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【特集】連れ安銘柄への逆張り戦略で混迷AI相場を勝ち抜け<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

大山季之(松井証券マーケットアナリスト)

◆解けた魔法、デルとセールスフォース決算で明らかになったこと

 エヌビディア<NVDA>の驚異的な好決算に世界が驚愕した翌週、5月29日、30日(現地時間)にハイテク企業2社の決算が発表された。デル・テクノロジーズ<DELL>とセールスフォース<CRM>の決算だ。2024年に入ってからの一連のAI相場の中で、半導体や大手クラウド・サービス企業に続くAI関連銘柄として期待を集めた両社決算だったが、結果としてマーケット側にとっては、ものの見事に「はしごを外された」内容となってしまった。
 
 デルの24年2-4月期決算は売上高こそ堅調だったが、5-7月期の利益見通しが市場予想を大きく下回り、翌日の株価が急落。セールスフォースも24年2-4月期決算の内容こそ好調だったものの、5-7月期のガイダンス(業績予想)で営業利益率の縮小が伝えられると、同じく翌日の株価は大きく下落した。

 この両社の決算内容とマーケットの反応には、今後のAI相場を見るうえで、非常に重要なメッセージが込められている。と言うのも、今年に入って投資家たちは、AIという魔法をかけられていたのだが、その魔法が解け出した、と思うからだ。確かにAIが普及するに従って、関連企業の売り上げも利益も大きくなる。だが、だからと言って利益率が同様に上がっていくわけではない。こんな当たり前の事実を、両社の決算によって目の前に突き付けられ、現実の世界に連れ戻された投資家たちが慌てて失望売りに走った、といったところではないだろうか。

 一方、6月4日に発表されたヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)<HPE>の24年2-4月期決算は正反対の結果となった。スーパー・マイクロ・コンピューター<SMCI>を含めたサーバー大手の中では、AI半導体の調達に苦戦していると伝えられていた同社だが、ふたを開けてみればAIサーバー事業が思いのほか好調で売上高、純利益とも市場予想を上回り、さらに5-7月期のガイダンスも上方修正されると、翌日の同社株価は急騰した。

◆浮沈が激しいAI関連銘柄への投資は「カンニング戦略」が有効

 明暗が分かれた各社の決算だが、この状況をどう捉えればいいのだろうか。私はいわゆるAI関連企業には3つのパターンがあると考えている。AIで確実に成長できる企業、AIで恩恵を受け続けることができる企業、そしてこれからAIの恩恵を受けそうだと思われている企業だ。言うまでもなく、AIで確実に成長できる企業とは、エヌビディアやTSMC<TSM>、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジー<MU>などのAI半導体メーカーや、AIサービスを提供するマイクロソフト<MSFT>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、アルファベット<GOOGL>などの大手クラウド企業だ。そして、恩恵を受け続ける企業には半導体製造装置メーカー、中でも、特に後工程のメーカーなどが当てはまるだろう。

 問題なのは、これから恩恵を受けるのではないかと期待される企業だ。例えばいま、生成AIを動かすためには膨大な電力が必要だと分かり、世界中で電力株の評価が上がってきているが、果たして本当にAIがこれら企業の収益を押し上げるのかは、実は現時点では誰にも分かっていない。場合によっては、期待が先行し過ぎている分、デルやセールスフォースのように「地雷を踏む」ことにもなり兼ねない。もちろん逆に、HPEのようにネガティブな評価を受けていた銘柄の評価が一転して上昇することもある。

 こうしたまだら模様のAI相場の中で、では今後の投資戦略をどう考えればいいのだろうか。私がいま、強くお勧めしたいと考えているのが「カンニング戦略」だ。今年に入って、S&P500株価指数<^SPX>は1月から3月までで約10%上昇している。ところが4月に入って一転して約4%下落し、5月になって再び約5%上昇した。こうした全体相場の流れの中で、有力なアクティブ・ファンドがどのようにポートフォリオを入れ替えているのか、ということを見るのは非常に参考になるはずだからだ。

 ファンドの純資産が大きなアライアンス・バーンスタイン<AB>が運用している「米国成長株投信」とインベスコ<IVZ>運用の「世界厳選株式オープン」を見てみよう。この二つのファンドは、米国の成長株ファンドの両巨頭でAUM(運用資産残高)が大きなファンドだ。そして、もう少しエッジが効いたところでは、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの「netWIN GSテクノロジー株式ファンド」も挙げてみたい。

 GSのテクノロジーファンドは、純資産が1兆円という巨大ファンドなのだが、4月末時点の組み入れ銘柄はなんと32銘柄しかない。ポートフォリオの変化を追ってみると非常に興味深い結果になっていて、4月以降、アルファベット、マイクロソフト、アマゾンなどの組み入れ比率が徐々に上がってきているのは理解できるとして、それまで圏外だったアップル<AAPL>の組み入れ比率が一気に上がっている。

 ご存じの通り4月に入る頃、マーケットのアップルに対する評価は芳しいものではなかった。だが世界有数のアクティブ・ファンドのファンド・マネージャーは、この頃からすでに買い向かっていたのだ。少しタイムラグはあるが、運用各社のホームページを見れば、相場状況に応じてプロが実際、どう動いていたかを知ることができる。この動きを参考にして、今後の投資戦略を考えるのは、一般の投資家にとっても理にかなっているのではないだろうか。

◆アメリカ経済は「軽めのスタグフレーション」に突入か

 ところで、AIから離れてアメリカ経済を俯瞰してみよう。まず注視すべきなのは、小売りセクターの動向だが、ここもまだら模様で先行きを見通しにくい状況が続いている。相変わらず、ラグジュアリー・セクターは堅調だが、アパレルやホームセンター、住宅リフォーム関連などの裁量消費分野は落ち込んでいて、マクドナルド<MCD>、スターバックス<SBUX>といった企業の業績、株価も大きく下落している。半面、小売りセクターの代表格、ウォルマート<WMT>は業績も株価も絶好調だ。

 ウォルマートと言えば、低所得層向けといったイメージがあるかもしれない。だが、実際には高所得層から低所得層まで幅広い層に支持されていて、EC(電子商取引)の整備も年々進んでいるため、利用者が増え続けている。しかも、生活必需品を主に扱っているため、多少、景気が鈍化しても売り上げへの影響は少ない。その点、マクドナルドやスターバックスは、生活必需品というより「ちょっと贅沢な商品」と消費者に捉えられているようで、足元は影響をダイレクトに受けている。

 これら各社の決算から推測できるのは、アメリカの景気は全体として落ち込んでいるのではないかということだ。とは言え、インフレはなかなか収まらないし、金利も高止まりしたまま。こうしたアメリカの状況を「軽めのスタグフレーションではないか」と言う人もいるが、それも無理はないのかもしれない。

 そんな中で、米国株市場の今後の焦点は、まずは日本時間6月13日未明にアナウンスされる米国の金融政策 FOMC(連邦公開市場委員会)に向けられる。現時点では年内1回の利下げが有力視されているが、実際、その通りに進むのかどうか。個別銘柄のイベントでは6月10日(現地時間)から始まっているアップルの開発者会議が注目だ。再評価が著しい同社が果たしてAIでどのような具体的なビジョンを打ち出してくるのか。

 一方、政治面ではトランプ前大統領の有罪判決によって大統領選に向けて混迷が深まっているが、これは現時点のマーケットの重要テーマではない。もし、9月の時点でトランプ陣営が優位に立てば、金融政策も劇的に変わるかもしれないが、現時点でどちらかにベット(賭ける)することはできないだろう。

◆狙い目は必要以上に売られてしまったAI銘柄

 では今後、どのような銘柄に投資をしていけばいいのだろうか。新NISAがスタートして「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)」やS&P500株価指数に連動したファンドが人気だが、現時点の米国株主要指数を見るとバリュエーション面ではすでに限界に近く、こうしたファンドには当面、投資妙味が感じられない。

 やはり、物色の本命はAI関連でいいだろう。だが、いまのこのセクターは、デルなどの例を見る通り浮沈が激しく、どれか一つの銘柄に絞るのは簡単ではない。したがってAI関連の銘柄に幅広く投資するのが王道だと考えるが、その意味では以前も紹介した「iFree NEXT FANG+インデックス」(大和アセットマネジメント)を見てほしい。株価が上がれば売り、下がれば買う、という逆張り戦略で、AI・ハイテクセクターに均等に投資ができるからだ。

 個別銘柄では、一連のハイテク銘柄決算によって"連れ安"となってしまったような銘柄が面白いのではないだろうか。例えばセールスフォースの決算翌日に急落したアドビ<ADBE>のような銘柄だ。

 今回のセールスフォースの決算で明らかになったのは、生成AIの登場がすべてのIT企業に恩恵をもたらすわけではない、という事実だ。つまり、これまで盤石だと思われていた同社のSaaS(ソフトウェア・サービス)によるサブスクリプションのビジネスモデルが、生成AIのスタートアップが次々に生まれるとともに競争が激しくなり、同社の優位性が損なわれつつあるということが明らかになったのだ。その結果、SaaS関連銘柄が一斉に売られてしまったわけだ。だが、アドビは同じSaaSでも提供するソフト自体が世界中でデファクト・スタンダードになっているため、他社が追随するのは難しく、優位性に変化はない。

 同じくSaaS銘柄ということで、オラクル<ORCL>やスノーフレイク<SNOW>も売られたが、すでに発表されている両社の四半期決算を見る限り、そこまで過剰反応をすることはない。既存のソフトウェアは生成AIに置き換えられるという懸念から、「生成AI=半導体一人勝ち」という連想もあるようだが、それも違う。ソフトウェア企業でも、プラットフォームを持つ企業は生き残る。ソフトウェア企業に関しては、粗利益の高い商材を有しているかどうかを考慮すべきではないだろうか。

 このように、いまのAI相場では、エヌビディアは別格として毎月のように関連銘柄への評価が変わり、主役が入れ替わる状況になっている。期待が大きい分、失望も大きくなりがちだし、逆もまた然りである。となるとやはり、AI関連のハイテクセクターの中で、必要以上に上がっている銘柄は売り、必要以上に売られている銘柄を買うという、逆張り戦略こそが有効ではないかという思いが強くなってくるのだ。

【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。


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