっとも大局的には、仮に来年1月のトランプ新大統領就任を待たずに日米株式が前倒し的に調整局面に移行した場合でも、それは冒頭に記したグレートローテーションのプロセスにおいて小休止に過ぎないとみています。したがって、そこは臆することなく押し目買いで対処すべきと考えます。今の上昇相場は円安と外国人買いがセットになっており、これはアベノミクス相場の初動である2012年12月のロケットスタートを彷彿とさせる動きです。現時点ではトランプノミクスに対する理想買いの域を出ないとしても、少々行き過ぎに買われてそのまま燃え尽きる線香花火のような物色で終わることはないでしょう。

●メガバンクと半導体は「買わざるリスク」第2ステージへ

 例えば足もとの動きは鈍いものの、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> などのメガバンクは、最近までポジションを落としていた外国人投資家に対し、PBRの低さと配当利回りの高さが、改めて買わざるリスクを煽る局面が想定されます。また、見落とされがちですが、野村ホールディングス <8604> や大和証券グループ本社 <8601> をはじめとした証券株はアベノミクス相場では最大の株価変貌を遂げたセクターであり、今はまだ出遅れ感があるものの、銀行株と歩調を合わせて次第に頭角を現してくることになりそうです。

 切り口は変わりますが、3次元NAND型メモリーの普及加速を背景に半導体関連も依然として先高期待が強い。東芝 <6502> が7月末に64層3次元NANDのサンプル出荷を世界に先駆けてスタートさせ、マーケットの注目を集めましたが、近い将来に3次元NANDは100層レベルまで進化する余地が指摘されています。韓国サムスンは来春にかけて2兆数千億円規模の巨額資金を投入して3次元NANDの増産に取り組む方針で、同分野は今後開発競争のステージとなりそうです。したがって、半導体関連は当面上値の可能性が意識され続けることになるでしょう。

 ここまで東京エレクトロン <8035> や日立国際電気 <6756> などの半導体製造装置関連が先駆して買われていましたが、SUMCO <3436> やルネサスエレクトロニクス <6723> など本丸銘柄も大出直り相場に突入、関東電化工業 <4047> やトレックス・セミコンダクター <6616> [東証2]などの周辺銘柄にも出遅れ物色の矛先が向いています。

●パワーアップ開花のAI関連が年末年始彩る

 このほかテーマ株としては、ここにきて再び人工知能(AI)関連に活気が戻ってきています。それもそのはず、最近の新聞などメディア全般をみればまさにAI花盛り。官民を挙げて幅広い分野でAIの活用や研究開発が進捗しています。また個別にみても、業態を問わず、さまざまな企業からAIをキーワードとしたリリース開示が相次ぐようになり、テーマ物色に厚みが加わる背景となっています。

 最近の例では、パナソニック <6752> の米IBMとの住宅分野でのAI提携や、デンソー <6902> と東芝 <6502> の画像認識システム向けAI技術の共同開発、創薬分野でも武田薬品工業 <4502> や富士フイルムホールディングス <4901> など50社が一堂に会して創薬用AIの開発で協業体制を敷くなどの動きが出ています。

 また、直近では富士通 <6702> がAI技術を活用した「画像認識」や「音声テキスト化」など7種類の機能や「需要予測」などのサービス提供を17年4月から開始するほか、AIの中核技術であるディープラーニングの計算を高速で行う半導体開発に踏み込むことを発表、マーケットの関心を引き寄せています。

●台風の目はソフトバンク、巨大ファンドにも注目

 これらに先立ち、ITの大御所ソフトバンクグループ <9984> はサウジアラビアの政府系ファンド「PIF」などと共同で最大1000億ドル規模のテクノロジー分野に投資する巨大投資ファンドの設立を発表していますが、これもターゲットの中心軸はAI分野。みずほ銀行とはAIを活用した個人向け融資事業に来春から展開する計画にあり、今後もソフトバンクは同分野における台風の目となりそうです。

 同テーマにおける関連銘柄としてマークしたいのは、引き続きメタップス <6172> [東証M]やロゼッタ <6182> [東証M]のほか、サイオステクノロジー <3744> [東証2]、アストマックス <7162> [JQ]、FRONTEO <2158> [東証M]、カドカワ <9468> 、ブレインパッド <3655> 、ロックオン <3690> [東証M]、データセクション <3905> [東証M]などが挙げられます。

(11月30日記、隔週水曜日掲載)

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均