【特集】祭りは終わったのか? エヌビディアに替わる有望銘柄の見つけ方<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
大山季之(松井証券マーケットアナリスト)
ジャクソンホール会議、エヌビディア<NVDA>決算と大きなイベントを通過し、8月の荒れ相場から脱したと思ったら、9月に入って再び振れ幅の大きな展開を見せている米国株市場。いまの米国経済は、インフレは収まりつつあり、消費もそれほど落ち込んではいないが雇用には不安がある、といった具合で、一概に捉えることができない状況だ。それを9月17日から始まるFOMC(米連邦公開市場委員会)ではどう判断していくのかが次の焦点になる。
9月の利下げ開始は濃厚で、マーケットはすでに年内1%以上の利下げを織り込み出したが、さすがにこれは行き過ぎのような気がする。今後、毎月発表される雇用統計、CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)などの各指標を睨みながら、FRB(米連邦制度準備理事会)が慎重に判断していくのではないだろうか。
ところで、ここで改めて、世界中が注目したエヌビディアの決算と、その後の株式マーケットの反応を振り返ってみたい。ご存じのように、同社は好決算を発表しながらもマーケットは好感せず、株価が大きく下落した。さらに9月に入ると、米司法省から反トラスト法違反の嫌疑をかけられたとの報道もあって、同社の株価はついに100ドル台まで下落した。いよいよエヌビディア神話の終焉かという声が高まっているが、はたして、一連のマーケットの反応は本質的なものと考えていいのだろうか。
決算後に同社の株価が下落したのには3つの大きな理由がある。一つは24年第3四半期(8~10月)のガイダンス(業績予想)が、市場予想の最大値に届かなかったことだ。だがこれは過剰反応で、そもそも今回の決算では、楽観派と悲観派との間で事前のマーケットの予想値の幅が広すぎて、本来のコンセンサス(平均値)の役割を果たしていなかった。
先日、半導体産業のリサーチャーたちと話をする機会があったのだが、彼らが言うのは「今回の決算内容は基本的には満点で、予想値が高過ぎただけだ。そんな楽観的な予想をすること自体がおかしい」と。まったく同感で、素直に決算内容を見ると、相変わらず前年同期比で2倍以上の増収となっているし、現段階のAI半導体への中心的なニーズ、「学習」については同社の製品力は圧倒的で、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)<AMD>やインテル<INTC>などがいくら頑張っても太刀打ちできない状態だ。
彼らによると、データセンターに適したAI半導体として、エヌビディア製のGPU(画像処理半導体)の評価はますます高まっている。次世代製品の「ブラックウェル」の生産遅延が伝えられているが、製品自体の評判は抜群にいい。AIの次の段階として「推論」がニーズの中心になると、初めて他社にもチャンスが出てくるが、それはまだかなり先の話。エヌビディアも推論性能を高めたCPU(中央演算処理装置)、「グレース」の強化を進めているので、すぐにキャッチアップすることはできないだろう、ということだ。
◆エヌビディアに対してマーケットが感じ始めた二つの疑念
二つ目はエヌビディアの顧客たち、つまりマイクロソフト<MSFT>やグーグル(アルファベット<GOOG>)、アマゾン・ドット・コム<AMZN>などの大手クラウドサービス企業の投資回収の遅れに対するマーケットの懸念だ。先日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、データセンターへの投資回収に対するマーケットの期待値は、おおむね4年間で投資額の5倍の収益を上げることなのだという。
この基準に当てはめれば、毎年、1.5~1.7倍ぐらいの利益成長が求められる計算になる。つまり、各社の現在の利益成長率では物足りないということだ。エヌビディアの決算説明会でもこの点の質問が相次いだそうだが、ジェンスン・フアンCEOは抽象的な話ばかりで明確な回答をしなかった。そこがマーケットの失望を生んでしまったようだ。
そしてもう一つは、エヌビディアの業績そのものへの疑念だ。フアンCEOは現行モデルの「H-100」の需要が旺盛で、「顧客が列をつくっている」と述べていたが、それならなぜ、マージン(売上総利益率)が下がるのか、という指摘がマーケットから出てきているのだ。2024年に入って同社決算では、第1四半期のマージンが78.9%と市場予想を約2%上振れた。これがサプライズの要因の一つだったのだが、第2四半期は75.7%となり、市場予想を0.2%上振れたに過ぎなかった。同社の見込みでは、第3四半期にさらにマージンが下がる見込みで75.0%になるという。それだけ需要が旺盛なのに、何故、マージンが低下するのか、というのだ。
これまでマーケットは、エヌビディアの次世代半導体、高価格が予想される「ブラックウェル」の出荷が第3四半期から始まることを織り込んできた。だが、同製品の生産遅延によって、計算に狂いが生じてしまった。私が感じるのは、この誤差をマーケットはまだかみ砕けていないのではないか、ということだ。
◆名ばかりのAI投資はもういらない……すでに利益を生むメタには高評価
エヌビディアと同日に発表されたセールスフォース<CRM>決算も、AI相場の今後を占う試金石として注目された。だが、ここでも売り上げ、利益ともに市場予想を上回りながら、ガイダンスで次の四半期の減速が示唆されると、翌日の株価はじりじりと下落した。やはりAI投資の回収状況に、市場が敏感になっているのだ。少し引いて考えてみれば、AIの社会への普及はまだ始まったばかりだし、エンドユーザーに近い同社のような企業のAIでの収益化はまだ先の話だ。だが、それならいまはまだ買いたくない、というのがマーケットの本音のようだ。
一方、今回の決算ですでにAI投資の効果が目に見えて表れ始めたのが、メタ・プラットフォームズ<META>だ。広告事業がAI効果で市場予想を上回る結果となり、今後も成長が続くという見通しを発表したことによって、GAFAMの中では唯一、決算後の株価が上昇した。メタの強みはGAFAMの中では唯一の創業者経営で、変化に対して迅速に対応できるところにある。
例えば、従業員一人当たりの利益は、2020年以降、コロナ禍の需要拡大と収縮で大きく変動したが、いち早くリストラに踏み切り、今年になってAIに経営資源を振り向けると瞬く間に業績が改善し、一人当たり利益も大幅に伸びている。AIは利益になかなか結び付かない、という見方が広がり始める中で、ビッグテックではメタだけがすでに明確な結果を出していて、この点が株式マーケットからも評価されているのだ。
◆今こそカンニング戦略が有効、狙い目は"ハイテク寄りの不動産"セクター
ともあれ、8月以降の米国株市場の動向を見ると、これまでハイテク一辺倒だった物色対象が他のセクター、特に生活必需品や不動産、ヘルスケアなどのセクターにも広がり始めたことは確かだろう。実際、ウォルマート<WMT>は8月に株価が12%上昇し、コストコ・ホールセール<COST>も8%上昇。最大手家電量販店のベスト・バイ<BBY>は16%の上昇となり、ハイテク・セクターをはるかにしのぐパフォーマンスとなっている。
こうした状況で、私がいま、注目しているのは、"ハイテク寄りの不動産"セクターだ。AI関連なら何でも株価が上がる状況ではなくなったとはいえ、中長期的に見て、今後もAIの社会への普及が続くことは間違いない。そこでこれから直接恩恵を受ける確率が高いのは、データセンターやエネルギー施設の土地を所有する企業だと考えるからだ。
このセクターの銘柄を探すために参考になるのが、「グローバルXデータセンターリート&デジタルインフラETF」<DTCR>だ。株価も1年間で約19%上昇しているから投資対象としても魅力的だが、組み入れ上位銘柄には、電波塔や基地局などの通信インフラの管理やリースを展開するアメリカン・タワー<AMT>、クラウン・キャッスル<CCI>に、データセンター運営や管理を手掛けるエクイニクス<EQIX>、デジタル・リアルティ・トラスト<DLR>といった企業が並んでいる。
マグニフィセント7を始めとした大手ハイテク企業はともかくとして、多くの日本人投資家はなかなかこのクラスの企業の存在を知る機会はないと思う。私は米国株投資にあたっては、米国株のプロが運用する手法に学ぶ"カンニング戦略"が有効だと考えているが、このETFの組み入れ銘柄を見れば、多くの投資家の目がハイテク株に向かう中で、プロがどのような銘柄を有望だと考えているのかが分かると思う。
カンニング戦略といってもただ単に真似をすればいいと言っているわけではない。例えば、8月の乱高下相場で、プロが厳選したポートフォリオがどのような結果になっているのかを知れば、投資に対しての学びにもなるのではないか。そうした視点で見ると、他にも注目すべきファンドがいくつかある。一つは「GS米国成長株集中投資ファンド」で、組み入れ上位銘柄を見ると、イーライ・リリー<LLY>、アルファベット、マーベル・テクノロジー・グループ<MRVL>、マスターカード<MA>といった銘柄で構成されている。
ハイテク銘柄ももちろんあるが、ヘルスケアや金融など、セクターを問わず成長が期待できる17の銘柄に集中的に投資していて(2024年7月末時点)、構成銘柄のパフォーマンスを見ると、8月相場でもかなりいい結果を残しているのが分かる。イーライ・リリーは19%上昇しているし、データセンター向けの半導体ソリューションを提供しているマーベルも13%上昇している。
もう一つ面白いと思ったのは「米国製造業株式ファンド」というファンドだ。「USルネサンス」の愛称で知られ、2012年5月の設定以来、もうすぐテンバガーという、知る人ぞ知る優良ファンドだ。ダナハー<DHR>やレプリジェン<RGEN>などのバイオ・ヘルスケア分野から、ゼネラル・エレクトリック<GE>のエネルギー部門が独立したGEベルノバ<GEV>など29銘柄に集中投資している(2024年7月末時点)。組み入れ銘柄にハイテク企業は少ないが、GEベルノバは8月に13%近く株価が上昇しているし、空調システムのエーオン<AAON>やキャリア・グローバル<CARR>なども株価が7%前後上昇している。なるほどと思える銘柄が組み込まれ、荒れ相場の中でも高パフォーマンスを出しているのだ。
今後の米国株投資を考えるにあたって、米国景気やFRBの金融政策、11月の大統領選挙など、現時点では不透明な要素が多い。エヌビディア神話が終焉したとは思わないが、なんでもかんでもハイテク株を買っていればいい状況ではなくなったことも確かだ。だからこそ、このようなプロが運用するユニークなファンドの組み入れ銘柄を見て、銘柄探しの参考にすることは、多くの個人投資家にとっても非常に有効な手段ではないだろうか。これが、私がカンニング戦略を勧める大きな理由なのだ。
【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。
株探ニュース