【市況】中村潤一の相場スクランブル 「ソロス VS ヘリコプターマネー」
株式経済新聞 副編集長 中村潤一
株式経済新聞 副編集長 中村潤一
●再びうごめくヘッジファンド
“5月の嵐”は回避できたものの、6月相場入りとともに東京株式市場はリスクオフの潮流に飲まれる格好となりました。前回当コラムで6月は用心が必要と述べました。とはいえ、これほどの売り圧力は想定できていなかったのも事実です。「英国のEU離脱懸念」が視界に入っていなかったわけではないのですが、これがにわかに現実味を帯び、世界株安連鎖の引き金となったのは想定外でした。
ここまでの6月相場を振り返ると日経平均株価は1日と2日に連日の大幅安で計670円強の下落、その後いったんはバランスを立て直したものの、前週末6月9日から前日14日までの4営業日で970円強の下落と、急勾配の坂道を転がるような下げを演じました。特に週明け13日は東証1部全体の97%の銘柄が下落するという稀にみる一方通行の売り。市場関係者の間では外資系によるTOPIX型の先物売りが観測されていましたが、それにしても…という印象を受けます。
再び世界のマクロ指標にリンクして機動的投資を行うグローバル・マクロやCTAによる高速自動売買(=HFT)の影がちらついています。市場エネルギーの低迷が際立つ東京市場も例外ではありません。
また、14日は新興市場にも売りの洗礼が及び、東証マザーズ指数は115ポイント安と10%に及ぶ暴落で一気に1000の大台割れをみるなど、驚愕に値する下げとなりました。5月中旬以降、相場全体の潮目が変わってきていることについては触れてきましたが、循環物色が利いていたフィンテックや自動運転、バイオ、人工知能といった強力テーマ株も総崩れ状態で、高値圏で位置エネルギーが溜まった銘柄の崩落場面は、いかなる買いの根拠も押し流してしまう、落ち着くまでは手出し無用ということを痛感させられます。
●英国EU離脱のインパクト
大勢トレンドが下値を指向している時、反騰相場に向かうために必要なものは何でしょうか。「好材料の出現」ではありません。リバウンドの足場となるのは、下げの背景にある「悪材料に対する抗体」なのです。分かりやすく言えば、その悪材料をネタに売り方が仕掛けられないと感じるくらいに市場で認知が進み、こなれてきた段階。こうなれば黙っていても相場は買い戻されて浮上することになります。
では、にわかにクローズアップされてきた英国のEU離脱懸念についてはどうでしょう。以前から指摘されていたこととはいえ、欧州を中心に世界を俯瞰しても現在の株式市場に抗体が組成されているようにはみえません。23日の国民投票の結果を見極めないことには、見切り発車で買い向かうのは勇気ではなく蛮勇と呼ぶべきものです。また、売り方にとってはそれが分かっているからこそ、国民投票までは揺さぶり放題、買い戻しては売り崩すという“打ち出の小槌モード”にあるのです。今しばらくは売り方が支配するハイボラティリティ相場の時間帯といえます。
仮に英国のEU離脱が現実化した場合、もともとユーロの通貨統合から外れていることもあり中期的に見た場合は金融経済へのダメージはそれほど大きいとは思えません。ただ、短期的にはポンド安に伴う波乱で、結果的に投機筋による円買いの動きが加速することが想定され、一度は逃げ切ったかにみられた1ドル=100円割れが現実化する可能性も高い。当然、ここ10年にわたって為替と完全リンクした東京市場はその影響を免れないでしょう。いずれにしても地に足がついた投資を考えるなら、この重要スケジュールが通過した後ということになります。
●ヘリコプターマネーとソロスの真意
世界的な長期金利の低下はまさに異常です。直近はドイツですら長期金利がマイナスになりましたが、緩和に緩和を重ねてダムから溢れでた資金はひたすら安全資産である債券に流れる傾向にあります。市場で話題となっている「ヘリコプターマネー」は、その定義が未だ定まっていない感もありますが、中央銀行による資金供給が加速している現状は実質的に上空から紙幣が舞い降りているような環境といってもよいと思われます。これが市中に流れず需要の喚起につながらないのは由々しき状況ながら、超緩和環境にあって、リーマン級の危機がすぐに襲ってくるとも考えにくく、金融市場経由でいきなり断崖絶壁に遭遇するようなことは現実的に起こらないと考えています。米国のみが獅子奮迅しても利上げの余地は限られており、グローバルでみて過剰流動性は担保されそうです。
しかし、実体経済面では中国の経済停滞の根が深いことが次第に明らかとなってきました。かつてポンド売りで名を馳せたジョージ・ソロス氏の“ゴールド買い中国売り”のココロは、投資主導で大きくなりすぎてしまった中国経済の景気減速局面での不良債権化リスクということだと思います。先進国経済にとってサブプライムローンのような“同時感染”はなくても、中国という爆食経済の需要の落ち込みは世界的に実体経済への大きなデメリットをもたらせる可能性が否定できません。現時点で株式市場をマッピングすれば、ヘリコプターマネー効果で中期買い有利、ただし長期(超長期)スタンスの保有は回避すべきというのが率直な印象です。
●ソニーの強さ光る、バイオではペプドリ
23日の結果にもよりますが、個別の注目銘柄としてマークしたいのは、主力どころではソニー <6758> 。世界最大のゲーム見本市「E3」開幕による株価刺激効果もありますが、センサーや映画・音楽コンテンツの充実、金融への展開力と強みを多く持っており、世界の視線が変わってきているようにも見えます。熊本地震の影響を織り込みながらの強調展開は注目すべきでしょう。
このほか、日本を代表する重電メーカーとして、PBR0.8倍で底値圏にある日立製作所 <6501> も買い場と判断しています。
バイオ関連では週足チャートの崩れていないペプチドリーム <4587> 。再生医療関連では大日住薬と資本関係のあるヘリオス <4593> [東証M]、サンバイオ <4592> [東証M]の押し目をマークしておきたいところです。
(6月15日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース