市場ニュース

戻る
 

【特集】インバウンド株総崩れだが…ホテル株「逆張り」戦略は有効か? <株探トップ特集>

藤田観 <日足> 「株探」多機能チャートより

―「爆買い」終了も訪日客数は増加中、ならば連れ安ホテル株という選択肢―

 爆買い終了。日本経済を支えてきたインバウンド消費の陰りが鮮明になるなか、関連銘柄の株価は下落しているものも多い。中国経済の先行き懸念を背景に、高額消費の波が沈静化しているのは事実だが、一方で訪日客はいまだ増加の一途をたどっている。インバウンド関連というだけで、一緒くたに売られた感もある ホテル株だが、円高加速という重石はあるものの、そろり見直し買いの機運も漂う。

●爆買い終了ショック

 インバウンド消費の減速が鮮明となったのが、5月20日に発表された日本百貨店協会の「4月の全国百貨店売上高概況」だった。「訪日外国人動向は購買客数7.8%増(約26万人)と39ヵ月連続で前年を確保したものの、中国の輸入関税引き上げなどを背景に、売上高は9.3%減(179億円)と2013年1月以来39ヵ月ぶりのマイナスに終わった」と発表。いわゆる“爆買い”の変調については、既に指摘されていたが、それが高額品を扱う百貨店の売り上げを通して如実に表れた格好だった。

 市場関係者の間でもインバウンド関連銘柄に対するシビアな見方が出ている。「訪日外国人客は増勢を維持しているとはいえ、ひところのような勢いはない。これは政策的なフォローに問題はないものの、為替が円高に振れていることがネガティブ材料。消費に反映される金額は、円高進行により円換算ベースで純粋に目減りしている部分と、訪日客にすればドルベースもしくは自国通貨価値の減価が消費意欲を衰えさせる要因になる」(国内ネット証券)と指摘する。

インバウンド関連の位置づけでツレ安、しかし…

 三越伊勢丹ホールディングス <3099> 、ラオックス <8202> [東証2]を中核とする一連のインバウンド消費は、円高基調への転換もあって昨年夏ごろから既に変調を見せており、つれて株価も下降局面をたどっている。インバウンド関連の一角を占めるホテル株の値動きも例外ではない。とはいえ、藤田観光 <9722> や共立メンテナンス <9616> といった業績好調が継続している企業も少なくないだけに、円高加速に加え、「ただインバウンド関連」というだけで売られているという側面も垣間見える。昨年までは錦の御旗といえた「インバウンド関連」、それがいまや株価に仇なすことになっている。

 日本政府観光局(JNTO)は17日、7月の訪日外国人客数を発表。前年同月比19.7%増の229万7000人となり、7月として過去最高の水準となった。中国と香港からの訪日客数は単月として過去最高を記録した。なかでも、中国は前年同月比26.8%増の73万1000人と、単月で初めて70万人を超えた。熊本地震の影響が懸念された韓国は同30.0%増の44万7000人と好調。全体として伸び率は鈍化しているとはいえ、依然訪日意欲は衰えていないことがうかがえる。

 こうしたなか、「(これ以上の円高加速は懸念材料だが)インバウンドもモノ消費からコト消費に形態が変化するなかで、宿泊関連は今後も一定の需要が見込める」といい、「特にビジネスホテル関連は訪日客が財布の紐を締める場合に、高価格帯の宿泊施設からの需要シフトも想定される」(中堅証券営業)という構造的な優位性を指摘する声もある。

●カギは差別化と付加価値

 ホテル各社も、当然のことながらこのインバウンド消費を、いかに取り込むか腐心している。

 「ワシントンホテル」や「ホテルグレイスリー」を全国展開する藤田観光では、訪日客向けウェブサイトの利便性を高めるため「11月末をメドに刷新を進めている」(広報部)とし、さらなる予約増加につなげる方針だ。「訪日客の伸び率は鈍化しているとはいえ、依然増加を続けていることから、2020年の東京五輪に向けて追い風は続くとみている。訪日客の目的も買い物中心から“体験型”に移行しており、コンシェルジュサービスの配置など、付加価値を加えることで差別化を図り、結果として単価の上昇へつなげたいと思っている」(同)と、攻勢を掛ける構えだ。なお8日の取引終了後、同社は16年12月期の連結業績見通しについて、売上高を700億円から695億円(前期比8.6%増)へ下方修正した一方、営業利益を10億円から18億円(同46.2倍)へ、純利益を3億円から5億円(同15.6倍)へ上方修正した。

 「ドーミーイン」ブランドのビジネスホテルで展開急の共立メンテからも目が離せない。同社は9日取引終了後、17年3月期の第1四半期(4-6月)連結決算を発表。売上高は324億4200万円(前年同期比12.9%増)、営業利益は24億7200万円(同33.3%増)、最終利益は12億400万円(同27.5%増)と好調の波が続く。ドーミーイン(ビジネスホテル)事業、リゾートホテル事業が共に、堅調な国内旅行者に加え、インバウンド需要が前期を上回って増加を続け、高稼働、高客室単価で推移。株価は、7月8日に年初来安値6210円を付けた後、7000円近辺でもみ合う展開となっている。

 また、スポーツクラブの東祥 <8920> は名古屋市など地元愛知県を中心にビジネスホテルも運営しており、リニア新幹線関連、東京五輪に向けたスポーツ関連の一角という切り口でも面白い存在といえる。そのほか、出店攻勢をかけるユニゾホールディングス <3258> 、高級ホテルの横浜ベイシェラトン、ビジネスホテル相鉄フレッサイン、サンルートなどホテル事業を展開する相鉄ホールディングス <9003> なども折に触れて注目を集める可能性がある

●為替が中期円安トレンドを取り戻せば…

 「正直なところ、現在の円高は心配ではないといえば嘘になる」とホテル業界関係者。ただ「いまのところ訪日客は減少しているわけではないので、過剰に不安視していない。リピーター客の重要性を認識しており、日本を訪れたお客様には丁寧な対応と新味あるさまざまなサービスをおこなっていきたい」という。

 日米金利差拡大から為替が中期円安トレンドを取り戻せば、政策的な後押しを背景に、再びインバウンド需要の歯車が順回転を始める可能性もある。それだけに投資戦略として、今は音なしの状況にあるビジネスホテル関連を逆張りで対処することは、十分に妙味がありそうだ。


株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均