マスクを、人工呼吸器を――対コロナ最終兵器「3Dプリンター」関連株 <株探トップ特集>
―医療危機を救え、器具不足解消へ関連銘柄に脚光―
安倍首相は7日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部で特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。同日夜に開かれた記者会見では、都市部を中心に感染者が増加している現状を踏まえ「医療現場はまさに危機的な状況にある」と指摘。医療現場を守るため、医療物資を国内で増産していることを明らかにするとともに、異業種の力も借りて更に提供体制を強化すると述べた。こうしたなか、差し迫った医療器具・物資の不足を解消する手段として、デジタルデータから立体物を造形できる「3Dプリンター」への関心が高まっている。
●人工呼吸器の3Dデータを無償提供
不足が懸念されている医療器具のひとつが、肺炎の症状が悪化した場合に使用される人工呼吸器 だ。梶山経済産業大臣と加藤厚生労働大臣は7日、経済界のトップと会談し、人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」の増産に向けた協力を要請。同日に閣議決定した緊急経済対策には、生産設備を新たに導入する企業への補助が盛り込まれた。既にテルモ <4543> や日本光電工業 <6849> といった各メーカーは供給体制の強化に動き出しているが、早期に増産体制を敷くのは容易ではない。
そこで注目されるのが、簡易人工呼吸器を3Dプリンターで作製する取り組みだ。広島大学の木阪智彦准教授と国立病院機構新潟病院の石北直之医師らはこのほど、3Dプリンターで製造する人工呼吸器モデルの研究成果とモデル製造のためのデータを無償で提供するプロジェクトをスタート。実用化に向けた資金提供や人的な協力を呼び掛けている。この3D人工呼吸器は電源不要(手動でも操作可能)で、4つの部品(ボディ、弁、螺旋バネ、圧力調節ねじ)から構成されており、プリント後に組み合わせて使用。全パーツを3Dプリンターで作れるようABS樹脂製としており、実用化されれば医療現場の大きな力になると期待されている。
●マスクやフェイスシールドを製作する動きも
このほか、トヨタ自動車 <7203> は7日、不足する医療用フェイスシールドを試作型や3Dプリンターなどで製作し、医療機関に提供すると発表した。週500~600個程度から生産を開始する予定で、グループ企業でも生産が可能かどうかも検討しているという。また、3Dプリンター事業などを手掛けるイグアス(川崎市)は3月、顔の輪郭を3Dスキャナーなどでスキャンして設計した繰り返し利用可能な独自のマスクを開発。オリジナルで製作したマスクの設計データを無償で公開している。医療分野では以前から3Dプリンターで作製した臓器立体モデルによる手術支援や歯科医療などで活用されてきたが、新型コロナウイルス感染者の増加による医療器具・物資の不足をきっかけに関連銘柄の注目度は一段と高まりそうだ。
●注目度高まる医療分野
JMC <5704> [東証M]は、3Dプリンター出力(光造形方式、粉末焼結方式、粉末固着方式、インクジェット方式)、鋳造、CT(コンピュータ断層撮影)スキャン、医療モデル作製のサービスを展開し、商品開発時の試作品や適量・少量生産を手掛けている。医療機関で撮影されたCT及びMRI(磁気共鳴画像診断装置)データから製作された患者の骨や臓器の実体モデルは、医師のシミュレーションや手術の模擬練習などで使われている。
ローランド ディー.ジー. <6789> はインクジェットプリンターやカッティングマシン、3次元切削加工機などを製造販売しているほか、2017年には歯科用3Dプリンター「DWP-80S」と歯科用ミリングマシン「DWX-52DC」を発売。DWP-80Sは、入れ歯の製作工程で必要とされる歯や口腔内の形状に合わせた3種類の型(カスタムトレー、ベースプレート、フレームワーク)を造形することが可能だ。
リコー <7752> は20年以上にわたって、ものづくりの現場で3Dプリンターを活用してきた実績があるのが強み。米ヒューレット・パッカード(HP)製をはじめ多くのメーカーを取り扱っている。医療分野では18年に理化学研究所と共同で高い強度と骨置換性を持つ人工骨を3Dプリンターで製作する手法を開発したほか、細胞を生きたまま高解像度に積層可能なインクジェット方式のバイオプリント技術を持つ。
MUTOHホールディングス <7999> 傘下の武藤工業は、アイデアをかたちにするデスクトップモデル、高精度な造形を可能にするプロフェッショナルモデル、高いコストパフォーマンスを発揮するプロダクトモデルまで幅広い領域で製品をラインアップ。3Dソリューションサービスでは住宅プレゼン用の建築模型や機械部品などの試作サンプル、医療用生体レプリカなどの要望に応える3Dプリントサービスを提供している。
●アンドール、新東工業などにも注目
これ以外では、19年に3Dプリンター事業を手掛ける米カーボン社に追加出資したJSR <4185> 、3Dデータの作成から3Dプリンターでの造形までを一貫してサポートするアンドール <4640> [JQ]、金属3Dプリンターを販売するソディック <6143> 、17年にフランスのセラミックス3Dプリンターメーカーをグループ化した新東工業 <6339> 、UV硬化インクジェット方式の3Dプリンターなどを展開するミマキエンジニアリング <6638> 、独自の3Dプリンター造形サービスなどを提供するアルテック <9972> にも注目したい。
株探ニュース