決算発表シーズン前に総点検、マクロ指標の「波動」で浮かぶ投資戦略 <株探トップ特集>
―日本株の乱高下局面は収束なるか、日銀短観が示す景気サイクルは上向き継続へ―
日経平均株価はおよそ3ヵ月ぶりに4万円の大台に乗せたかと思えば、オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディング<ASML>の決算を受けてショック安に見舞われるなど、相変わらず折に触れて乱高下を続けている。中東情勢などの地政学的リスク、米国の大統領選挙、日本の衆院選といった政治リスクなど、相場を急変させる材料には事欠かず、ボラティリィティがある程度高いのは止むを得ない。それでも日経平均は8月に大荒れとなったところから、少しずつ値を戻している。
●米国債増発→ドル高・円安のシナリオに現実味
その背景として挙げられるのが、米株高と円安、そして中国だろう。9月17~18日に実施された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)が4年半ぶりに利下げを実施した。利下げのタイミングが遅れたのではないかと懸念する市場参加者に配慮してか、誘導目標金利の下げ幅を0.25%でなく0.5%とした。その後、米株式市場では、主要な株価指数が再び史上最高値を更新している。米大手メディアCNNの「恐怖と強欲の指数(Fear & Greed Index)」は、一時的にExtreme Greed(超強欲)に傾いた。米国市場の投資家心理を反映し、東京市場も落ち着きを取り戻しつつあるのかもしれない。
米長期金利はFRBの利下げを催促するように低下していたが、足もとでは再び4%台に戻している。その要因として挙げられるのが、米国債が大量に発行されるとの観測だ。米シンクタンクである「責任ある連邦予算委員会」は10月7日、11月5日の米大統領選挙でトランプ前大統領が再選した場合、2026年から35年までに債務が7.5兆ドル増加する可能性があるとの分析を示した。ハリス副大統領が当選した場合は3.5兆ドルの増加としている。どちらにしても、これらは米国債の増発によって賄われることが予想され、米金利とドルの押し上げ要因となり、日本株を支える材料といえる。
中国の景気刺激策も無視はできない。不動産不況や、米国が同盟国に働きかける輸出規制の影響に苛(さいな)まれてきた中国政府は、実質的な政策金利の引き下げ、銀行への資本注入を視野に入れた特別国債の発行案、揚げ句には住宅市場のテコ入れや株価対策に至るまで、なりふり構わない大胆な景気刺激策を打ち出している。隣国である日本の経済はその恩恵を受けやすく、株価には追い風となりそうだ。
●日銀短観には「癖」も存在
こうした状況を踏まえ、日本銀行の全国企業短期経済観測調査(短観)の9月調査に視線を移してみる。最も注目度が高い業況判断DIは、「最近」(回答時点)と「先行き」(今後3ヵ月の見通し)の「収益を中心とした業況全般」について、「良い」「さほど良くない」「悪い」の3つの選択肢から回答を選んでもらう方式となっている。この「良い」と感じている割合から「悪い」と感じている割合を引いて数値化することで景況を判断する。業況判断DIにおける大企業・製造業の結果は、景気循環を明確に示してくれることでも知られている。
コロナ・ショック後では、大企業・製造業の業況判断DI(「最近」ベース)は20年6月のマイナス34を底に、33ヵ月(2年9ヵ月)にわたる波を形成した後、23年3月のプラス1を底に再び上昇基調をたどっている。リーマン・ショックに見舞われた08年からコロナ禍のあった20年までの期間では、45ヵ月、42ヵ月、48ヵ月の3つの波がある。120ヵ月(10年)程度とされる設備投資循環が、複数回の在庫循環(40ヵ月程度)で形成されるとの考えに基づくと、リーマン・ショック後の135ヵ月(11年3ヵ月)の間は、教科書に出てくるような見事な景気の山谷を描いていると言えるだろう。
20年以降に関して言えば、1番目の在庫循環はやや短い期間となったものの、現在は2番目の在庫循環がピークに向かっている最中と判断できる。24年9月調査で大企業・製造業DIはプラス13と、前回の6月調査からは横ばいだった。また12月調査を見通す先行きについてはプラス14と1ポイントの改善が見込まれている。先行きは控えめになるという短観の癖を考慮すれば、2番目の在庫循環のピークアウトはまだ先のようだ。
●鉱業、電気・ガス、非鉄の純利益は大きく上振れ
短観においては売上・収益計画の調査もあり、株価指数を形成するEPS(1株利益)の見通しを見積もることが可能だ。今回の調査で大企業・全産業の当期純利益は前年度比4.1%の減益見通しだった。しかし、これについても控えめになるという短観の癖がある。21.1%増益で着地した22年度や、11.5%増益で着地した23年度は、それぞれ9月調査段階では3.6%増益、2.2%減益の見通しであった。それを考えると今年度も10%前後の増益になることは十分に想定できる。
同じような癖は上場企業の通期業績見通しにも言え、その修正は10月下旬から本格化する中間決算発表時に行われることが多い。短観で2ケタ増益が想定されるならば、上場企業の今年度増益率もこれに倣うことが予見される。市場心理を反映するPER(株価収益率)はさまざまな材料で常に揺れ動いているものの、株価はEPSとPERを掛けて求められる。EPSの上昇そのものは、日経平均に上昇圧力を掛けるものとなる。
短観では業種別に分けた調査結果も集計している。当期純利益の見通し(大企業)を上方修正した業種を、修正率の高い順に取り上げてみると、まずは計画比で約2.5倍の上方修正となった鉱業・採石業・砂利採取業が目を引く。想定以上の円安や素材価格の上昇を受けて、値上げが順調に進んだことが背景にあるとみられる。個別銘柄に目を配ると、日鉄鉱業 <1515> [東証P]は、第1四半期(4~6月)時点で経常利益が前年同期比20.5%増の40億4400万円。通期計画に対する進捗率は49%に上り、業績の上振れに期待が膨らむ。
電気・ガスの上方修正率は48.1%となった。円安を受けた値上げ効果の発現とともに、その後の円高局面の到来で、仕入れ価格が低下したことによる利益押し上げ効果が期待されているようだ。第1四半期の経常利益は北海道電力 <9509> [東証P]が通期計画に対して進捗率が90%近くとなっている。
非鉄金属は39.8%、業務用機械は24.1%の上方修正となっている。非鉄は自動車の認証不正問題で落ち込んだ需要の回復などが想定されているセクターだ。8月に業績予想を引き上げて物色人気化した電線大手のフジクラ <5803> [東証P]は、データセンター向けの需要拡大などの恩恵を巡る期待が高まった状況にある。電線・加工品やネットワーク機器の平河ヒューテック <5821> [東証P]の第1四半期経常利益の進捗率は44%。PBR(株価純資産倍率)は0.5倍台にとどまっている。
●機械・造船関連も要マーク
業務用機械には自動販売機や両替機が含まれている。新紙幣発行の特需とともに、猛暑による冷蔵設備の需要増などが寄与した可能性が高い。貨幣処理機の日本金銭機械 <6418> [東証P]は第1四半期の決算発表時に通期の業績予想を上方修正したが、それでも経常利益の通期計画に対する進捗率は61%とあって、更なる業績の上振れが期待される。遊技機向け周辺機器のオーイズミ <6428> [東証S]も、第1四半期の経常利益の進捗率は62%と高水準。業務用厨房機器・製氷機のホシザキ <6465> [東証P]も業績上振れ期待銘柄と位置付けられている。クリーンルーム機器などを手掛ける日本エアーテック <6291> [東証S]は、6月中間期の経常利益の進捗率が80%近くに上る。下期の受注見通しは中間期と同程度との見方を8月に示した。
造船・重機、その他輸送用機械は10.5%の上方修正となった。世界的な造船特需や地政学的リスクの高まりに伴う軍事需要の拡大などが寄与したと推察される。第1四半期の経常利益の進捗率が高い銘柄のうち、船舶用ディーゼル機関のジャパンエンジンコーポレーション <6016> [東証S]は7月に上場来高値をつけた後の調整を経て、過熱感は和らいでおり、反騰機運の高まりが期待される局面にある。船舶用の配電制御システムなどを手掛ける寺崎電気産業 <6637> [東証S]は、好調な造船市況を背景に舶用システム製品の受注が大きく伸びている。25年3月期の減益幅が縮小する見通しを示した際には、評価を集めることとなりそうだ。
株探ニュース