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【特集】トランプ・ラリーに乗るのは得策か? 米大統領選後の株式市場の風景<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

大山季之(松井証券マーケットアナリスト)

◆実は無党派層が3人にひとり、大混戦を生んだアメリカ人の民意

 全世界の注目を集めた米大統領選挙。ドナルド・トランプ前大統領の再任が確定したが、今回は選挙直前までどちらが勝つか分からない史上まれに見る混戦となった。まず、なぜこうした状況が生まれたのかを冷静に考えてみると、アメリカには日本人が想像する以上に、いわゆる無党派層が多いことが背景にある。2大政党制が確立しているアメリカは、国民の多くが民主党、共和党のどちらかを支持しているというイメージを持つ人が少なくないと思うが、実は国民の3分の1は支持政党を特に決めていない。この分布は白人、黒人、ヒスパニックといった人種、北部や南部といった地域、そして年齢、性別を問わずに言えることなのだ。

 だからこそ、両候補とも大衆人気の高いタレントや著名人の支持を大々的にアピールしたわけだが、今回の大統領選では、この無党派層の動きが最後の最後まで読めないという状況が続いた。結果としてこの無党派層の票の過半がトランプ氏に流れたわけだ。では、大きなイベントを通過したアメリカの株式マーケットはどのように動いていくのだろうか。

 選挙前から言われていたのは、どちらの候補が勝っても、財政のばらまきによって金利は上昇していかざるを得ないだろうということだった。両候補の政策を整理すると、超党派の米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会」によれば、トランプ勝利なら、今後10年間で財政赤字は7兆5000億ドル拡大し、ハリス勝利でも赤字が3兆5000億ドル増加すると試算され、どちらの候補が勝っても完全に歳出超過が見込まれていたのだ。したがって、財政不安が高まり、金利の上昇、ドル安、株安へと転じていく。こうしたリスクシナリオは持っていたほうがいい、という意見が少なくないマーケット関係者から出ていた。

 ところが足もとでは、長期金利が上昇しつつある中で、株価も上昇し、ドルも上昇、さらに金価格も上昇するという状況が続いていた。本来なら逆相関の関係を持つ金利と株価、株価と金価格が同じ方向に動いていくちぐはぐさに、「こんな状態が長く続くわけはないだろう」という見方が少なからず出ていたし、私自身も正直、そう考える。

◆ラリーで有効なのはトランプ銘柄とハリス銘柄のハイブリッド

 ところで、トランプ氏勝利を受けて、株式市場ではすでに「トランプ・ラリー」が始まっている。このマーケットの流れをどう捉えればいいのだろうか。前回のコラムで、大統領選と併せて実施された上下両院議員選挙の結果いかんで特定の銘柄やセクターに資金が流入する可能性があると述べた。例えば、共和党がすべてを制する「トリプル・レッド」なら、トランプ氏の政策に基づいた銘柄に資金が流入するだろうし、逆もまた然り、ということだ。だが1カ月経って改めて考えてみると、ことはそう単純ではないことが分かってきた。

 これにはふたつの要因があって、ひとつは大統領選、上下両院選すべてを1党が占めるのはそう簡単ではないということだ。と言うのも、先ほどの無党派層同様に、アメリカ人には一定数、どちらかの党に権力を集中させるのを好まない層が存在している。特に今回のような混戦になると、政治的なリスクヘッジをかけるためにも、敢えて大統領選、上下両院議員選で、バランスを取りたいと考えて投票する層が少なからず存在する。こうした有権者のメンタリティーが、今回の下院議員選挙の混戦に拍車をかけているのだ。

 もうひとつは、銘柄の選定だ。これは両者の対立軸が大きいと言われたエネルギー・セクターで見てみれば分かりやすい。今回の大統領選前は、トランプ銘柄は化石燃料でハリス銘柄はクリーン・エネルギーだと言われていた。だが、実はそう簡単に分けられるものではない。例えば、激戦州のひとつとなったペンシルベニア州には、全米第2位の生産量を誇るマーセラス・シェールガス田がある。クリーン・エネルギー推進派のハリス氏としては、その政策に忠実なら積極的にはシェールガス採掘を推進できないはずだが、同州の雇用への影響を考えればそうも言ってはいられない。

 一方のトランプ氏も、クリーン・エネルギーを疎かにすることはできない。何と言っても、EV(電気自動車)メーカーのテスラ<TSLA>を率いるイーロン・マスク氏がスポンサーになってしまったのだから当然のことだ。しかもラストベルトの中心地とは言え、現在の同州にはEV工場が急増している。つまり現実問題として、大統領選の結果いかんにかかわらず、化石エネルギーとクリーン・エネルギーはハイブリッドで進めていくしかないのだ。

 そう考えれば今後、大統領選後のラリーが続くとしても、選挙前に言われていたような特定銘柄への資金流入は得策ではないように思われる。アメリカ経済の現状を考えれば、シェール革命によってアメリカを先進国唯一の資源輸出国に転換させた化石エネルギーも重要だし、すでに巨大産業に育っているクリーン・エネルギーも重要だからだ。

 したがって、中長期的には今回の大統領選の結果によって資金が流入している銘柄ではなく、むしろ「売られ過ぎてしまった」銘柄に資金を投じることが得策ではないだろうか。もしくは、このセクター全体が成長していくと考えれば、バランスよく分散投資をしていくことも有益だ。その意味で確実な投資対象となりそうなのは、「エネルギー・セレクト・セクターSPDRファンド」<XLE>や、「インベスコ・グローバル・クリーン・エネルギーETF」<PBD>、「インベスコ・ソーラーETF」<TAN>といったエネルギー関連のETFだ。

◆明暗分かれた米国ハイテク企業決算が映すものとは?

 大統領選の話題はこのあたりまでにして、改めて先週末までに発表されたマグニフィセント・セブンなどの米国主要企業の決算についても見ていきたい。まずテスラの2024年7-9月期決算は、EPS(1株利益)が市場予想を大幅に上回り、25年度のガイダンス(業績見込み)も明るい内容で、決算発表翌日、10月24日の株価が20%以上急騰した。今回の好決算は、電動ピックアップ・トラックの販売増が寄与したようだが、それ以上に魅力を感じるのは、以前のコラムでもお伝えした通り、同社のアンドロイド戦略だ。

 現在、アメリカの工場労働者の一人当たり賃金は年間15万ドル前後だと言われているが、3万ドルで人間並みの精緻な作業ができるという同社のロボットが工場に導入されれば、工場の生産性は格段に向上する。25年から自社工場に本格展開すると発表されているが、これがうまくいけば、全米の工場に同社のアンドロイドが導入されるかもしれない。ボラティリティ(株価変動率)の高い同社株の購入タイミングには注意が必要だろうが、中長期的な投資対象としての魅力は、今回の決算でも改めて証明されたと言えるのではないか。

 アルファベット<GOOG>はクラウド・サービスの売上高が前年同期比35%増と市場予想より伸び、アマゾン・ドット・コム<AMZN>もクラウドの営業利益が四半期ごとに順調に伸びていることに加えて、オンラインショップも堅調で、いずれも株価は好感した。半面、ガイダンスでクラウド・サービスの成長鈍化を示唆したマイクロソフト<MSFT>、中国市場で苦戦したアップル<AAPL>は売られ、メタ・プラットフォームズ<META>も好決算であったにも関わらず、先行投資の増加がネガティブに受け止められ、株価は下落している。

 注目の半導体セクターでは、エヌビディア<NVDA>のAI(人工知能)半導体の需要が引き続き拡大する中で、ライバル社の動向が注目されたが、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>の24年7-9月期決算は、市場予想を上回る内容だったものの期待値が大きかった分、物足りなさがあったのか、翌日の株価は大きく下落。インテル<INTC>の24年7-9月期は過去最大の最終赤字に転落したが、逆に期待値が低かった分、黒字回復を示唆した強気のガイダンスを好感して株価は上昇。韓国のデバイス・メーカーでは、サムスン電子の24年7-9月期決算は期待外れに終わり、株価も低迷している一方、SKハイニックスの24年7-9月期は過去最高の四半期利益を叩き出すなど好決算となり、マーケットの評価も高まっている。

 ほかにAI関連で改めて注目したいのは、欧州最大のソフトウェア企業、ドイツのSAP<SAP>だ。同社のクラウド・サービスはIBM<IBM>やオラクル<ORCL>、セールスフォース<CRM>などと同様、最大手3社に次ぐ「ティア2」のポジションにあるが、株価(ADR=米国預託証券)は年初来、着実に上昇し続けている。24年12月期のクラウド・サービスの売上高も前年同期比で24-27%増となる見通しで、ボラティリティの高い米国企業と比較しても、堅実な投資対象と言えるだろう。

 これら企業決算と、決算後のマーケットの反応を見て感じることは、マーケットの期待値と実際の業績との見合いによって、資金の流れが変わっていくということだ。今回、一連の決算で最も評価されたのはアルファベットだったと言えるが、それはアルファベットの株価がビッグ・テックの中では最も割安だったということに尽きる。いま、S&P500種指数<^SPX>構成銘柄の平均PERは最高値圏にあるが、ビッグ・テック各社の中でこれより低いPERはアルファベットだけなのだ。

 メタはアルファベット同様の好決算だったが、前四半期までのリストラ効果が評価され、PERが上昇し、割安感はなくなっていた。8月以降、メタに振り向けられていた資金が、アルファベットやアマゾンに向かったと考えるのが妥当だろう。ビッグ・テックへの投資にも、やはり「買われ過ぎてしまった銘柄を売り、売られ過ぎてしまった銘柄を買う」という逆張り戦略が有効なのだと改めて感じる。

◆2025年、投資の着目点は財務の健全性とEPS
 
 では大統領選という大きなイベントを通過した来年、2025年以降の株式マーケットの風景はどう変わり、その中でどのような投資戦略を採ればいいのだろうか。一時的なラリーは発生するかもしれないが、財政リスクや地政学的なリスクを考えれば、来年以降、24年のように右肩上がりで株価が上昇していくとは思えない。そこで25年へ向けての投資戦略として、現時点では極力、リスクを抑えた投資を心掛けることも必要だと感じる。

 端的に言えば、よりディフェンシブで、高配当なバリュー銘柄もしくは、財務体質や収益性が健全なハイクオリティ企業への投資だ。個別銘柄で言えば、プロクター・アンド・ギャンブル<PG>、ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>といった企業が挙げられるだろう。

 ETFでは「グローバルX高配当優良米国株ETF」<QDIV>、「ファースト・トラスト・バリュー・ライン・ディビデンド・インデックス・ファンド」<FVD>、「Direxionデイリー金鉱株インデックス ブル2倍ETF」<NUGT>などが挙げられる。さらに個人的に注目しているのは、「Tracers (トレーサーズ)S&P500ゴールドプラス」というファンドだ。このファンドはS&P500銘柄と金の双方を投資対象とした、いわばリスクヘッジ型のファンドなのだが、株価と金価格が同時に上昇した今年の成績は抜群で、年初来のパフォーマンスが50%を超えている。

 もうひとつは、当たり前かもしれないが、今後の決算で各企業がEPSを高めることができるかに注目すべきということだ。と言うのも、ブルームバーグが集計したコンセンサスによると、ここ数年、1年後のS&P500構成銘柄のEPS予測値はなだらかに下落し続けていた。それでありながらも株価が上昇していたのは不思議に感じていたし、実際、現在のS&P500構成銘柄のPERは23~24倍と、1年前から比べればかなり割高感がある。この状況が、一部で喧伝されるAIバブル論の根拠ともなっている。だが最近になってこのEPS予測値が上昇に転じたのだ。

 これがハイテク企業を中心としたAI効果によるところなのか、自社株買いの効果なのかは現段階では定かではない。もちろん、想定以上の米国景気の堅調さも背景にあるだろう。だが、今回の決算でおぼろげながら見えてきたのは、企業によってはさらにEPSを高める余地もあるということだ。当然、各企業のEPSが上昇すれば、全体の株価の割高感も薄れていく。24年に膨らんだ期待以上の成果を、利益ベースで出すことができるかどうか。ビッグ・テックをはじめとしたAI関連銘柄への投資戦略を考えるうえでも、この視点はこれまで以上に重要になっていくだろう。

【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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