貸借
証券取引所が指定する制度信用銘柄のうち、買建(信用買い)と売建(信用売り)の両方ができる銘柄
日経平均株価の構成銘柄。同指数に連動するETFなどファンドの売買から影響を受ける側面がある
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5401 日本製鉄

東証P
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エヌビディアをはるかにしのぐ株価上昇率、次のAI銘柄の本命とは?<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

◆適温相場に逆戻り、米国経済はノーランディング?

 10月4日に発表された米国雇用統計では、失業率、雇用者数とも市場予測を上回る改善を見せた。先日発表された24年4-6月のアメリカのGDP確定値は前期比年率3%増、さらにアトランタ連銀が発表した7-9月のGDPナウは2.5%増(10月1日現在)、ブルームバーグも24年のGDP予想を2.6%へと引き上げている。

 こうした報道を見て感じるのは、9月にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が発表した2024年の米国景気予測は、早急な利下げを期待するマーケットの"目線を下げる"ための意図的なコミュニケーションなのではないだろうかということだ。パウエル議長は24年GDP予測を0.1%下方修正して2.0%増としたのだが、米国景気は、同議長が発言しているほど悪くはない。

 予め低いGDP予測値を出しておいて、今後、発表される各種の統計数字が良ければ、「だから早急な利下げは必要ではない」というロジックになる。FRBからすれば、マーケットのプレッシャーを気にせずに、ゆっくりと慎重に判断したいというのが本音だ。そのための布石を打った、ということではないだろうか。

 ところで足もとの米国株市場の動きを振り返ってみると、8月と9月初めの荒れ相場では、米国経済のハードランディングへの懸念が瞬間的に高まり、株価が乱高下した。だが1カ月が過ぎて、各種の経済指標も安定し、ダウ平均<^DJI>もS&P500種指数<^SPX>も何事もなかったように、再び最高値圏まで浮上している。

 ここにきて、昨年末のような"ゴルディロックス(適温)相場"に逆戻りした感があるのだ。この状況を受けて、いまマーケット関係者の間では、ハードランディングはもちろん、ひょっとしたらソフトランディングすらしない、つまりランディングしないでこのまま米国景気が堅調に推移(ノーランディング)するのではないかという見方さえ出てきているほどだ。

 リスクがあるとすれば中東情勢の悪化によってインフレが再燃することだが、現時点では、それほどの切迫感はない。今のままの流れが続けば、景気が堅調のまま、巡航速度で無理なく金融緩和が進んでいくことになる。株式市場全体を覆ったそうした安心感が、いまの相場を形成しているようだ。

◆直近3カ月ではマグニフィセント7が最低のパフォーマンス

 足もとのゴルディロックス相場の内訳をS&P500銘柄を対象にもう少し詳しく見てみると、7月以降の3カ月間のパフォーマンスは、バリュー銘柄が最も良くて、次がマグニフィセント7 を除いた493銘柄、そして500銘柄、グロース銘柄と続き、マグニフィセント7が最も悪いという結果になっている。指数全体では上昇しているのだから、7月以降、AI(人工知能)相場の調整局面でマグニフィセント7からは資金が流出したが、その資金が株式市場から退場することなくバリュー株を中心とした他の銘柄に分散されている。

 つまり、全体の相場の流れは変わらないとしても、過熱感のある銘柄からより安全だと思われる銘柄に資金が循環している、といった印象だ。今さらながらだが、米国株式マーケットの資金循環システムはうまく機能していると思う。と言ってももちろん、AI相場が終わったというわけではない。8月以降クローズアップされてきた公益事業や不動産セクターの銘柄も、原子力発電やエネルギー関連の銘柄が中心で、AIを起点とした物色対象の拡大という流れは変わっていないからだ。

 前回 もお伝えしたが、空調関連のエーオン<AAON>やキャリア・グローバル<CARR>は最高値をばく進中だし、原発関連ではビストラ<VST>が年初来の株価上昇率が3.6倍を超え(10月7日現在)、エヌビディア<NVDA>よりはるかに上昇率が高い。さらに先日、マイクロソフト<MSFT>と20年の電力供給契約を結んだことが報じられたコンステレーション・エナジー<CEG>は報道後に株価が急騰。年初の116ドルが285ドルを超える水準に達している(同)。

 興味深いのは、同社は2019年から経済的理由で稼働を停止していたスリーマイル島の原発1号機を再稼働させ、マイクロソフトのデータセンター向けに電力を供給すると発表したことだ。1号機は1979年にメルトダウン(炉心溶融)を起こして世界を震撼させた2号機の隣に位置しているという。生成AI関連銘柄としてエネルギー・セクターにはすでに注目が集まっていたが、同社で特筆すべきなのは、スリーマイル島の原発という、すでに存在する施設を再稼働させるというところだ。エネルギー関連の施設を新規でつくるとなると膨大な時間とコスト(原発新設に伴う規制クリアのための安全性担保のコストなどを含む)がかかるはずだが、既存施設の利用なのだから費用負担はだいぶ軽くなると考えられている。

 福島原発事故の記憶が新しい私たち日本人にとっては信じられないような話だが、アメリカ人にとっての原子力発電に対するイメージはそれほどネガティブではない。実際、ビル・ゲイツは以前から原発推進論者で、「ニュークリア(原子力)はクリーンエネルギーである」と語っていたし、先日の日本経済新聞の報道によれば、アルファベット<GOOG>のスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)も原発の活用に前向きだという。今後、膨大なエネルギー需要が発生することが見込まれるAI時代に向け、原発関連セクターは新たな本命セクターに躍り出つつあるのかもしれない。

◆AI覇権争いのカギは「労働生産性の向上」

 ではAI相場の起点となったマグニフィセント7はどう見ればいいのだろうか。足もとの株価推移は各社まちまちの結果で、メタ・プラットフォームズ<META>とテスラ<TSLA>はこの3カ月間、株価が上昇し、新型iPhoneを発売したアップル<AAPL>の株価も高値圏で推移している。

 半面、今年のAI相場の主役、エヌビディアとクラウド大手3社の株価は低調だった。なぜ、そうした結果になったのだろうか。私が思うのは、ひょっとしたら大手クラウド3社は、今さらながら、メタを見直しているのではないかということだ。

 ご存じの通り、クラウド大手3社は激しいシェア争いを長年続けている。大手3社以外にもサーバー事業に関しては、今後はオラクル<ORCL>やIBM<IBM>、アクセンチュア<ACN>といった次の勢力がシェアを奪いに来る。これから数年は続くであろうAIの覇権争いを考えれば、AIへの高い水準の投資は続けなければならない。そうした投資に対して、「本当にAIで投資回収できるのか」と疑問を呈したのがこの3カ月間のマーケットの反応だった。

 一方のメタがマーケットから評価されているのは何故なのだろうか。同社の場合は、昨年の今頃は、メタバースへの過剰投資によって市場の評価は散々だったが、いち早く実施したリストラの効果が表れ、労働生産性が他社に比べて格段に上がっていることが根底にある。それに加えて、主力事業である広告事業がAIとの相性が良く、シナジーを他社より早く実現することができた。クラウド大手各社の利益成長率の鈍化に敏感な反応を示すマーケットが、メタを再評価しているのはこの部分だろう。

 もう一つは、経営のスピード感だ。市場から再評価されているメタやテスラは、ビッグ・テックの中では数少なくなった創業者のワントップ体制だ。必要とあればトップの一存で大胆なリストラにも踏み切れるし、事業の方向転換もできる。だから他社に先んじて労働生産性を改善することができたのではないか。労働生産性と言えば、先日、アマゾン・ドット・コム<AMZN>が全社員に週5日の出社を義務付けると報じられ話題を呼んだが、これはアンディ・ジャシーCEOの危機感の表れと言えよう。

◆次のビッグ・テック決算がAI相場の試金石

 いずれにせよ、10月中旬から本格化するハイテク企業の決算が、今後の相場の流れを図る試金石となる。すでに発表されたマイクロン・テクノロジー<MU>の決算は市場予想を大幅に上回る内容で、6月以降大きく調整していた同社の株価は急激に上昇し始めている。7月の高値以降の調整局面から抜け切れないエヌビディアも、10月2日にジェンスン・フアンCEOがCNBCのインタビューに答え、同社の最新AI半導体「ブラックウェルの需要は常軌を逸している」という発言が伝えられると翌日の株価が急騰するなど、復調の兆しが見え始めている。

 クラウド大手3社で私が注目したいのは、アルファベットとアマゾンの決算内容だ。マイクロソフトの決算の焦点は、「ウインドウズ」の販売状況に絞られるのである程度予測が可能だが、アルファベットとアマゾンは、広告事業の進展次第ではマーケットにサプライズを与えるかもしれないからだ。広告収入の伸びがAI効果で市場予想を上回るならば、メタがそうだったように、この3カ月の低評価を一気に挽回することも考えられる。

 AI関連では、データセンター関連の不動産銘柄への投資も有効だろう。個別銘柄ではディジタルブリッジ・グループ<DBRG>、ETFでは前回も取り上げた「グローバルXデータセンターリート&デジタルインフラETF」<DTCR>などが挙げられる。ほかにはIBMやアクセンチュアなど、ソフトウェア・サービスやコンサルティング・セクターにも今後、さらに注目が集まるだろう。特にIBMはAI関連銘柄でありながら、連続増配中で今でも3%近い配当利回りを実現している。同社の前回高値は2013年だったのだが、今回のAI相場で久し振りに高値を抜いてきた。成長と還元を両立した同社は、中長期的な投資対象としては妙味のある"堅い"銘柄だと言えるのではないか。

 24年の相場を現時点で振り返ってみると、まずAI半導体というハードの部分が注目され、データセンター、ソフトウェア、コンサルティング、そしてエネルギーと物色対象が広がってきた。10月中旬から本格化するハイテク企業の決算を控え、足もとではAI関連の中でもディフェンシブなバリュー株に資金が流入している。次の決算で、ハイテク各社のAIによる収益化が着実に進んでいると分かれば、再び投資マネーはAI関連のハイテク銘柄に戻っていくだろうし、その逆なら、より安全なバリュー株を物色する動きが広がるのではないか。

◆大統領選の注目はどちらが勝つかではなく「ねじれ議会」の行方

 最後に大統領選についてだが、依然として勝敗の行方は不透明な状態が続いている。しかも、大統領選の投票日が迫るとともに、両候補の政策が近づいてきている。それも無理のないことだ。なぜなら今回の大統領選は、共和党、民主党の支持率が拮抗し、大統領選のたびに勝敗が入れ替わる可能性の高いスイングステートと呼ばれる激戦7州の結果で決まると言われている。中でも選挙人が19人と多く、最も激戦が予想されるのがペンシルベニア州だ。

 ラストベルトの典型とも言える同州の有権者の中心はブルーカラーの白人層で、キャッチフレーズこそトランプ氏の「見捨てられた人々を救う」とハリス氏の「中間層を再び育てる」と異なるものの、訴える内容はほとんど変わらない。株式マーケットにとって最も重要なのは通商政策のはずだが、グローバル化によって苦しめられていると感じている人々の支持を得ようとするなら、どちらの候補も保護主義色を強く打ち出さざるを得ないからだ。余談かもしれないが、日本製鉄 <5401> のUSスチール<X>買収に両候補があれだけ反対するのは、ひと言で言えばこれが原因だ。

 要するに大統領選が終わるまでは、両候補の経済政策の実像は見えない。それなら現時点では静観するのが得策、というのがマーケットの判断だ。むしろマーケットが関心を向けているのは、上院選の結果で「ねじれ議会」が解消されるかどうかという点だ。トランプ大統領が誕生した2016年の選挙後は、いわゆる"トランプ・ラリー"で株価が上昇したが、これは大統領、上院、下院すべてを共和党が制する「トリプル・レッド」が実現したからでもある。ねじれが無ければ、大統領の政策を迅速に実行することができる。その政策に沿って、投資対象を決めればいいからだ。

 同じように、今回の大統領選でも議会のねじれが解消されれば、どちらが大統領になったとしても、その政策に沿ったラリーが展開されるかもしれない。年末へ向けての米国株投資の重要な注目点の一つだろう。

【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。


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