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【特集】世界最大の産油・消費国、米国は混乱の中心地となるか? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●ウクライナ軍事支援の余力が少ない米国

 ロシアがウクライナに侵攻を開始してから来年2月で2年が経過するなか、まもなく両国が停戦を迎えるとの観測が高まっている。ウクライナに対して米国を中心に膨大な支援を行ってきたが、西側に軍備や資金的な余裕がなくなっていることが背景だ。ロシアが特別軍事作戦の目的であるウクライナの非軍事化やナチズムの排除などを達成したのかどうか不明であるが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国による軍事支援が途切れるとウクライナの非軍事化は自動的に達成されるだろう。

 ロシアとウクライナの軍事衝突が始まってから、米国はウクライナに対して軍事的に450億ドル規模の支援を実施したとの報道がある。金融や人道的な資金援助を加えると支援規模はさらに膨大だ。ウクライナ政府は米国に対して、ロシアに勝利するためには総額で3500億ドルから4000億ドル必要と主張しているようだが、米国にその余力はないことは明らかである。

 イスラエルがパレスチナのガザ地区に軍事侵攻を開始してから、米国のウクライナ支援額は減少しており、米国にとってウクライナは二の次となった。最優先はイスラエルである。イスラエル軍はガザ北部だけでなく、南部に対する攻撃も強めており、ガザ地区全域を完全に更地に戻すまで軍事行動を続けるような雰囲気さえある。ガザ地区におけるパレスチナ人の死者数が2万人に迫ろうとしているなか、米政府はイスラエルに停戦を促しているようだが、終わりはまだ見えていない。

 バイデン米政権は議会に対して、ウクライナやイスラエルを支援するため1000億ドル規模の緊急予算を要求しているものの、この予算案は審議入りするのか不透明である。今年10月にかけて米国債利回りが乱高下しつつ上昇した背景は米国債の増発であり、追加支援には慎重にならざるを得ない。足元の米国債利回りは多少落ち着いたが、世界が多極化するなかで米国離れ、ドル離れが進展しているため、高水準の米利回りが誘蛾灯のように以前ほど投資家を惹き付けることはないだろう。今月、ドルの代替資産である金相場が過去最高値を更新したことは米国にとっては不穏な兆候だ。

●米国の撤退は市況に混乱を招く

 先週、バイデン米大統領はウクライナ支援の継続について世界が注目していると述べている。米国が支援しなければ他の国はどうするのだろうか、日本は、主要7ヵ国(G7)は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国はどうするのかと、バイデン大統領は記者団に問いかけた。米国が支援を停止すれば、米国やNATOなど西側はウクライナにおける代理戦争で敗北する。

 米国の敗戦が確定することから支援停止はバイデン政権の選択肢にはないとしても、現実は変えられない。敗北を認めなければ敗北ではないかもしれないが、来年の米大統領選に向けてウクライナに資金供給など支援を続けることはおそらく不可能だ。バイデン政権は追い詰められている。ウクライナ侵攻を開始したロシアに対して、西側各国が一気呵成に様々な制裁を繰り出した時期はあったものの、ロシアはほとんど弱っておらず、敗戦処理のかたちを模索する段階に入っている。この期に及んで、米主力戦車のM1エイブラムスは最前線に投入されるのだろうか。

 2021年、アフガニスタンから撤退する米軍の姿は、世界を凍りつかせるほど無様だった。来年、世界はウクライナ戦争に関する米国の見通しの甘さや、敗北を認識できるだろうか。バイデン政権は出口を取り繕うことができるだろうか。

 BRICSの勢力が拡大して世界が多極化するなか、米国が醜態を繰り返すと、基軸通貨であるドルは揺らぐに違いない。米国債市場がまた不安定化し、ドル相場の揺れが激しくなれば、世界最大の産油国であり、石油消費国である米国は混乱の中心地となるだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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