市場ニュース

戻る
 

【特集】2024年の原油相場に2つの福音、主要中銀は景気に配慮へ<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 今年最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも政策金利は据え置かれたが、タカ派寄りの金融政策見通しは転換した。FOMCメンバーの金利見通しであるドットプロットでは来年の数回の利下げが示唆されたほか、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「利下げのタイミングを協議した」と述べた。「長く我慢しすぎるリスクは認識している」とも語っており、次の段階に向けた対話を始めた可能性が高い。金融政策はデータ次第と繰り返してきたFRBがインフレ指標や雇用指標など、なにをきっかけに判断を変えたのか不明だが、年末の金融市場にハトが舞い降りた。米株式市場でダウ平均株価は過去最高値を更新している。

 先週のFOMCを受けて、米国債利回りは急激に低下した。重い金利負担にあえいでいた家計や企業にとってはクリスマス前に訪れた福音であり、米経済を前向きな方向へ刺激するだろう。来年にかけて物価上昇率が一段と鈍化し、金利コストも低減していくならば、米国を取り巻く不透明感は後退する。米大統領選を控え、不支持率が上昇しているバイデン米大統領にとって追い風となりそうだ。リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の調査によると、年末にかけてバイデン米大統領の不支持率は就任以来の最高水準に接近している。

●金融政策の転換で原油相場は反転か

 タカ派的な米金融政策見通しの転換は、2期目を目指すバイデン米大統領だけでなく、軟調な原油相場にとっても朗報である。世界最大の石油消費国である米国の景気悪化懸念を背景に、世界的な原油の指標であるブレント原油や、ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)は今月にかけて下げが続き、年初から続くレンジ相場に逆戻りしているものの、FRBがインフレ抑制重視から脱却し、景気に配慮する可能性が高まったことは上値の重い原油相場を反転させるだろう。

 先週、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)は政策金利の据え置きを発表した。両中銀はFRBのように利下げ開始を示唆する段階にはないようだが、金融緩和に追随するのは時間の問題ではないか。7-9月期、ユーロ圏国内総生産(GDP)は縮小し、英GDPは前期比±0.0%と景気が低迷していることは明らかであり、中銀が率先して経済を圧迫し、インフレ率を押し下げる段階ではなくなっていると思われる。ユーロ圏鉱工業生産や購買担当者景気指数(PMI)の推移からすると、10-12月期のユーロ圏はすでにリセッション入りしている可能性が高い。

 来年、主要国の中央銀行が足並みを揃えることはないにしても、似たようなタイミングで金融緩和が始まる可能性がある。鈍化している物価上昇率が各国のインフレターゲットまで低下する前に、政策金利の調整が行われるのではないか。パウエルFRB議長が指摘するように、政策金利を高水準に据え置いたまま「長く我慢しすぎるリスク」を世界の金融当局者が認識していると思われる。金融緩和を背景とした金融相場が始まる気配があるなかで、資金はどこへ向かうのか。悲観的な景気見通しに圧迫されてきた原油相場は選択肢の一つとなるだろう。

●石油在庫の減少が相場を後押し

 調査会社ケプラーによると、10月の原油とコンデンセートの海上備蓄が5年ぶりの低水準まで減少したという。同社によると、昨年にかけて中東地域で積み増されていた海上備蓄はほぼ払拭されており、石油輸出国機構(OPEC)プラスが継続している供給制限の効果が現れている。今年の経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫の引き締まりは限定的だが、海上備蓄の減少が一巡すれば、OECD商業在庫が取り崩される局面が来るだろう。この商業在庫の減少は原油高を示唆する。2024年、米金融緩和と石油在庫の減少という大きな後押しが原油相場を上方向へ刺激する可能性が高い。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均