日本ヒューム Research Memo(6):民間設備投資が回復し、基礎事業が好調。技術開発も順調に進む
■業績動向
1. 2023年3月期第3半期の業績概要
日本ヒューム<5262>の2023年3月期第3四半期の連結業績は、売上高で前年同期比6.6%増の23,008百万円、営業利益で同24.8%減の741百万円、経常利益で同8.9%減の1,669百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益で同10.3%減の1,359百万円となった。公共投資に関しては2024年度以降の防衛費増額等を控え若干低調に推移したものの、民間の設備投資に関しては持ち直しの動きが見られた。またコロナ禍の影響が薄れ社会経済活動が再開し、企業の投資意欲が回復した。利益面に関しては、受注競争の激化、原燃材料価格の高騰などの影響を受け、前年同期を下回った。
事業別では、基礎事業の売上高が14,450百万円(前年同期比14.7%増)、営業利益が296百万円(同90.5%増)と好調となった。新工場建設など、民間企業の投資意欲が活発になる中で、コンクリートパイルの出荷が順調に進み、増収となった。利益面は、増収による増益に加えて販売価格の改定も寄与し、営業利益は急伸した。
下水道関連事業は、売上高が7,437百万円(前年同期比5.5%減)、営業利益が1,014百万円(同24.4%減)となった。防災・減災・国土強靭化対策に向けた高付加価値製品である「合成鋼管1・2・5・6種管」が出荷実績に寄与し始めたことに加えて、近年注目されている高速道路等の老朽化対策・急速施工を可能とする「EMC壁高欄」の出荷が順調に推移したものの、公共投資が若干低調になりヒューム管の需要が前年同期を下回るなど、厳しい事業環境となった。製品受注構成の変化も利益を押し下げた。この点に関しては、2023年3月期第4四半期に高付加価値製品の受注が増加することが見込まれており、期末に向けて利益が積み上がることが見込まれる。高付加価値製品の納入先である官公庁が、年度末に向けて発注を増やす傾向にあるためだ。
2. プレキャストコンクリート製品化への取り組み
国土交通省が提唱する「i-Construction」では建設現場の生産性向上を目的に、少子高齢化による建設熟練労働者不足、働き方改革による労働時間短縮等の社会環境変化に対応すべく、建設現場においてプレキャストコンクリート製品のニーズが着実に伸びてきた。施工現場において現場打からプレキャスト化を図ることは、工期短縮効果、働き方改革への寄与、安全性向上の効果が期待できる。同社も様々なプレキャストコンクリート製品を提案し提供してきた。
(1) PCウェル
PCウェル工法は、工場製作した鉄筋コンクリート造の単体ブロックを、施工地点にて接続・一体化し、内部をハンマグラブなどにより掘削・排土しながら、グランドアンカーなどを反力として圧入・沈設する工法である。同社が提供するPCウェル工法は、次の特長がある。1)工場製作のプレキャスト部材で、品質管理が充分に行われているため、信頼性の高い基礎躯体として完成後における設計断面が必ず確保できる。2)施工管理が容易である。3)給排水や脱水設備等の特別な設備が不要なため、わずかな占有面積で施工が可能。4)中掘圧入式施工(油圧圧入沈設併用)のため、周辺地盤のゆるみや崩壊を防止でき、近接施工に適している。5)低振動・低騒音でスムーズな施工が可能。6)施工時において泥水を使用しないため、地下水・河川・市街地等への環境汚染が発生しない。7)水上施工の場合、仮締切、築島などを必要としない。8)施工精度が優れている。9)工期が短縮できる。同社では、出荷が順調に推移しており、収益に寄与している。
建設現場の人手不足、技能者不足が問題となっており、省力化や工期短縮など生産性向上が重点課題となっている。「PCウェル工法」は開発以来多くの実績があり、建設現場の人手不足や社会インフラの老朽化など建設市場の抱える様々な課題解決に貢献してきた。国土交通省が提唱する「i-Construction」でも建設現場の生産性向上が至上命題となっており、省力化や工期短縮を実現する同工法にますます注目が高まりそうだ。
(2) EMC壁高欄
「EMC壁高欄(Easy Maintenance and Construction)」は施工性の向上・工期短縮、高耐久、維持管理の向上を目的としたプレキャスト壁高欄である。床板との接合は床板から突出したアンカーボルトに接合する。部材間の接合はボルト接合のため、施工時間の短縮が図れるとともに、損傷時容易に交換ができる維持管理性に優れた構造である。ボルト類も防錆処理を施しているため、高強度かつ耐久性にも優れた製品である。
(3) 「クイック壁高欄」
「クイック壁高欄」は、施工スピードと耐久性の向上を図ったプレキャスト壁高欄である。床板との接合は床板から突出したアンカーボルトに壁部材のブロックを被せ、無収縮モルタルを充填して完了する。これにより、シンプルな接合構造によって急速施工を実現する。また、劣化因子の侵入を抑制するため路面排水が浸透しにくい高さに床板との接合を設けることで、耐久性の向上を図った。材料も耐久性向上を考慮し、鉄筋はすべてエポキシ樹脂塗装を行い、コンクリート材料は高炉スラグ微粉末を45%置換した。急速施工と高耐久性に優れた製品である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
《SI》
提供:フィスコ