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【特集】井上哲男のストラテージ・アイ・スペシャル(1) <新春特集>

井上哲男(スプリングキャピタル 代表兼チーフ・アナリスト)

「アルゴができないことを」(前編)

スプリングキャピタル 代表兼チーフ・アナリスト 井上哲男

●正常化した中国市場の需給

 2015年の相場を振り返ると、夏場のチャイナ・ショックがやはり印象に残っている。連日の急落は、「中国景気の減速懸念」のひとことで解説されたが、需給論者としては別の角度から見ていた。

 中国株が上昇し始めたのが2014年の7月。それは、中国の不動産価格が下落し始めた時期と一致する。二軒目以降の住宅投資に対する規制の動きが強まり、不動産でのキャピタル・ゲイン獲得が難しくなってきたと考えた資金が流入したからである。両者がスパイラル的に上昇した80年代後半の日本の資産バブルとはこの点が決定的に違う。

 中国全土の株式売買代金は、統計を取り始めてから2014年の7月までは、概ね日本円にして5兆円以内であったが、それが急速に膨れ上がり、たった10ヵ月程度で40兆円を超えるようになった。指数の上昇により中国株式の時価総額は日本の1.5倍になったが、それでも売買代金が15倍~20倍というのはあまりにも大きい。そして、この売買代金を支えたのが信用取引であったといえる。中国全土の信用買い残金額は、2014年7月時点で8兆円程度であったものが、2015年5月末、6月末には40兆円を超える規模にまで同じく膨れ上がった。

 日本における信用取引は当然、証券会社を通じて行うが、中国の場合はメジャーな20程度の証券会社以外にも信用取引の資金を貸し出す、つまり、信用買い専門の貸し金業社である「場外配資」という会社が存在している。証券会社で信用取引を行うには、日本円にして1000万円程度の有価証券を保有していなくてはいけないため、それに満たない投資家は証券会社よりも高い金利が要求されるこの「場外配資」を利用したのである。この場外配資を営む会社は中国全土に3000以上存在すると言われている。

 この場外配資を利用していた投資家にも、当然、“追い証”と同じものが発生し、手仕舞いにより損失を確定しなくてはならないこととなり、また、新規に場外配資会社で口座を設定することが事実上禁止されたため、信用の買い残金額は20兆円割れ水準にまで減少し、その後は20兆円~25兆円のレンジで推移している。これは、もう“逃げない資金”である。言い換えれば、“信用取引を行うに資する”投資家の資金のみが残っている。

 このような経緯を経て、現段階で中国株式市場の需給は正常な状態に戻り、落ち着きを取り戻したと考えている。日経平均株価は12月1日に2万円を奪回した後に下落し、12月28日までの下落率は5.7%となっているが、同期間に上海総合指数は2.2%上昇していることがその証左である。

●アルゴリズムと戦う投資家

 セミナーを行うと、「今年(2015年)は荒れた」という声をよく個人投資家から聞く。確かに、日中のボラティリティ(変動性)、前日比の大きさなど、個人投資家、特にディール的な売買を好む投資家には厳しい年であったかもしれない。しかし、それも需給によるもの。今年は商品先物系ファンド(CTA)の先物市場における動きが日本市場を席巻した。ボラティリティが上昇した日の先物手口を見ると、売り、買いともにCTAが発注していると言われる外資系証券会社1社で4割程度を占める日が続いた。また、イブニング・セッションにおいてはこの比率がさらに跳ね上がる状態となった。

 投資家が相手にしているのは、ヒトではなく、アルゴリズムなのである。これでは日中のディールで勝つことは厳しい。

 現物であれば「高頻度取引」、先物であれば「CTA」が暴れまくる今の状態は2016年も続くと思われる。それではどのようにしたら良いのか? それは、「機械ができないことをやる」に尽きる。「1日に100回、買いと売りを入れて結果的にポジションをゼロにする」というルールであれば、高頻度取引にもCTAにも勝てる可能性はないだろう。ただし、アルゴリズムは、「3日後に指数が今よりも上昇しているか? 1ヵ月後はどうか?」という、方向性の予想はしないのである。ヒトはその予想に注力すれば良いのだ。

※「井上哲男のストラテージ・アイ・スペシャル(2)」に続く

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