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【特集】エヌビディアはいまが買い場!? ではアップルへの投資判断は?<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>

今中能夫(楽天証券経済研究所チーフアナリスト)
◆マーケットが読み込み切れていないエヌビディアの成長性

 先週、9月18日(現地時間、以下同)に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備理事会)はついに0.5%の利下げに踏み切った。利下げ幅自体は私の予測よりは大きかったが、米国景気のソフトランディングへの期待から株式市場は主要指数が揃って上昇するなど、久々にいいムードが漂ってきている。市場の注目を集めた重大イベントを通過したところで、7月の高値から調整局面入りしていた米国のハイテク銘柄も、そろそろ買い準備を整えてもいい局面になったのではないかと思う。

 マーケットには依然としてAI懐疑論が根強いが、ここで改めてエヌビディア<NVDA>を始めとしたAI相場の主役たちの現状とマーケットの反応を客観的に検証してみよう。まず、エヌビディアの2024年5-7月期決算では、同社としては、これ以上ない決算内容だったのだが、マーケットは粗利益率の低下を問題視し、株価は下落した。だがこれは、今の主力AI半導体「H100」の拡張版「H200」の生産が本格化したことに加え、次世代チップ「Blackwell(ブラックウェル)」の初期生産が始まったために、生産性が悪化したためだ。先般開催されたゴールドマン・サックス・グループ<GS>のカンファレンスでジェンスン・フアンCEOが語っていた「顧客はAI半導体の供給が十分ではないことに感情的になっている」という言葉の通り、相変わらず同社製品への需要が旺盛な状態は変わっていない。

 フアンCEOによると、「ブラックウェル」の需要は、25年は供給を大きく上回っており、26年も需要が供給を上回る状態が続く見通しだ。事業拡大の基調には陰りが見えないはずなのだが、株式マーケットは、ひょっとしたらここまでは読み込み切れていないのではないだろうか。いま、生成AIのムーブメントは、アマゾン・ドット・コム<AMZN>のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、マイクロソフト<MSFT>の「アジュール」、アルファベット<GOOG>の「グーグル・クラウド」などの大手クラウド・サービスがAI半導体を調達し、ハイテク各社がアプリケーションを開発する段階に入っている。

 こうしたAIアプリの需要がどれほどあるのかは現時点では読み切れず、そこが懐疑論の根底にあるのだろうが、少なくともいまの需要の強さを見れば、AI半導体の市場成長は当面続くと見ていいだろう。IT大手からスタートアップまで各社が開発する生成AIと生成AIアプリケーションが売れなければ今回の生成AIブームは終わってしまうだろうが、生成AIが登場した初期からクリエーターが積極的に画像生成AI、動画生成AIを使っていること、マイクロソフトのAIアシスタント「Copilot(コパイロット)」も普及し始めていることを見ると、来年にも各種の生成AIアプリケーションが発売されれば、売れる可能性が高いと思われる。そうなると、生成AIと生成AIアプリケーションの開発プロジェクトはさらに増え、それに伴いエヌビディアの事業成長も続くだろう。こうした考えでいくと、いまの同社の株価は割安だし、格好の買い場だと判断してもいいのではないか。

◆新製品発表は期待外れ、iPhone16が発売されたが、どうなるアップル

 一方、年初からの生成AIムーブメントに乗り遅れたものの6月にスマホ搭載AI、「アップルインテリジェンス」を発表して期待を集めていたアップル<AAPL>についてはどう見ればいいのだろうか。結論から述べると、同社は厳しいのではないだろうか。9月9日に開催された新製品発表会では、「この1台でテレビ番組が制作できる」などと、9月20日に発売された「iPhone16」搭載のカメラの性能向上を強調していた。だが、同社のスマートフォンのカメラ性能は、何年も前から高い水準に達していて、全て3nm(ナノメートル)の最先端半導体が使われた新製品としては、大きく驚くほどのものでもない内容だった。

 注目された「アップルインテリジェンス」は、10月からアメリカで開始される予定だが、これまでのアップルの発表を見る限り、それほどのインパクトはないと思われる。文書生成、画像生成、アップルのAIアシスタント「Siri」の性能向上、「Chat(チャット)GPT」との連携、ユーザーのデータを外部に出さないセキュリティ対策が売りだが、個人ユース中心のアップル製品でユーザーにどの程度訴求するのか未知数だ。生成AIはビジネスで活発に使われているが、個人ユースなら、「ChatGPT」の機能で十分満たすことができる。「アップルインテリジェンス」でなければならない、という必然性が見当たらないのだ。もし、「iPhone16」の販売が「iPhone15」に比べて大きく伸びないならば、来年末に台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>が量産を開始する予定の2nmチップの生産計画(最初のユーザーはアップルになろう)にも影響を及ぼすかもしれない。

 「iPhone16」の販売状況はまだ明らかではないが、日本の量販店の売り場を見る限り熱気は感じられない。日本では普及版の「iPhone16」はどのタイプ(色とストレージサイズの組み合わせ)でも当日入手できる店舗が多い。上位機種の「iPhone16 Pro MAX」は予約が必要だが、「iPhone16 Plus」、「iPhone16 Pro」はタイプにこだわらなければ当日入手できる場合もある。アメリカのウォルマート<WMT>のウェブサイトを見ると、全機種が販売されている。色やストレージの容量の品揃えに限りがあるため好みのタイプがあるとは限らないが、こだわらなければ、最長1週間程度で自宅に届く模様だ。「iPhone16」シリーズの総合性能は「iPhone 15」よりも向上しており、アップルインテリジェンスを評価するユーザーもいるだろうから即断はできないが、「iPhone16」シリーズが「iPhone 15」シリーズよりも好調に売れるという期待は持ちにくいのではないだろうか。  

 そうなると最先端半導体需要の増加を見越している東京エレクトロン <8035> 、ディスコ <6146> 、レーザーテック <6920> といった日本の半導体装置メーカーの計画にも狂いが生じる可能性がある。もっとも、最先端半導体への需要は、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>をはじめとした各社でも大きく、アップルの需要が減った分の穴埋めは簡単にできるだろうが。

◆大手ITの投資対象5社から2社を外し、1社を加える

 次に、クラウド・サービスで首位を争うアマゾン・ドット・コムとマイクロソフトについて見てみよう。両社は前回までの決算で、すでに生成AIが収益貢献し始めていると発表していたが、その内訳は、エヌビディアのAI半導体「H-100」のレンタルと、生成AIアプリケーションの開発に必要な生成AIを貸し出すサービスである。

 と言っても両社の戦略は対照的で、マイクロソフトはオープンAIの「ChatGPT」シリーズを主力に売ろうとするのに対して、アマゾンは「アマゾン・ベッドロック」というAI開発のプラットフォームを通して、アマゾンの自社製生成AIと他社の様々な生成AIを利用することができるというものだ。両社とも、ビジネスで実際に利用できるAIアプリの開発段階で収益を上げているのだ。

 両社のクラウド・サービスを通して来年にも各社のAIアプリが登場すると思われるが、今後、さらにAIアプリのラインアップを拡充させ、企業の現場に導入していくためには、まずは需給がひっ迫しているAI半導体が必要になる。そうした視点に立てば、やはりAI半導体の調達で優位に立つ、両社の事業拡大の可能性は高いと考えていいだろう。

 残るクラウド大手のアルファベットはどうだろうか。実は私が次のGAFAM四半期決算で特に注目しているのが、同社の決算なのだ。というのも、今後続くであろうAI相場の中で、果たしてポートフォリオの中に5社を持っていていいのかと考えた場合、アルファベットは外すべきなのかもしれないと感じているからだ。マイクロソフトにアマゾン、そしてAIが広告収益に貢献してきたメタ・プラットフォームズ<META>は保有を続ける。アップルはすでに外すべきだろうが、アルファベットは次の24年7-9月期決算が試金石になるのではないか。

 アルファベットは、前回の4-6月期決算でも広告収益の成長鈍化が伝えられていたが、かねてより同社の事業の柱である広告事業は、メタやアマゾンの広告事業に浸食されているのではないかと言われていた。次の決算では、それが事実なのかどうかがより鮮明に表れてくるのではないだろうか。もし、この仮定が正しければ、同社はAI銘柄の本命から外れることになる。これら5社から2社を外したほうが良いのかもしれない。

 半面、ここにきて市場の評価を急速に高めているのがオラクル<ORCL>だ。エヌビディアの「ブラックウェル」を使用してクラウド・サービスを増強する計画が進行しているという。同社はクラウド・サービスでは大手3社に続く、「ティア2」と呼ばれるポジションに位置付けられているが、こうしたティア2企業の台頭は、AI市場のすそ野の拡大にもつながるし、物色対象も広がっていく。ティア2企業には、他にIBM<IBM>やセールスフォース<CRM>、サービスナウ<NOW>などがあるが、その中からオラクルのように抜け出す企業が現れてくるかどうか。今後の各社の決算に注目したい。

◆大統領選のハイテク銘柄への影響はいまだに未知数

 そして、FOMCを通過したいまとなっては、やはりもう一つの未確定要素である11月の大統領選挙についても考えければならないだろう。最後までどちらが勝つか分からない混戦が続くと見られる今回の大統領選だが、今後の米国株の投資戦略を構築するには、これまでのAI関連銘柄を中心とした投資戦略を軌道修正し、物色セクターを広げるべきかどうかが大きな焦点となってくるだろう。

 前々回のコラムでも触れたが、現時点ではやはり、住宅関連セクターの値持ちがいい状態が続いている。DRホートン<DHI>、レナー<LEN>、トール・ブラザーズ<TOL>といった主要メーカーに加えて、ホームセンター大手のホーム・デポ<HD>の株価もじりじりと上昇している。

 このセクターに注目が集まったのは、「全米で300万戸の住宅を建設する」というハリス副大統領の公約があったからだが、住宅問題の改善は仮にトランプ前大統領が勝ったとしても重要政策の一つとなる。しかも利下げ局面に入ったのだから、住宅関連セクターには明らかに追い風だ。ただし、トランプ氏が勝った場合には、高関税政策によって確実にインフレが進むだろうから、FRBの金融政策にも変化が生じるというリスクも考えられる。

 肝心のハイテク、半導体銘柄への影響だが、ハリス氏が勝てば、基本的にはバイデン政権の路線を踏襲するから、現状と大きく変わらないとの見方もあるが、彼女の本来の政治思想であるリベラル色が強く出ると状況が変わってくる。ハイテク産業を含めた国内産業の規制強化の流れに進むかもしれないからだ。もっとも、半導体への大型補助金はバイデン政権の重点政策の一つなので、ハイテク全般について規制もするが、産業振興も行うというのがバイデン政権だったし、ハリス氏もそれを踏襲する可能性がある。

 一方のトランプ氏勝利なら、国内産業の保護を前面に打ち出すだろうから、先日、ファウンドリー部門の分社化を発表したインテル<INTC>など、国内半導体メーカーにとっては幾分、追い風となるかもしれない。

 とは言え、今回の大統領選挙では、こうした経済政策より中絶問題などのテーマが争点になっている。どちらがマーケット・フレンドリーなのかという議論が盛んだが、現段階でそれを結論付けるのは無理があるだろう。むしろ、心もとない首相が誕生しそうな日本の政局のほうが、よほどマーケット心理に影響を及ぼすのではないかと心配すべきなのではないか。それよりもまず、10月から始まるTSMCを皮切りとした各社の決算を凝視して、引き続きAIムーブメントの進捗を確かめながら、物色対象を検討していくのが王道と言えるだろう。

【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998~2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。


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